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一四話 『水蛇事件』 其之六

「はぁ…はぁ…。皆さん、大丈夫ですか?」

「はい、隊長」「狂信者の次は構成員…」「その次は如何物とは」「もっと大規模な、小隊規模で作戦を行う可きでしたね」

 臨時芯鉄分隊は迫りくる如何物の波を蹴散らしながらも、流石に連戦が堪え始めていた。

みどり様たちは…どうしているのでしょうか」

「あの方々、常識外れに強いので、なんとかしているで―――」

「オラァ!!生きてるかヒイラギと芯鉄しんてつ分隊!!」

 壁を突き破り襲撃してきたのはモミジ班で。

「シャクナゲ!薙ぎ払え、出来んだろ!?」

「勿論。亡名流むめいりゅう抜刀剣術ばっとうけんじゅつのならい玉石同裁ぎょくせきどうさい』、草剪くさなぎ

 カチャリ、つばを鳴らしたヤナギは刀を横へ寝かせて、刀を引き抜き屋敷の一部ごと切り裂いた。

「なんか、俺より強くないか?」

「寝ても覚めても刀と天冥のことしか考えていない馬鹿者故」

「まあいいや」

「ご無事でしたか」

「ああ。そこらかしこに如何物だらけ、なんなら屋敷の外にもいるがどうする?」

「…どの範囲まで被害が広がっているか確認してほしいのですが」

領解りょうかい。ヒイラギは軍務に連絡を取ってくれ」

「はっ!承知しました」

「ヤナギとシャクナゲはこっちに加勢してやれ」

 きびすを返したモミジは視線を切ると同時に小翼竜へと姿を変え、力強く羽撃はばたいて上空へと行く。

(げぇ…、周辺だけじゃなく、方々で被害が出ている。……、断層のある冒険街周辺と違って、中央区画は防御は警察局のみ、軍務局が動き出すには時間が掛かるだろうから…、…まずいな)

 くるりと宙返りしたモミジは直下で飛び降りて、廊下を突き進んでから限々で姿を変える。

「この周辺だけじゃない、あちらこちらで被害が出てる!」

「軍務も動き始めたみたいです」

「早いな!?」

「イヌマキ様からなにか起こるかもしれないと御連絡があったらしく」

「そういうな…。まあいい、俺は単体で動きたいんだが、良いか?」

「私は構いませんが。」

「私とシャクナゲも問題ありません、屋敷の掃討でもしていますよ」

「え゛?」

「面倒なのが残っているかもしれませんよ?」

「まあそうか。良かろう」

「よし、そいじゃ俺は出るぜ!」

 モミジは小さく手を振り彼らの武運を祈ってから踵を返した。

「行ってしまった…はぁ…」

「当方らが此処を治める故、芯鉄分隊は周囲への対処をお願い仕る」

「有難う御座います。それではこちらをお願いします」

 一度腰を折ったヒイラギは分隊を引き連れて屋敷の外に跋扈する如何物対処へと乗り出す。

「シャクナゲ、逃した分だけ情報を集めますよ」

「承知した」


 翼膜の鱗から魔力を噴出し急加速を行ったモミジは、自身に必要な姿を思い描き銀の瞳を輝かせる。

(機動力を持ち、如何物への有効打もある、…いやもう人の姿でなくてもいい。兄貴の戴冠式で龍の姿になったんだ、民のために俺の権威を使ってみせろ!)

 モミジは先のキンカンの姿を思い描き、人に近い龍へと変化していく。全身に鱗を持ち、二本の腕と二本の足を備え、一対の翼を広げる全長一〇間六尺2メートルの人龍になった。

(銅脈者扉から、物も取り出せる。詠唱は)

「『龍装騎兵ドラグニックドラグーン其始式マーク・プリミティブ造装顕現ぞうそうけんげん』。イケルナ」

 人龍は全身鎧で自身を覆い、片手には霰弾魔導銃を手に持ち高度を落として人を襲おうとしている如何物を撃ち殺す。

「龍が、助けてくれた?」

(…少し指が太いか?刀は短く思えるが、間合いに問題はない。………、俺一人じゃ限界があるが、やれることをやる。兄貴と兄貴と治めるこの国の為にな!)


―――


「なんだってんだよ朝っぱらからよ!?」

「ナギナタガヤさんヤバいです、彼方此方から如何物が溢れて来まして!」

「あああん!?何処からだ!?」

「多分ですけど地下道から。ただ…それらしい形跡はなかった筈なんですが」

「しゃーない、おれたも冒険者組合の下部組織、如何物退治に出るぞ!」

「応!!」

(あいつらが失敗しくじったか?)

「さっさと全員叩き起こせ!!」

 バレイショ区の『溝鼠』は逸早く動き出す。


「クリサくん!?外に如何物が!!」

「ええ、先程見ました。私が出るのでアケビさんは待機してて問題ないよ」

「いや、魔導鎧があるんだ。私も出るぞ!」

「…………。待ってて欲しいんだけどねぇ…」

 溜息を吐き出したクリサは仕方ないと言わんばかりに魔晶を手渡し、冒険者として長い間使ってきた杖を担ぐ。

「行こうか」

「ああ!」

「「『鎧装術師ウィザーズ数打零式ナンバー・ゼロ、造装顕現』」」

 全身鎧に身を包んだ二人は八弓研究所を出て、混乱の渦中へと突っ込んでいく。


(市街地戦だと魔晶砲は使えない。ちょっと残念だけど)

 里島さとじま工房の屋根上からハトムギは狙撃魔導銃を覗き込み、引き金に力を込めて魔力弾を射出する。寸分違わず如何物の頭に風穴を空け、次の魔晶弾を装填し次弾を放つ。

「五代目、倉庫の魔晶弾持ってきましたよ」

「置いといて。残りどれくらいある?」

「今置いたのも含めて五〇発くらい、狙撃魔導銃なんて流行ってませんから」

「遊べないじゃん、全然」

「緊急事態なんですよ、遊ばないで下さい。………というか、この状況をいきなり作り出せるって、水蛇はどういう」

「わかんないし。…わかんないから頭にくる。クラバにも太い情報筋があるみたいだし」

 不満そうなハトムギは次々と如何物を撃ち抜く。


「陛下」

「何だ何だ!如何物騒ぎは既に聞いているぞ!?」

「都陽前上空に武装した翼竜が現れ、次々と如何物の対処を行っていると報告が上がってきました。これはもしかしなくとも…」

「……。うぅ…後処理が…、どういう理由付けをする?いや、もういい、モミジが祝福してくれているからの奇跡とでも宣うとしよう、もうどうとでもなれ!」

「私も適切な意見を申し上げることは出来ませんが、…王家の権威を落とさぬためにも利用してしまいましょう。モミジ殿下とサクラ殿下の婚姻も含め」

「ああ。…被害状況はどうなっている?」

「多方面で通信の魔導具を使用している為、混線状態に陥り情報が上がり難くなっておりますが、…有志の冒険者や名家の私兵、一部魔導具を使える者たちが決起し対処にあたってくれているみたく被害は軽微、決定的な大損害は避けられております」

「成る程。即急な鎮圧の為、使えるものは何でも使え」

「はい」

(ヘマはするなよ、モミジ)

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