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一四話 『水蛇事件』 其之七

 地上で有志の国民と如何物いかものの戦闘を発見したモミジは急ぎ高度を落としては、速度のまま逆手に持った刀で如何物を真っ二つに斬り裂き、翼を大きく広げて速度を殺す。

 そのまま前転でもするかの勢いで身体を捻り、真っ逆様の状態で霰弾銃撃を行う。

 もう一回転して正面を向いては翼を折り畳み、六本脚の大虎に斬り込む。

 ギィィン、と長い牙で刃を受け止められるも、口の中へ銃身を突っ込み二連射。体内から魔力弾が貫通していき死骸が横たわる。

(数が多い、これだけの輸送をどうやって行った?…あの断層を作り出した白い杖、そして星の緒、分からないことだらけだ)

 死骸から魔導銃を引き抜き、蓮根弾倉から魔晶滓捨て再装填をしていると、後方から人が躙り寄ってきてモミジが振り返る。

「お前は、何者だ!?如何物なのか!?」

「俺ハ通リスガリノ龍ダ。動ケル者デ如何物ノ対処ヲシ、戦エヌ者ヲ避難サセロ」

 バサリと翼を広げれば、如何物と戦っていた者達は固唾を飲み込み、きびすを返して住民の避難を行う。

「此処ニモイタカ、狂信者共」

「まさか龍が邪魔をするとは、難儀な時代というお言葉にも納得です。然し、然し!我々はこの世界を正しき姿に戻さねばならない!!」

「聞キ飽キタ」

 容赦なく銃口を向けたモミジは、引き金を引いて狂信者たちを肉塊へと変えていくのだが、数人の身体が変容していき空へと羽撃はばたいた。

 狂信者の数人は、目が複眼となり、口には獰猛さを感じる牙、背中には透明な翅が二対四枚広がり、忙しなく動かしては自由な機動で宙を舞う。

はえ蜻蛉とんぼか)

 追従するようにモミジも地上を離れると、弾幕のように小さな虫が迫りきて、直感的に急加速を行うのだが、数匹が身体に取り付いており鋭い牙を翼膜に突き立てた。

「ッ!?クソ!」

 バサバサと羽撃き、飛び来る虫を落としながら、方向転換し狂信者へ銃口を向けるのだが、翼竜や一般的な鳥類とは違った独自の動きに翻弄され狙いが定まらない。

「我ら空洞衆くうどうしゅうに敵うものか」

「中身ノ無イ、伽藍洞からっぽ連中ッテ自己紹介カヨ。哀レダナ」

「ッ!!」

 顔をしかめて攻撃を強める姿を鼻で笑いながら、遊蛍あそびほたるを一発撃ってから引き金を戻さずに蓮根弾倉へと手を添えて、勢いよく回転させる。

 全装填数が四発とは思えない程に乱射され、狂信者の一人が蜂の巣にされて地上へ激突、赤黒いな花を咲かせた。

 銅脈者扉を利用した無理繰りの再装填と、魔導板を押し込み続け魔力が流れることを利用した超連射。そこから繰り出される暴風雨も真っ青な弾幕に、もう一人も堕ちていった。

 この一連の攻撃を見た狂信者たちは、虫の一部を防御へ回しモミジの軌道を予想して設置する戦略へと変えてい。

(大分動きやすくなったが、虫を盾にされるのは面倒だし霰弾も弾切れ。ぶっつけ本番ではあるが…魔晶砲を使うか)

 最低限の移動で虫からの攻撃を避けれるようになったのを機転に、モミジは魔晶砲『重甲おもりかぶと』を取り出して角度の調整を行い発射する。

 今までの魔力弾とは異なり、自由の影響で弧を描くそれが虫の壁に命中すれば、魔力爆発を引き起こし纏めて虫が吹き飛んでいく。

 こうなると狂信者たちは下手に虫の壁を作れなくなるのだが、軌道追撃に切り替えるとモミジは霰弾魔導銃へと切り替えるため、狂信者は翻弄され始めた。

(足並みが揃わなくなってきた今か)

 相手の高所を取ったモミジは刀を担ぐように構えて、狂信者へ向けて急行落下、頭から尾へと縦一文字に真っ二つに切り裂いたのである。

(俺への追撃が甘すぎるし防壁も軽い、此処まで来たならば!)

 落下の勢いを加速に変え水平飛行へ移ってから背面宙返旋回インメルマンターン、見事に反転しつつ再び高所を取り戻す事に成功。次の獲物目掛けて再加速を行う。

「クラエエエエ!!」

「来るなぁあぁああ!!」

 虫を盾に防壁を構築し迎撃するも、身体そのものは鎧に覆われ翼膜に傷をつける程度、そもそも密度が足りていない。脳天かち割りで処理した後に水平飛行で四半分横旋回を行って、最後の狂信者の上半身と下半身に別れを伝えた。

(ああ、クソ。虫がウザい)

 本体は死骸と成り果てても、攻撃手段たる虫は活動を続けているらしく、刀を振り回して処理し次の相手へ向かっていく。


―――


 時は昼過ぎ。

 一時いっときの休みもなく戦闘行為を行っていたモミジは、大通りに降り立ち大きく息を吐き出しながら魔導鎧を剥がせば、明るめの茶色い鱗が露わになり、鱗の隙間から水蒸気が噴出される。

「ハァ…ハァ…」

(この身体…汗で体温調整が出来ないから、魔導鎧を付けっぱなしだと体温が下げられないな…。水が欲しいが…)

 水路へと視線を向けるも、生活排水混じりの水を飲むような生活をしてきていなかったモミジには抵抗があり、「グルル…」と喉を鳴らす。

「おーい、龍殿!大丈夫ですか!?」

 短杖と短刀を構えている姿を見るに冒険者と思しき中年の男は、怖じること無く人龍態のモミジへ近づき様子を伺う。

「水ヲ…貰エルカ?喉ガ渇イタ」

「水か!任せてくれ!おーい、水だって!」

「おう!」

 少し待っていれば仲間と思しき男が水桶いっぱいに水を運んできて、モミジの前へ置く。一礼もせず受け取り貪るように水を飲み干してしまえば、二人の男は目を点にして驚いていた。

「助カッタ、コレデ戦エル」

「ご武運を!」「有難う御座います」

「アンタラハ無理ヲスルナ、イザトナッタラ避難シロ」

「お、おう」

 意外な言葉に驚きを見せた二人だが、魔導鎧を纏ったモミジを見ては一礼し飛び去る姿を見送ってから、自身らも如何物退治へと戻っていく。

(民を救っている心算が、救われてしまったな)


―――


「おりゃりゃりゃー!!装甲術師のお通りだよ!!」

 バシュンバシュンと霰弾銃を連射し戦闘を突き進むアケビに。

「『光参きんこ』。アケビさん、前に出過ぎだよ」

 クリサが彼女を光の魔法で援護して突き進む。

「ややっ、すまない!魔法戦の基本いろはは忘れてしまってね」

「然し…この辺の工房街に如何物が多く出すぎている。撤退も視野に入れないと」

「此処にすべてがあるとは言わないけども、要であることは確実。限々までの対処に協力したい」

「冒険者の私から見ても、もう限々というか。……ほら囲まれそうだ、あっちに退こう」

「わかったよ、……あっちにもいるぞ!?」

 退路の先にも如何物が道を塞いでおりクリサが眉を曇らせると同時に、複数体の相手を貫く魔力弾が放たれて道を作り出す。

「協力する。このまま進めば里島工房の皆がいるから」

「承知した!」「助かります!」

 ハトムギが屋上を軽々飛び移り、二人の退路を作るように援護射撃を行う。

(あの鎧、魔力鎧ってやつだ。…八弓研究所ってところが開発してた、軍務局や警察局の新装備。…鎧は興味ないけど、後で聞いてみようかな)

 最後の一発を放てば退路が完成し、簡易的な武装をした里島工房の面々と二人が合流できた。

「ありがとう!助かったよ、屋上の君!」

「どういたしまして。…よっと、私は里島工房の開発主任……モチムギ。二人は八弓研究所の人?」

「ああそうだ!私がアケビ=八弓で、彼が婚約者のクリサンセマム」

「どうも。……、モチムギさん何処かで会いましたかね?見たことある気がするのですが…」

「工房が近くだから。多分会ってる」

「そうですか。ご近所同士、よろしくお願いします」

(『秋の三日月』のクリサンセマム。不寝飲屋で一回見かけたっけ)

「ご、主任。この後はどうします?」

「軍務局が向かってきてるから、もう少しだけ時間を稼ぎたい。此処ら一帯はなんとしても守らないと」

「領解。里島工房の底力見せてやりますよ、皆さん」

「「「おー!」」」

 里島工房の面々はどうにも頼りになる風体には見えないのだが、魔導銃を構えて動き出せばそこそこの実力があるようで、アケビとクリサも交えて防戦をする程度には問題ない。とはえい一歩たりとも先へ進むことが敵わない物量であり、魔晶弾の尽き目が戦闘の終わりを意味している。


 暫くしてそろそろ撤退をしようという頃合い。風変わりな影が足元を抜けていったかと思えば、敵集団へと魔晶砲が撃ち込まれ舗装道路ごと吹き飛ばし、人龍が降り立つ。

「逃ゲ遅レタノカ?殿ヲ買ッテヤルカラ、早ク避難シロ」

 モミジ、コウヨウ、クラバ、三つの名前が出掛かる彼を知る三人だが、互いに互いが本来の姿を知る勢力だと知らないので言葉を飲み込み、慎重に言葉を選ぶ。

「龍が、助けてくれるのですか?」

「アア、龍人ノ盾デアリ鉾トシテ参ッタ。……、マダ来ルカ『大イナル騒乱そうらんノ風ヨ、風颶戴天ふうぐたいてん』」

 瞬時に杖を取り出したモミジは、風魔法で如何物の一群を切り刻んでから向き直り、里島工房の面々が持つ魔導銃に視線を移す。

「撤退ノ手伝イヲスルカラ、魔導銃ヲ貸シテ欲シイ。魔晶弾モ」

 妙に魔導銃文化に詳しい龍の爆誕である。里島工房の、事情を詳しく知らない面々は、口をポカンと開け放って放心しているので、ハトムギが言葉を紡ぎ。

「もう既に弾切れ寸前。貸せるだけの物はない。…残念ながら」

「ソウダッタカ。ナラバ早ク避難セヨ、守リナガラ戦ウダケノ余裕ハナイゾ」

「そうだね、分かったよ。クリサくん里島工房の皆さん、早めに避難して彼の龍の足手まといにならないようにしよう!」

「お、おう!」「そうですね!」

「…ご武運を」

 クリサへ肯きを返したモミジは刀と杖を手に宙を舞い、上空から如何物たちを蹴散らしていく。

(うちの魔導鎧、龍に着せることもできるんだね)

(アケビさん…そういう話しは落ち着いてからにしましょう…。気持ちは分かりますが…)

(もっと間近で見たかったよ…)

 密々と話しをする二人には目もくれず、ハトムギは屋根伝いに移動しつつ、モミジの戦闘を目に焼き付ける。上空から真下に撃ち下ろす魔晶砲の威力や、その有用性を確かめるため。


 工房街を守る為、モミジが飛び回っていれば小さな町工場の一角で蹲り、震える若者の姿が一つ。

(逃げ遅れか。周囲はある程度処理を終えているが…、怪我をしていた場合、出血などで命を落とすかもしれんな)

 すぅーっと滑空し近くに降り立てば、若者というよりは少年というのに近い姿。

「逃ゲ遅レタノカ?」

「りゅ、龍!?」

「龍ダ。避難ヲ手伝ッテヤル。怪我ハナイカ?」

「怪我は…ありません。…ただ腰が抜けちゃって」

 良かったと安堵し、モミジは両手を広げて自身に抱きつくよう指示を出す。すると恐る恐るではあるが少年はモミジへと手を回し、ほっと一息を吐き出した。

「俺モ掴ムガ、アンタモ手ヲ離スナ」

「わかり、まし――――ッ!?」

 返答を聞き終わる前にモミジは羽撃き大空の旅へと駆り出す。その後、クリサら一行へと少年を預け、陽前軍が到着したことを確認してから別の場所へと移っていく。

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