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一四話 『水蛇事件』 其之八

さて断層歩だんそうあるきでようやく上級学園辿り着けました、…此処まで来れば王城までは目と鼻の先と思いましょう。半日を要するとは中々使い勝手の悪い道具ですね)

「予定通り学園のザクロ王太子を狙います。計画を成功へ導くのには、さらなる混乱で時間を稼ぐ必要がありますからね。」

「承知しました」

 蛇の仮面を着けた一同は王族が宿泊する寮舎まで向かっていき、迫りくる護衛の対処を行う。

「断層を開きますよ。正しき世界へ戻す為、全てを天冥へと戻す為に」

「はっ!」

 白き杖を振るえば断層が形成され、内部にいる如何物たちが溢れ出し学園中は混乱へと陥っていく。

「では」

「何者だ!貴様ら!」

「態々目標が出てきてくれるとは、ふふっ活きがいいこと。…確実に仕留めなさい。私は議会と王城へ向かいま――」

 断層が消え去る前にスモモは内部へと入り込もうとするのだが、彼方から一匹の龍、いやモミジが飛来しスモモを蹴飛ばした。

「見ツケタゾ!!!」

「ふふっ、街中の騒ぎは良いのですか?」

「既ニ陽前軍ガ対処シテイル!」

「成る程、然し…疲弊しきったその姿、そしてこの数には及ばないでしょう」

 蹴飛ばされ打ち付けられた筈のスモモは何の問題もないかのように立ち振舞い、モミジが繰り出す剣撃を躱し構成員を充てる。

「それでは、天冥てんめいで」

「『封臥、グッ!邪魔ヲスルナ!!」

 構成員の一人を斬り裂いたモミジは、翼を広げれ宙へ移り杖へと持ち替える。

「『風颶戴天ふうぐたいてん』!!」

 如何物ごと風の魔法で斬り裂いたものの、相手の数は中々に多く対処しきれない。

 苛立ちを露わにしていれば、寮舎や校舎の方から侵入者たる水蛇を討つ援護射撃が行われ、モミジは隙を突いていく。

「皆!あの龍を援護しろ!!龍神の遣い、臣龍しんりゅうである!!」

「うおおおおぉぉおお!!」

 ザクロが口走った、モミジを敵として扱われないための嘘に、学園の一同は大いに奮い立ち水蛇連中へと果敢に挑む。

(ありゃ間違いなくモミジだ。…然し何が起きてる?授業自体は行われているが、軍人が出入りして教師も慌ただしい。それにあの女は、…王城と議会とか言ってたか?)

 学園という閉じた環境を憂いながら、ザクロ自身も加勢し如何物の処理を行っていると、狂信者の数名が走り出し彼へ向かう。

(自爆か!ザクロは絶対に奪わせない!!)

 限界まで屈み、翼膜の鱗から魔力噴出を開始したモミジは、自身への被害などお構い無しに飛び出し狂信者を捕らえて詠唱を行うのだが。

「『聖――」

 魔法障壁は間に合う事なくモミジを巻き込み、狂信者達は自爆した。

 狂信者たちの血液で血みどろになった魔導鎧は、全身に罅が入っており吹き飛ばされるモミジから剥がれ消えゆく。

(クソが…!)

 勢いよく吹き飛ばされ、地面を転がったモミジの姿は全身襤褸々々ぼろぼろ。角の片方は半ばで折れ、もう片方も所々で欠け、全身の鱗も所々剥げ落ちて、翼膜は切り裂かれている。

「大丈夫か!?」

「殿下、近づいては!?」

「良いんだよ、俺は!お前らは対処の続きだ!いいな!」

「はっ!」

 大急ぎでモミジへ走り寄ったザクロは、薄っすら開かれた瞼の先に銀の瞳がある事を確かめて、叔父であることを確信。声をかけた。

「モミジ、大丈夫か、おい」

(ザクロ、か。……、口が動いているが、耳鳴りでなんにも聞こえない。…ザクロが無事ならいいか…)

 のっそりと起き上がったモミジは、自身の身体の状況、主に翼の状況を確かめては溜息を吐き出し、蓮根弾倉の魔導拳銃を構えながら崩れ落ちる。

「動くなって!!治癒魔法を使える者は急ぎ臣龍を癒してくれ!!何があったか知らないけども、こんなになるまで…」

(此処までか…?…、いや未だだ、何処も人手不足だし、ザクロを狙ったということは、兄貴を狙ってても不思議じゃない。…兄貴なら、被害のない王城を手薄にしてでも、事態の対処に移らせると思う。なら、)

 立ち上がって翼を広げると、治癒しに来た魔法師たちに当たってしまい、尻もちをつかせてしまった。悪く思い手を差し出せば、怖ず怖ずと立ち上がり、ザクロの表情を伺う魔法師たち。

「此処ハ大丈夫ソウダ、俺ハ急グカラ」

(飛ぶだけなら出来る、空宙戦闘は出来なくとも!)

「待て、何が起きているかは知らんが俺も連れて行け!」

「…?」

 何か怒っている様子のザクロに腕を掴まれ、声を荒らげられるも冴えることのない聴覚のせいで理解できず首を傾げ、耳を指し首を左右に振る。

「耳が聞こえないのか!?尚更治療が必要だろうが…。俺が引き止めるから、無理にでも治療をしてやれ!」

「はい!」

 絶対に離すまいと腕を掴んだザクロに睨めつけられては、無理矢理引き剥がすわけにもいかず、収まりを見せていく戦闘を眺めることにした。

 学園では戦闘魔法も一応のこと教えるため、それなりに戦える者の数が多く。教師の指揮のもと、少しばかり頼りない陣形で対処を行い勝利を収める。

 モミジが奇襲を仕掛け、自爆行動から守った故に数的有利を取ったのも大きいが、やはり教育という最低限の知識付けは偉大なのだろう。

 破れた翼膜や剥がれた鱗は再生しきらぬとも、聴覚は元に戻り全身にあった痛みも引く。

「助カッタ。デハナ」

「待て待て、俺も連れて行け。王城と議会に行くのだろう?俺は役に立つぞ」

「殿下!?」

「議会?」

「面を着けた女は、王城と議会に行くと行っていたぞ」

(この状態、…緊急議会か。兄貴は何処にいる?)

「俺ハ王城ヘ向カウ。議会ハ十分ナ備エガ有ルハズダ」

「議会員の護衛や私兵か」

 モミジは頷く。

「よし、なら王城に行くぞ、臣龍!」

「行クノカ?」

「言ったろ、俺は役に立つ。実力も学園一なんだからな!」

「…ハァ…、イイダロウ。掴マッテイロ」

 周りが静止する声など気にも掛けず、王弟と王太子は空を駆けていく。

「おおお!すっげぇ!飛んでる!!」

「ククッ、舌ヲ噛ムゾ、ザクロ」

 今までのやや威圧感のある声色とは打って変わって、甥っ子を可愛がる、普段のモミジと思える声色にザクロはニィっと口端を持ち上げた。

「噛むもんか。…、んで何が起きてる?」

「大規模ナ無差別攻撃ダ。俺ガ三年クライ追ッテイル相手ノナ」

「モミジの叔父貴が出し抜かれたのか?」

「俺ダケジャナイ、色々ナ者ノ協力モアッタノニ、ダ」

 忸怩じくじたる思いのモミジは、ザクロを抱く握力として彼に伝わり、襤褸々々になってでも対処に出向く理由を理解した。

「無事デイテクレ…」

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