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一四話 『水蛇事件』 其之九

 議会上空を通り過ぎた時、既に水蛇の構成員や狂信者たちは制圧され、如何物も死骸の山と化していた。

 議会場の内部にオオバコの姿が薄っすら見えて、ヒノキの無事は確定だとザクロに伝え、二人は安堵してから王城へと向かう。

 手薄というわけではないが、緊急時にしては軍人の数が少なく、慌しい様子の王城。先ずは砂糖楓宮付近へと降り立って、そそくさと傭えの回収を行った。

「おい…、なんだか物騒な物がいっぱいあるんじゃねえの?」

「兄貴が用意してくれた魔晶を加工して作った、認可品と失敗作だ。あったあった、使うかどうかは別として、俺のお古の魔導銃を持っとけ。弾は五発入る」

 少し前まで使っていた拳銃型の魔導銃。モミジが認可を受けている魔晶弾を用いれば、小型の如何物程度であれば狩れるので、護身具としては十分だろう。

「魔導銃。当然使ったことはないんだが」

「銃口を向けて引き金を引く、それだけ。色々と補充できたし向かうとするか」

「何処に向かうんだ?」

「天日宮だ。ザクロを狙っていた以上、次はミモザの可能性が高い。…騒乱を引き起こすだけなら義姉貴やサクラでもいいが、効果を考えるとな」

「成る程」

「何もなけりゃ空を飛び回って夜通しでも監視を続けるさ」

「……無茶し過ぎじゃないか?」

 モミジの行動を疑問に思うザクロだが、彼の意思が変わる様子はなく。

「心配してくれて悪いが…俺のやりたいように動かせてくれ、今回だけは…」

「はぁあ、俺より年下のくせによー」

「……、俺は。兄貴にも誰にも言ってないことなんだが、俺は何度も生まれ変わりを繰り返しているんだ。…記憶は欠片程度にもないが、確かに何度も生まれ変わっている。だから、同年代よりも意思がしっかりしているし、有り体に言えば大人びている。…未だ未だ子供だけども」

 モミジの独白にザクロは首を傾げ、何度も何度も言葉を繰り返し反芻し理解する。

「全部加算したら何百歳とかになるってことか」

「そういうこと。さっきも言ったが記憶はない、ただの残りっ滓だけどもな」

「祝福の銀眼の影響で早く育っちまったわけじゃないのか」

「多分な。というわけで俺の秘密は誰にも言わないでくれよ」

「へへ、いいぜ」

「…よしっ、いくぞ兄弟。泛駕之馬ほうがのうまが二匹いりゃ悪徒なんぞ一網打尽だ」

「ああ!母上とサクラとミモザを助けに行こう!」


「魔法の基礎は学んでいるとは思うが、火の魔法は周囲への延焼を招く可能性があるから、操作系統を使うのなら風を主とするように。まあザクロなら樹木や金属の生成系統を用いるのがいいな」

「ふむ」

「それとこれ、魔導鎧を渡しておく、後で詠唱を教えるから使え。後…ザクロは剣術を習っている筈だが、俺が前衛を勤めるから後衛を任せる。………、最後に、人は殺すな。お前の手は綺麗であってほしい」

「…、ああ、わかった。わかったよ」

 モミジは青年態へと変身し龍の仮面を着け、ザクロは魔導鎧を纏い、魔導二輪に二人乗りして王城の敷地内を爆走していく。


(襲撃されてるが、現在使用されている四つの離宮全ては俺お手製の魔法障壁が守っているし、警護の面々もそれを理解して正面に戦力を集中させている。…くく、イヌマキにていの良い労働力として扱われ。彼方此方の離宮を手入れしたが役に立つとはな!)

「停めるぞ!」

「おう!」

 ザクロが魔法での射撃をしやすいように車体を曲げて停車すれば、杖を持ったザクロが鉄球を無数に射出して弾幕を張り、モミジは魔導二輪を蔵ってから抜刀剣術の構えを取りながら、彼の護衛に注力する。

 二方向からの挟撃に天日宮を襲撃していた水蛇の面々も驚きを露わにしたのだが、対応は早く布陣を動かして被害を軽減。然し布陣を動かしてしまえば、入口一点からしか攻撃が出来ない離宮へ圧が疎になり、防戦一方だった警護の面々も反攻に乗り出し始めた。

「ザクロ、お前は絶対に守ってやる。怖じる必要はない」

「ああ!」

 飛来する魔法はモミジが無詠唱魔法障壁で完全に遮断し、ザクロの攻撃は一切妨害しない見事な腕前。距離を詰めようと突き進むものがいれば。

亡名流むめいりゅう抜刀剣術ばっとうけんじゅつのあらため玉石同裁ぎょくせきどうさい』」

 距離を無視する魔法刀技で露払いを行い、完全に取り付かれれば生体封印で動きを封じる。

「敵の位置が固まってきた、…一網打尽にできるだけの魔法は?」

「へっ、モミジにも内緒で練習してきた魔法、見せてやるよ」

 パチンと指を鳴らし勇ましい笑顔を見せたザクロは杖を両手で握り、深呼吸をし集中する。

「『降りしきる重き鉛、天よりの裁きと受け止めよ、砲鉛弾雨ほうえんだんう』」

(そのまま使えば死人が出る、大きさを勢いを制御しろ。出来る、出来るさ!)

 ザ敵集団の頭上へ無数の鉛玉を作り出し、雨のように降り注がせる。大きさは拳よりも少し小さいくらいで、打ちどころが悪ければお陀仏であろうが、それは運がなかったということで。

 それらの直撃を受けた水蛇の面々は鉛球に押しつぶされる形で再起不可になり、雨が止むと同時に警護の面々が如何物に止めを刺し、襲撃者らを拘束していく。

「襲撃者なら俺も封印してやれるぞ」

「貴方様は…、」

「…オオバコの知り合いだ。そうだろ?」

「そうですね、はい。…封印ができるならお願いしたいのですが、少数が先王陛下の離宮の方へと向かいまして…。貴方様は」

「っ、封印は手伝えなくなった。此処は任せる」

「はい」

 モミジが踵を返そうとすると離宮からサクラが姿を見せ、角が折れよく見なくても怪我だらけの彼を見て驚き、走り出すか留まるかの間に揺られて躊躇していた。今この場にいるのはモミジではなく、オオバコの知り合いであるモエギ。詳しく知らない者が見ればモミジに対する不義となる。

(また後でなサクラ)

(…何が起きてるの?)

 小さく手を振れば頷きが返ってきて、モミジは踵を返す。

「祖父様の所、俺も行くぜ」

「待っててくれる方が助かるんだが」

「今更言いっこなしだ。それに、役に立っただろう?」

「はいはい」

 魔導二輪を出しては二人乗りで、マツバとテンサイの離宮へと走らせる。

(それに、私が。…モミジの隣にいていいのは私なのに…、もう…モミジったら)

 全身鎧で顔の見えなかった相手、ザクロへと嫉妬心を燃やしながらサクラは大人しく離宮へ、ダリアとミモザの許へと戻っていく。

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