「──それにしてもスノウちゃんが妊娠したのは目出度いけど、これではマリオンにお茶会に来て貰うのは無理そうね」
そうでした、お茶会。
漸く日程を決められそうだと実は連絡を頂いていたのです。
「そうですね、私も今は極力スノウから離れたくないので」
そうですよね、普通の夫ならそうなるでしょう。
侯爵様はスノウさんを愛していらっしゃいますしね。
「かといって此処でお茶会をするのもスノウちゃんに負担がかかってしまうわ」
それも事実。
でも、私とレイオス様だけで参加できるのでしょうか?
「……レイラ王妃、参加者は?」
レイオス様が王妃様にお尋ねになる。
「え? メンフィス公爵夫妻、ガイアス公爵夫妻、カイル侯爵、エドモン辺境伯夫妻、そして貴方達よ、レイオス侯爵とスノウちゃんは外させて貰ったから合計五組の少数のお茶会になるわ」
「それなら出席してもいい」
レイオス様がそうおっしゃいました。
「おい、大丈夫か、レイオス」
侯爵様が不安げに問いかけます。
「私の本性を知っている者しかいないのだ、なら良い」
「そう、じゃあそれでやりましょう!」
王妃様は縄から脱出して手をパンと叩きました。
「日程は来週末、いいこと?」
「はい、王妃様」
「畏まりました」
「じゃあ、スノウちゃんは体を大事にね」
「有り難うございます、王妃様」
スノウさんは頭を下げた、体の負担にならないように。
王妃様がいなくなると不安げにスノウさんが私達を見ます。
「知り合いだけのお茶会だけど、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
スノウさんの不安げな言葉に大丈夫だと言い聞かせるように私は言います。
「俺が居ないけど、トラブル起きたら真っ先にアイリスちゃんを守れよ。その為にはなるべく側にいろ」
「分かっている」
レイオス様と侯爵様もお話になっておられます。
トラブル、と言っても王宮内ですから起きないと思うのですが……。
「あの、侯爵様。トラブル、とは一体?」
「ああ、未だに生き残っている奴が王宮やら領地に襲撃するっていうのは、少なくないんだよ」
「そう、なのですね」
「それにアイリスちゃんはレイオスとまだ契ってない、弱点になり得る」
「……」
「だから
「……」
私はレイオス様の腕に腕を回します。
「アイリス?」
「私、レイオス様を信じています」
そう言うと、レイオス様は、口をわずかに開けてから閉じ、私を抱きしめられました。
「すまない、有り難うアイリス」
「いいえ」
私は抱きしめ返しました。
その日は家に帰り、調合錬金術に勤しみました。
それから、食事を取り、入浴し、レイオス様と一緒にベッドで寝ます。
「しないのですね」
「するのが怖いのだ、君を壊してしまいそうで。君はまだ華奢だから」
「レイオス様……」
レイオス様の使い魔が食事を用意してくれているお陰で、私はここに来た時より体格がしっかりしたものになっています。
痛み止めも、今は自分で作った物を使用しています。
身長は日々ゆっくりと伸び、まだまだ成長期という所でしょうか?
まだ20歳になってないんですもの、成長が止まるのは先でしょう。
レイオス様はそこも気にしてくださっているのです。
私はなんて幸せ者でしょう。
そして、迎えたお茶会の日。
私は馬車で王宮に向かいました。
既に四つの馬車が止まっておりました。
「遅かったでしょうか?」
「大丈夫、まだ時間に余裕はある」
「でも、公爵様達を待たせてしまっては……」
「安心してくれ、向こうは気にしてないだろうし」
レイオス様はそうおっしゃって、馬車から私を下ろし、招待状を門番の方に見せると、待機していた執事の方が案内をしてくださいました。
お茶会の場所は綺麗に飾られており、お菓子などが並べられていました。
「アイリス伯爵夫人! レイオス!」
「本当に来たのね!」
と、皆さん驚いているご様子。
「お前達じゃなかったら来ないよ、他の連中がいたら私は拒否する」
「レイオス様……」
どれだけ人見知りなのでしょうか。
「ところで国王と王妃は」
「レイオス様」
せめて「様」をつけてください。
不敬ですよ。
とは思うものの、指摘ができない。
「おお、良く来てくれた」
「よくいらっしゃいました」
国王様と、王妃様が姿を現しました。
「皆、よく来てくれた」
「このひとときをどうか楽しんでくださいね」
その言葉を皮切りに、お茶会が始まった。
「レイオス、スノウ侯爵夫人に渡した薬、良ければ私達にも作ってくれるよう夫人に頼んで貰いたいのだが」
メンフィス公爵様がそうおっしゃいました。
「そう言えば、貴殿らも妊娠で悩んで居たな」
などなど、お話をしています。
まぁ、私の薬についての話が七割ですが。
美味しいお茶を飲みながら、それを聞く。
私が役に立つなら、別に構いません。
そう思って居ると、皮膚が熱くなるような感じがしました。
まるで火であぶられているような──
「アイリス!」
レイオス様に抱きしめられると、それは無くなりました。
一体何──
「出てくるが良い」
国王様が隅っこに風魔法を当てると、真っ赤な炎の体を持つ存在が現れました。
「ちぃ!」
それは逃げようとしましたが、王妃様が鎖で炎の体を逃げられないように拘束します。
「私じゃなくてアイリス夫人とレイオスが目的でしょう?」
凍り付くような声で王妃様がおっしゃいます。
「さぁ、喋りなさい」
王妃様が何かすると、それは口を開きました。
「──一族を滅ぼした輩を滅ぼしに来たんだ!」
一族を、滅ぼした。
つまり──
「貴様、黒炎の一族の者か」
レイオス様の黒い炎が真っ赤に染まります。
「待ちなさい、生き残った者達の居場所を聞いてからよ」
王妃様がそう言うと、口を必死に閉ざそうとしているのに、その方は喋っていました。
何処に身を隠しているか、バレた場合何処に身を隠すか等。
「私が行ってくる」
レイオス様が言いました。
「レイオス、これは余がやる。お前は妻の側に居よ」
「ですが……」
「国王として恨みを買わねばならぬ時もある」
国王様は近衛兵や魔導師などを一瞬で集め、姿を消しました。
王妃様は、その方に近づきにこりと笑います。
「炎を消すほどの水を浴びてみる?」
指を鳴らすと、その方は水の魔法を滝のように浴びました。
炎は少しずつ小さくなっていきます。
レイオス様はそれを見ないように私の目を覆い、抱きしめました。
耳も塞がれました。
10分ほどで、その方は居なくなっていました。
「全くせっかくのお茶会が台無しだわ、仕方ないから翌月に仕切り直しをさせて、お菓子は持って行っていいから」
そう言われ、土産にお菓子を包んでいただき、私とレイオス様は帰宅しました。
レイオス様は何か辛い表情をしていましたが、私はかける言葉が見つからず、ただ抱きしめるだけしかできませんでした──