急遽取りやめになったお茶会の後、レイオス様は屋敷に戻るとすぐにいなくなりました。
「やらねばならぬことがある」
そう言って、居なくなりました。
その後、カイル侯爵様がいらっしゃり、私の護衛を頼まれたとおっしゃいました。
「かなり深刻そうだったから心配ですね」
「はい」
レイオス様は深刻そうな顔をしていました。
これ以上傷を広げないと良いのですが……
「レイオス、お前は来なくて良かったのだぞ?」
「一族の生き残りがいて、それで妻に被害が及ぶ危険性を出したのは私だ」
「レイオス……」
レイオスの言葉に、レイラが重い表情を浮かべる。
「アディス、魔法で転移などは防いでいるか?」
「勿論だ」
「なら、私がやる」
きっぱりとレイオスは言い切った。
「やめろ、とは言わぬ。私にも手伝わせろ、お前一人に業を再び背負わせたら、アイリス夫人に申し訳ない」
「……わかった」
アディスの申し出を、レイオスは拒否する事は無かった。
広い洞窟の中に家があり、そこから炎で体ができた者達が姿を現した。
「やはり、あの者が危害を加えにいってしまいましたか」
長らしき者が口を開く。
「お前達の総意ではないのか?」
レイオスが問いかける。
「私達は黒炎の一族のはみ出しものです。百年前の戦争時にアビス様に意見した故に力のほとんどを奪われて、一族を追放されました」
「では、その貴様らが、何故我が妻を狙った! 息子の私ではなく妻を!」
「あの男は、自分達は
長らしき黒い炎の男性は顔を上げる。
「あの男を──息子を止められなかったのは私の罪です、ですから他の者達を見逃しては頂けないでしょうか?」
「……」
無言になるレイオスの前にアディスが出る。
「アディス?」
「良かろう、右腕を差し出せ。それで此度の件を私は見逃す。レイオスはどうだ」
「……それで良い」
「感謝します」
アディスは剣を抜き、右腕を切り落とした。
「ぐぅううう‼」
右腕を押さえ、うめき声を上げるその集団の長。
しばらく、右腕を押さえていたが痛みになれたのか顔を上げる。
「……レイオス様、貴方様が私共以外の黒炎の一族を滅ぼしたと聞いた時は耳を疑いました」
「……」
「それほど、百年前貴方の伴侶になるはずだった御方は大切でしたか?」
「無論」
「ならば、此度はどうか失わないようにしてください。私達は貴方に逆らう意思はありません、ですがそれ以外の者は分かりません故」
「分かっている」
レイオスは黒い煙を吐き出しながら言う。
「レイオス」
「ああ、分かっている」
「黒炎の一族の生き残り達。お前達はこのまま生活を続けるのがよかろう、だがもし住居を移動しようとも余は感知せぬ」
「アディス国王様、感謝を」
「レイオスもそれでいいな」
「ああ」
「貴方、レイオス」
腕を保管したレイラが二人に話しかける。
「行きましょう、ここはもう来るべき場所ではないわ」
レイラの言葉に二人は頷き兵士や魔導師を連れて立ち去った。
「レイオス、大丈夫、怖い顔をしているわ」
王宮に戻ると、レイラがレイオスの顔を見てそう言った。
「私がやっていることは父と同じなのだろうか?」
レイオスがそう呟くと、アディスがデコピンをした。
「っ~~⁈」
「お前は考えすぎなのだ。お前はそうするしか道はなかった。お前の父はその道を選んだ。全く別物だ。感情論等も込みでな」
「だが、私は一人のうのうと幸福を享受している」
「それは本当に思っていることか?」
「何?」
アディスは盛大にため息をつき、レイオスを見る。
「やって来た事を後ろめたく感じ、未だ妻を抱けぬお前が幸せを享受? 笑わせる。 妻を抱いて契約を締結させてから言うがよい、そんな戯言は」
「あーまだ契約締結してないのね……」
「……怖いのだ」
「怖い?」
「これ以上幸せになるのが怖い、幸せが失われるのが怖い」
「レイオス……」
「お前をそうさせてしまったのは私だな、すまない」
レイオスにアディスは謝罪した。
「私の参謀の裏切りに気付いて居れば、お前はそうなってなかっただろう」
「ああ……」
「でもね、レイオス。貴方にはアイリスちゃんがいる。だから傷を分かち合うこともできるわ」
「レイラ、私はこのような傷を彼女に見せたくない」
「夫婦なのでしょう、一人で抱え混むのは止めなさい」
「夫婦で抱えるのが無理なら私達を頼れ」
「……そうさせてもらう、では」
レイオスはそう言って姿を消した。
「……」
「レイオス伯爵、遅いですね」
「はい」
カイル侯爵様とお茶をしながら静かに待っていました。
すると──
「今戻った」
「レイオス様!」
扉を開けて姿を現したレイオス様に抱きつきます。
「レイオス伯爵」
「妻の護衛感謝いたします」
「いいえ」
カイル侯爵様にそう言うと、レイオス様は私を抱きしめ返しました。
「では、私は失礼します」
カイル侯爵様はお帰りになりました。
「レイオス様?」
「聞いてくれるかい?」
「勿論です」
レイオス様は口を開かれました。
父親から力を奪われて排斥された一族の生き残りがいた。
その長の息子がなけなしの力で私を害なそうとした。
だけども、国王様達によって阻まれた。
長は責任をとって、右腕を切断された。
生き残り達は今まで通りひっそりと暮らしていくことと。
「レイオス様」
「何だい、アイリス?」
私は思ったことを口にします。
「もしかして、自分だけこのように暮らしているのに罪悪感を抱いていませんか」
「──ああ、そうだ。私は彼らとは違い、このように豊かな暮らしをしている」
「……」
「彼らを救いたいが、受け入れてくれる場所など──」
「それを陛下にお話しましょう?」
「アイリス?」
「レイオス様の罪悪感が少しでも減るよう、お手伝いをさせてください、私が一緒に居ますから」
私の言葉に、レイオス様は抱きしめる力を強めます。
「すまない……すまない……」
誰への謝罪の言葉なのか──
いえ、多分多くの方への謝罪の言葉なのでしょう。
罪意識を抱えていた、レイオス様の気持ちが軽くなればいいのですが。