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第42話:レラの負の遺産~底が見えない~



 レイオス様は次の日になっても迎えには来ませんでした。

 相当難航しているのでしょう。

「……」

「アイリスさん?」

「はい、スノウさん」

 マタニティドレスに身を包んでベッドから起き上がり、ホットミルクを飲みながらスノウさんは私と会話していました。

 その時、ふと不安になったのです。

 このままレイオス様が迎えに来なかったらどうしようと。

 何かあって死んでしまったらどうしよう、と。

「アイリスさん、伯爵様は必ず迎えに来ます、ですから待ちましょう」

「はい」

「スノウ、アイリスちゃん元気そうで何よりだよ」

「侯爵様」

「マリオン様」

「相当難航しているって聞いた、が俺は除外『何かあったらせっかく妊娠したスノウ夫人に申し訳ない』って言われてな」

「それはそうですよ」

「やっぱり?」

 私の言葉に、侯爵様は不安そうな顔をしました。

「でもなぁ、あのレラが残した代物だぜ、ロクでもないものしかねーよ絶対‼ 魔法で俺と並ぶ国王様や王妃様やレイオス達でも不安になるー!」

「今どこまで解析が進んだとか、調査が進んだとか情報はないのですか?」

「それがなぁ、レラの残した物が膨大だし、それから更に見つかったから困っているとしか聞いてないんだよ」

「まぁ」

「そんなに?」

 私はスノウさんと顔を見合わせます。

「そうそう、レイオスもかなりげんなりしているってさ」

「何故です」

「鍵がレイオスへの愛の言葉ばかりだからさ、レイオスがげんなりしている」

魅了チャームがかかった物が多数でているとか」

「そうそう、さすがアイリスちゃん、鋭いねぇ」

 私は少しだけ心臓が締め付けられる思いでした。

 もし、レイオス様が魅了されてしまったら──

「大丈夫、レイオスに魅了チャームは効かないよ」

「本当ですか?」

「ああ、ただ物理的な嫌がらせ──追尾式拷問器具とかの奴だと怪我はするかもしれない」

 ああ、レイオス様のことになると弱くなってしまう。

 だって、愛してしまっているのですもの。

 レイオス様、どうかどうか、御無事で──





「ぜぇ、はぁ」

「わ、私はもう無理です……」

 王宮魔術師達がリタイアして行く中で、アディスとレイラ、レイオスとエドモンは立っていた。

「王宮魔術師達、最近質が落ちてないか?」

「先鋭部隊は出払っているのだ、黒炎の一族の調査の為に」

「でも質が落ちているのは事実よね?」

 レイラが首をかしげる。

「人間だとそうなるな、仕方ないだろう。百年戦争ほどの質の人間はこの平和な時代では不要だ」

 アディスの言葉にレイラが苦く笑う。

「でも、今は必要よね」

「……」

「アディスは昔からレイラには勝てないな」

「そうだな」

「ええい、御託はいい、次が来るぞ!」

 アディスが叫ぶと、機械仕掛けのドラゴンが襲いかかってきた。

「あの馬鹿女レラ、こんなものまで作っていたの!」

「ええ、そうです」

「個人情報見られたくないのは分かるけど、これは度が過ぎるわよ!」

「で、目的のブツはどこにある」

 レイオスが言うと、レイラが指で指した。

「あのドラゴンの核の中! だから燃やすのは駄目! 物理で破壊して!」

「近衛兵達!」

「「「「「「「「「はっ‼」」」」」」」」

「ドラゴンを破壊だ、我らに続け!」

「「「「「「「「「了解です‼」」」」」」」」

「近衛兵は元気があるな?」

「未だにしごかれているからな」

「ああ……なるほど」

 アディスの発言に納得したような声をレイオスは出し、機械仕掛けのドラゴンに向かっていった。


 炎のブレスを、吸収し、消すと、レイオスはドラゴンの口を引きちぎって破壊した。

 バキバキと首の部分が引き裂かれる。


「レイオス、どいて!」

 レイラの声に反応して退くと、レイラがその傷から核まで一気に貫き、核を蹴り出した。

 巨大な核が転がる、機械仕掛けのドラゴンは動かなくなる。

「あー疲れた」

「レイラ、大丈夫か?」

「やっぱりなまってきているわね、私も近衛兵の訓練に参加しようかしら」

 レイラがそう言うと、近衛兵達は顔色を真っ青にして首を振った。

「お、王妃様! 王妃様は充分お強いです!」

「その通りです! ですから大丈夫ですよ!」

「いやー百年も経つと少しはさびるから来週から参加するわ。爺やも喜びそうだし」

「あの爺さんなら喜びそうだな」

「でしょうね。ゼスティック様はあれだけのご老体なのに未だこの国一番の騎士なのだから」

「面倒を見ていたレイラが飛び込んでくるのを喜びそうだな」

「普通なら嘆くでしょうが、あの方は違いますから」

 アディスとエドモンが話している間に、レイオスは核を開ける事に成功した。

 大量の書類や、封筒が出て来た。

「さて、次はこれの解読か」

「いつになれば終わるんだ」

 レイオスはイライラしていた。

「いつ、だろうなぁ」

 エドモンは遠い目をする。

 アディスとレイラも遠い目をする。

「まだ半分じゃないかな」

「いいえ、まだ半分もいっていないわ」

「「「……」」」

 レイラの言葉に無言になる三人。


「……私は一端帰る」

「ダメ」


 逃亡を図ろうとしたレイオスをレイラが捕まえる。

「ええい! 頼むから放してくれレイラ王妃!」

「貴方がいないと進まないの⁈ 分かるでしょう⁈」

「私はもう疲れた! 愛しいアイリスに会いたい」

「私だってサーシャに会いたいんだぞ!」

 レイオスが噛みつくように言うと、エドモンが言い返す。


「はいはい、これが終わったらいくらでも愛し合いなさい、それが終わるまでは帰さない、これは国家の一大事なのだから」


 レイラの言葉にがっくり項垂れるレイオスとエドモン。


 レイオスは、今アイリスが寂しい思いをしてないだろうか、ちゃんと食事は取れているだろうか等思いをはせた。




「──くしゅ!」

 客室で私はくしゃみをしました。

「風邪かしら? ……レイオス様無事だといいのですが……」

 そう思いながら私は調合錬金術で作った風邪薬を飲みます。

 即効性なので、万が一風邪だった場合スノウさんに風邪を移す心配が無くなります。


「アイリス夫人、食事の時間です」

「有り難うございます」


 侍女の方に案内されて食堂へ向かい、スノウさん、侯爵様と食事を取ります。

「今日も美味しそう」

「そう言ってくれて何よりだよ」

 私達は談話をしながら食事を取りました。

 そこでまだレラの隠している物の調査が半分も言っていないと聞き不安になりました。

 私が言っても足手まといになりますし、かといってレイオス様は無理をしていないか不安になりました。


「レイオス様、お食事、ちゃんと取っているでしょうか?」

「そこは大丈夫みたいだよ」

「なら、良かった」


 私は早くレイオス様と食事を取りたいと、同じベッドで眠りたいと思いました──




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