「では改めて自己紹介を、私はリーゼン。爵位は伯爵です。そして妻の──」
「ラティアと申します」
青い髪の女性は頭を下げた。
私もつられて頭を下げる。
「ぼ、僕の、妻の、あ、アイリスに、お、お礼って……」
「はい、貴方と貴方のお母様が残した遺産のお陰で私達は領地運営を首尾良く行え、領民とも仲良く付き合えています」
「私と、お母様の遺産?」
何かあったけと首をかしげる。
調合錬金術に関わる物は全部持ってきたし、残っている本は──
「……お母様と私がつけた領地の記録ですか」
「その通りです」
リーゼン伯爵様は微笑まれます。
「あの本には、季節毎の作物についてや、土壌改良、領民とのやりとり等、事細かに記載されていました。あの本のお陰で私は美味く領地経営できているのです」
「はぁ」
「ただ、お礼も言わずに居るのはどうかと妻と話し合いましたが、ご夫人は色々と大変な状況らしく、落ち着いたらお会いしようと」
「そうですか」
国王様直々にあの領地を統治するように言われた方だし、悪い方の雰囲気はない。
「改めて、お礼を。あの多数の書物と資料を作成してくださり、有り難うございます」
「有り難うございます」
「いえいえ……」
私は取りあえず、否定しておく。
流石に「そうですか、お母様と私が資料を作っておいた甲斐がありました」とはいえない。
何となく、後ろめたくて。
そう思っているとお茶が無くなった。
「お茶、追加で入れてきますね」
「あ、う、うん」
私はそう言って部屋を後にした。
「……」
レイオスは無言になる。
知らない相手と話しても人見知りだからですむのは話さない事だから。
そう思って居ると、向こうの伯爵夫婦が肩をふるわせている。
「な、なにか?」
「あー! ダメだ! あのレイオスの兄貴が人見知りで子鹿みたくなっているのをみると!」
「ふふふ、貴方。思っていても、言うのは……くす、ふふ!」
「め、面識が?」
あるのかと問おうとすると、リーゼン伯爵は自分自身を指さし。
「俺だよ! 魔道見習いのチビ助、リーゼン! こっちは治癒見習いのやせっぽちのラティア」
「は」
「はああああああああああああああああああ⁈」
レイオスは絶叫した。
まさか、百年戦争で少年少女だった者達の中で自分になついていた者達が来たとは思わなかったのだ。
当時の面影はほとんどない。
「よし、お茶を入れ終わった……」
「はああああああああああああああああああ⁈」
「⁈」
レイオス様の絶叫に、私は驚きます。
何かあったのでしょうか?
お茶を持ちながら急いで客室に向かいます。
勿論零さないように。
「レイオス様⁈ リーゼン伯爵様、ラティア伯爵夫人⁈」
客室の扉を使い魔さんに開けて貰うと、頭を抱えているレイオス様と、先ほどとは違い、いたずらっ子のような笑みを浮かべているリーゼン伯爵様とラティア伯爵夫人がいらっしゃいました。
「れ、レイオス様?」
お茶をテーブルに置いて、レイオス様に私は話しかけます。
「いっそ殺せ……」
「レイオス様⁈」
「いやー忘れているとはおもったけど、覚えてもいたんだなぁ」
「貴方趣味が悪いですよ」
「あ、あの、一体何が?」
何が起きたのかさっぱり理解できない私はお二人に問いかけます。
「ああ、実は百年前の戦争でレイオス伯爵──レイオスの兄貴に世話になったんだよ、私もラティアも」
「レイオス様、真偽は?」
「……その通りだ、知り合いの前で恥かいた、死ぬ」
「レイオス様、早々簡単に死ぬなどおっしゃらないで下さいませ! 私を一人身にする気ですか? 未亡人になさるおつもりで⁈」
「そ、それはない!」
「なら、軽々しく死ぬ、死にたいは禁句です‼」
私ははぁとため息をつきました。
「そうでしたら最初に言ってくださればいいのに」
「いや、レイオスの兄貴が人見知りって、予想がつかなくてね、それを知りたくて敢えてはっきりとは名乗らなかったんだ」
「趣味が悪いですよ」
私はあきれの息を吐き出しました。
「とこで、どちらの要件で来たのですか?」
「両方」
「そうですか」
私はレイオス様を抱きしめます。
「大丈夫ですよ、レイオス様。後で侯爵様か、王妃様にお話しましょうね」
「恥の上塗りだが、そうする」
お二人の顔が引きつります。
「分かったら、私の大切な旦那様をからかわないでください」
「申し訳ない、アイリス夫人」
「アイリス夫人、すみません」
「レイオス様、これで終わりにしましょう。お二人は勿論今日レイオス様で遊んだ事は口外しないこと、いいですね」
「勿論です」
「はい」
「なら、喋らないでおく」
レイオス様は疲れたように息を吐き、紅茶を飲み干しました。
「今後、資料などで分からなかったら来てもいいですか?」
「はい、構いませんよ。全部頭の中に入っていますから」
リーゼン伯爵様の言葉に私はそう返す。
「アイリス夫人、良かったら私達の領地に来ていただいてはいかがでしょうか?」
「え?」
ラティア伯爵夫人は私にそうおっしゃった。
あっけにとられる私。
「皆さん、アイリス夫人の事を心配してらっしゃいましたよ」
「行きたいですが……」
と、チラリと
「なら護衛をつけて欲しい、私が領地内を歩くのは問題だろう」
「それくらいなら」
リーゼン伯爵様は微笑み、頷きました。
「レイオス様?」
「大丈夫、使い魔を同行させる、何かあったら即座に転移するから」
「なら、いいのですが……」
同行はするものの、領地内では別行動。
何を考えていらっしゃるのでしょうか。
それはそれとして、街を歩くようのドレスを新調しないと。
レイオス様にお願いしなきゃ。
そんなこんなで二週間後、私は久しぶりに故郷の土地を踏みしめました。
「あの、貴方は」
「王妃様より護衛を命じられたゼスティックと言う者です、アイリス夫人」
鎧は纏って無くとも、筋肉がしっかりついているというか、普通の方と違うのが分かりました。
「ゼスティック様、本日はお願いしますね」
私は会釈をします。
でも何かおかしいです、どうして王妃様が関わってくるのでしょう。
「おい、リーゼン。レイラに報告したのか⁈」
レイオスはリーゼンの服をつかみ、ひそひそと会話をする。
「当然ですよ、王妃様からレイオスの兄貴に会う許可もらったんですし! だから今回も報告したら心配だからゼスティックの爺さんつけるって」
「過保護にも程がある……」
レイオスは頭が痛くなりそうだった。
「では参りましょうか」
「お供します」
私はレイオス様達と別れ歩き慣れた土地を散策し始めました──