故郷から戻って三日目のこと──
「これはどういうことだ。マリオン?」
レイオス様は怒気を放って侯爵様に話しかけていらっしゃいます。
怒気は私に向けられてないので、安全です、平気です。
「えっとそれはその……」
「何故アイリスが不特定多数の男としけ込んでいる作り物の映像が出回っている‼ アイリスはまだ処女だし、出回りだした時はお前の屋敷で暮らしていたはずだ‼」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 早急に情報洗い出してきます!」
侯爵様は半泣きで外へ出て行きました。
「アイリス、君をおとしめようとした輩には、必ず罰を与え、裁きを食らわせる」
「レイオス様……」
レイオス様は私をぎゅっと抱きして言いました。
事の発端は、レイオス様宛に私らしき人物が不特定多数の男性と性行為をしている映像が送られてきた事でした。
そしてその日にちが侯爵様の屋敷に居た時の物。
明らかに悪意があり、私をおとしめようとしていることが分かるので国王様や王妃様へも連絡がいき、そこから母の知り合い達へも連絡がいき、侯爵様は全員に「責任持って犯人見つけ出せ! 手段はとわん!」と言われて半泣きで出て行かれました。
せっかくの夫婦の時間が……お可哀想に。
皆さん、誰一人私がそういうことをやっていると信じる方はおらず。
むしろ、陥れようとしているとして怒髪天を衝く勢いで怒っておりました。
なので、私は「あーあ、怒らせたら不味い方達怒らせた、しーらない」です。
いや、本当。
「映像は地下でも出回っていた」
「まったく、おぞましいわ」
国王様と王妃様がおいでになり、客室で紅茶を飲みながら話し合っていました。
「誰がアイリスをおとしめようとしてやったのだ」
レイオス様の声は震えていました、怒りを抑え込もうと必死のようです。
「さぁ……だれでしょう」
本人の私はレイオス様に愛され、レイオス様以外とそういう経験の無い体なのでどうでもいいのですが。
「侯爵からの話では『レラの親類は全て白、新しい線を今たどっている』との事だ」
「しかし、いい気はしませんわ、私そっくりの方がそう言う行動を取るのは」
「アイリスちゃん、貴方もっと怒っていいのよ?」
「だって、私の代わりに皆様が怒って下さっていますし……」
「アイリスちゃん……」
王妃様はそっと私を抱きます。
「こんなに優しくて健気な子を陥れようとするなんて……! 一体どこのどいつだ! 裁いてやる!」
拳を震えさせていました。
犯人が来たら殴りそうな雰囲気です。
「レイラ、落ち着け、焦っても何も──」
ピーピー
魔導器の音がしました。
レイオス様は急いで魔導器を展開します。
映像が映し出されました。
「マリオン、呼び出したということは……」
『犯人を見つけた! ガルド侯爵の娘のルイーズだ‼』
「よくやった、後の処分は任せろ」
『待て待て待て! 一応裁判通してくれ! そうだろ、今回は!』
「ええ、その通り、やった事の裁きを受けなければ、ねぇ?」
「……分かった」
令嬢が犯人と言うことは、親が関わっていたのか、それとも単独犯か、そこでも違いが出てくる。
一週間後に裁判が行われ、被害者として私とレイオス様が呼ばれることになった。
その間に侯爵様とレイオス様が何か色々としていたようですけど、私にはわかりません。
スノウさんは安定期に入られたので、ゼスティックさんが護衛をする事になりました、が胎教に良くないので留守番です。
王宮に併設されている裁判所へと向かいます。
国王様が裁判長をしておりました。
他にも裁判官の方が並んでいます。
向こう側から連れてこられた金髪の魔族の女性が私を睨み付けていました。
ああ、私が憎いのですね。
それでは──
裁判の開廷と参りましょう。
「原告代理レイオス。要望を述べよ」
「はい、我が妻が、我が友侯爵の屋敷にいた時に取られたらしい妻を模した女が不特定多数の男とまぐわっている映像が我が家にも届き、地下でも流通し、生娘である我が妻の名誉を酷く傷つけられたので、その傷つけられた名誉の代償を払っていただきたい」
淡々とおっしゃるレイオス様は静かに怒気の炎を吐き出していました。
連れてこられた魔族の女性は顔を蒼白にしています。
「侯爵令嬢ルイーズ、お前はレイオス伯爵の妻アイリスの名誉を傷つける為に、あのような映像を作ったのか?」
「ち、違います! わ、私じゃありません!」
『その言葉は虚偽』
白い石像が喋りました。
これが真実の石像かと、まじまじと見てしまいます。
女性の石像ですが、美しい女性で、計りをもっていました。
「ルイーズ、お前は何ということをしたのだ!」
「レイオス伯爵夫人の名誉を傷つけるなんて……なんでこんな馬鹿な事をしたの⁈」
ルイーズという女性の両親らしき方々が叱責しますが、ルイーズは答えないまま。
「レイオス様……」
「アイリス、大丈夫だよ」
少し不安になった私の手をレイオス様は握ってくださいました。
「うぎぃいい‼ なんなのよ‼ 人間の分際で伯爵様に愛されるなんておかしいのよ‼」
「……」
あ、この女、レラと同類か。
「私の方が相応しかったのに、なんで人間の女がぁ‼」
暴れて危害を加えようとするルイーズを騎士団の方がいとも簡単に押さえ込みました。
ご両親は顔を真っ青にしております。
「さて、この画像ですが、加工されています、じつは……」
画像を侯爵様がいじると、そこに映っていたのはルイーズでした。
「ルイーズ嬢が画像を加工して流していたのですよ」
あ、お母さん方倒れて運ばれていった。
お父さんの方は顔を真っ赤にしている。
「ルイーズ、何という不誠実な事を、何という愚かな事をしてくれたんだ!」
「あの女が悪いのよ!」
「反省の見込みはなし、と言うことでルイーズ、お前には無期限の牢獄での生活を科す。ガルド侯爵は、監督不行き届きということで爵位を下げ伯爵とする」
「お、温情有り難うございます」
これで一件落着かな?
「国王陛下」
「なんだレイオス伯爵」
「このままでは我が妻の名誉は傷ついたままです、その解消を求める」
「わかった、では本来の映像を各地に配信し、真実を語ろう」
「や、やめてよ! お願いだから!」
「黙れ、我が妻の名誉を傷つけた者の言葉など聞くに堪えない」
レイオス様はそう言ってルイーズを睨み付けると、ルイーズはひっと悲鳴をあげて真っ青になりました。
後日、その映像が配信されていた場所にルイーズがやっていた映像を出して、私の映像は全て削除され、ルイーズがアイリス夫人の名誉を下げるためにやったと国王様が宣言なされました。
「全く、嫌な事件だ」
レイオス様はブツブツと言いながら、魔導器の調整をしておりました。
「ところでレイオス、貴方いつになったらアイリスちゃんを抱くの?」
「えっとそれは……すみません、今はまだ」
「レイオス?」
レイオス様の発言に、王妃様はあきれのため息を零しておりました。
そういう所もひっくるめて私はレイオス様が好きなのですよ。
と、思いましたが今はちょっと内緒にしておきます──