魔族同士の子どもが生まれるのは大体半年位。
人同士の場合十月十日。
勿論早産だったり、
では、人と魔族の場合は?
妻が魔族の場合は半年~十ヶ月程度。
逆の場合は不明。
なぜなら人が母体の場合相手の魔族の魔力量が多いほど、負荷が大きすぎて子どもを産むか死ぬかの二択になる。
大量の魔力を持つ魔族の夫と人の妻という夫婦の場合は基本親戚から養子を貰う。
だが、それでは根本的に報われないのが彼らだ。
我が子を抱きたい、他人の子を奪いたくないという気持ちはある。
その為に調合錬金術師の開祖オーギュストは研究に研究を重ね、魔力が多すぎる魔族の夫と人の妻という夫婦の場合でも子どもを産め、安全な出産ができる薬を作り出した。
その薬は作るのが大変で、作り手にも技術がいり、高価なものになった。
それこそ、王室から賜らないと貰えないような代物だった。
侯爵様とスノウさんがこの薬を持って居なかったのは、丁度王室で薬をきらしていたからだったそうです。
だから材料さえあれば作れる私が居てくれた事に感謝しか無いと言われました。
その後、メンフィス公爵様にもお薬をつくり、お渡ししました。
メルト公爵夫人がとても喜ばれていました。
お二人は他の方々にお薬を譲ってしまった結果貰えなくなったというのが原因でした。
良い方々が割に合わない目に遭うのはあまり好ましくありません。
「アイリス、君は自分の分は作らないのかい?」
「あ」
スノウ様の妊娠が五ヶ月目に入った日に、レイオス様に言われて自分も気がつきました。
ただ、少し悩んでしまいます。
「私はちゃんと母親として子どもを育てられるでしょうか?」
これが私の不安でした。
だって、私のようなひねくれ者が育てられる自信がないのです。
「アイリス、子育てをすることになったら勿論私も手伝う、それに君は良い母親になれるよ、君はとても優しい。だから無理はしないように」
「レイオス様……」
私は優しいのか分からなくなります、だってあの環境ではひねくれて生きるしかなかった。
今みたく、誰かを思いやることができたのは、領民達に対してだけ。
家族といえる存在は私をないがしろにしたから……
きっと、領民とお母様が私の家族だったのでしょう。
帰った時、温かく迎えてくれた彼らの事を忘れません。
母の墓石に花々が手向けられていて、綺麗に掃除されていたのを私は見ました。
ああ、お母様、私達のやったことは無駄ではありませんでした。
お母様の娘である私は、それを紡いでよいですか?
領民はいないけれども、誰かに教えたい事がある。
繋いでいきたい事があるのです。
「とても良い考えだと思うわ」
「本当ですか?」
スノウさんは微笑んでくれました。
「調合錬金術を産まれてくるだろう子どもに教えてくれるなんて夢のような話よ」
「本当はマリオンさん達の領民に教えたいのですが、それだと貴族の反感を買いかねないといわれましたしね」
「そりゃそうだよ、貴族のお抱えとかでも使える者がほとんどいないんだよ、調合錬金術師は。領民がほいほい使ったら貴族の面子丸つぶれだし」
「そうですか……それよりスノウさん、体調は?」
「内蔵を押されている感が少しあるけど、それ以外は大丈夫よ、もっと大変らしいからこんなに穏やかにすむのに驚いているわ。むくみとかもないですし」
スノウさんは笑顔でおっしゃいました。
「スノウの体が大丈夫なら俺の心配毎はない! あとは無事に出産……頼みます、出産もスムーズに……」
「その為にお薬を飲んでくださいね、スノウさん」
「はい、分かりました先生」
「いや、先生はやめてください」
私がそういうと、侯爵様とスノウさんはからからと笑いました。
ちょっとむくれます。
「アイリスをからかうな」
「ごめんなさいね、アイリスさん、本当に可愛らしい方だから、たまにいつもと違う表情をみたくなるの、いつも頑張って笑顔を張り付けているから」
「え」
私は顔をむにむにと触ります。
「人を気にして笑顔を取り繕うのは凄いことだけど、もっとリラックスして欲しいの。ここに居るときは、伯爵様と一緒の時はリラックスしてらっしゃるでしょう?」
「……」
私はちらりとレイオス様を見ます。
「ああ、確かに私の目の前では表情がころころと変わる」
「羨ましいですわ」
「夫の特権というものです」
ため息をつくスノウさんに、レイオス様は微笑を浮かべて返されました。
「ちなみに、レイオスの色んな表情見られるのは友人の特権って奴?」
「お前は私をおちょくってばかりではないか!」
レイオス様が侯爵様の頬を引っ張ります。
「いでででで‼」
ぎりぎりと音がします。
「あ、あの、レイオス様。そんな事をして頬がちぎれてはスノウさんの胎教に悪いので止めてください……」
「……アイリスがそう言うなら」
レイオス様は止めてくださいました。
私は一人ほっとします。
「ところで名前の候補とかはお決めには?」
「いくつか決めているけど、生まれてから本決めかな」
「はぁ」
「アイリスさん、私達が産後ハイになっていたら止めてくださいね」
「大丈夫ですよ、スノウさんに出している薬は産後ハイを抑えますから」
「あら、本当に万能だわ」
「その分材料集めが大変ですが」
「材料集めなら今なら俺ができるから安心してくれ」
「ええ、私が妊娠する事になった場合のお薬も作りたいのでお願いします」
「勿論」
侯爵様は自分の胸を叩きました。
「……それはそうとレイオスはまだ手を出してないけど」
「いいんです、スノウさんの出産が終わるまでは私はそういうのは遠慮したいんです、薬を調合錬金術で作っていますから」
「うわ、健気で良い子過ぎて泣きそう」
「当然だ、私の妻だぞ」
レイオス様は私を抱き寄せます。
「だからお茶会も断っているらしいよね、代わりにメンフィス公爵のところに行って薬の効き具合のチェックとかやったりしているよね」
「お二人には安全な出産をして欲しいんです、本来なら死ぬかもしれない危険なお産になるのを薬の力でそうじゃなくさせているので、ちゃんと効いているのか確認もしたいですし」
私の思いはそれだけだ。
今まで子どもに恵まれなかった方達に我が子を抱かせてあげたい。
それだけだ。
「スノウちゃんー! 容態はどう‼」
王妃様が突然、いつもの如く扉を開けてやって来ました。
「あの、レイラ王妃? アディスの奴は?」
「仕事を沢山押しつけてきちゃった♪」
「「うわぁ」」
わぁ、レイオス様と侯爵様の声がハモりました。
心底嫌そうな顔をしていらっしゃいます、お二人とも。
「何よ、その顔は!」
「王妃様、ここにはスノウさんという妊婦さんがいらっしゃいます、どうかお声を抑えてくださいませ」
「ああ、そうだったわ。ごめんなさい、スノウちゃん、アイリスちゃん」
「私はいいんです……」
「大丈夫ですよ、王妃様」
申し訳なさそうな顔をしていた王妃様。
すこししてにこりと笑い。
「そう言えば少し話を聞いていたのだけど、将来的にスノウちゃんの子どもに調合錬金術を教えたいらしいわね」
「どこから
「調合錬金術を教えたいってところからね」
「大分前からか……!」
レイオス様が頭を抱えます。
「それなら調合錬金術を教える先生としての試験を受けてみない?」
「え、そんな資格あったんですか?」
「一応あるのよ」
王妃様は続けます。
「受けて見る?」
「はい、あの必要事項は?」
「第一級調合錬金術の資格を持っていること、アイリスちゃん持って居るわよね?」
「あ、はい」
「それなら楽勝よ! 頑張って!」
私はどうするべきか悩みレイオス様を見ます。
「君なら合格できるだろうけど、嫌ならやらなくて良いよ。別にその資格がないと教えちゃいけないって法律はないから」
「……いえ、私、一応受けて見ます」
「そうか、それじゃあ応援する」
レイオス様は私を抱きしめて頬にキスをしてくださいました。
「じゃあ、一週間後でいいかしら?」
「え、あ、はぁ、それで」
何か早すぎる気がするけど、さくっと取るなりして終わらせたいので、私はそれでいいことにした。
取りあえず、一週間の間に、調合錬金術の本読み直そう、そう思いながら──