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第50話:教育者資格の試験日



 復習と実践を繰り返した一週間。

 レイオス様に連れられて王宮へ。


「アイリスちゃん、いらっしゃい!」

「アイリス様、ようこそ」

 王妃様と以前の試験官の方が出迎えてくれた。

「知識と実践については文句がつけようがないので、二つを飛ばして実際に教えてみてください」

「え?」

 耳を疑った。

 つまり、だ。

 ぶっつけ本番で教師をやれと言っているのだ。

「やばい、緊張で吐きそう」

「アイリス大丈夫かい」

「アイリスちゃん、大丈夫貴方ならできるわ」

「アイリス様のお手並み拝見と行きますか」

「ドレスじゃなくて良かった……」

 調合錬金術師用の格好で来た事に心の底から安堵した。


 しばらく歩くと王妃様とは別れ、教室らしき部屋に通される。

 レイオス様は部屋の前で待機。


「今日はこの方が教えてくださる、ご挨拶を」

「アイリスと申します、どうぞ宜しくお願いします」

「質問がある方は居ますかな」

「アイリス先生は結婚しているんですかー⁈」

 男子生徒のような方が手を上げて言う。

「これ、そう言う質問では無く……」

「はい、既婚者です。夫はレイオス伯爵様です」

 ざわめき、そして静かになった。

 が、ひそひそ声が聞こえる。


「そ、そう言えばあの黒炎伯爵の奥さんの名前がアイリス、だった……!」

「さっきからドアの窓でチラチラ見える炎ってあれだよねぇ……⁈」

「へ、変な質問はよそう、うん」


「質問はないですか? 無いようですので、今日はメガポーションの作り方を教えてください」

「はい、分かりました」

 私は本を開いて──


「──メガポーションをほとんどの場合作る際に温めますが、注意点はなんでしょうか? 分かる方」

「はい! 湯煎で温める!」

「正解です、逆に冷却作用のあるメガポーションの場合は?」

「はい! 氷水で冷やす!」

「正解です」

「はい、教壇に立って教えるのは問題ありませんね、では実技に移りましょう、皆さん移動ですよ」

 監督官の方が誘導し、私はそれについて行く。

 レイオス様が後ろからついて来ているのに、学生達は気付いてちょっと震えている。


「変な質問しなくてよかった……」

「本当それな……」


 レイオス様の事を恐れているようです。

 やれやれ、甘いですね。


 実技の部屋に入ると、皆が調合台の前に立つ。

「最近要望が多い清め水を作っていきましょう」

「「「「はい!」」」」

 私は視線を配る。

 そして、間違った手順や材料を入れようとした生徒を止めて、それは違うことと理由などを説明していった。

 無事、皆が清め水を作り終えると、私はふぅと息を吐き出す。

「はい、みなさん教室にもどってください‼」

 生徒達が戻ると、監督官がにこやかな顔で紙を渡してきた。

内容は──第一級調合錬金術教師資格授与と書かれ、国王様のサインも入っていた。

「おめでとうございます! いつでも、受け入れていますから来て下さいね」

「有り難うございます、でも大人数はちょっと不慣れですので」

「それは残念」

 監督官の方に心底残念そうにされていた。


 そんな事言われたって、私教えるのは少人数予定しているから……


 そうこうしていると、王妃様がやって来た。

「アイリスちゃん、おめでとう! これで堂々と先生ができるわ!」

「そうですか……」

「あ、免許は三年更新制だから気をつけてね」

「はい」

「三年か、随分短いな」

「オーギュストが新しいのを日々生み出しているからね。アイリスちゃん、最新版の調合錬金術の本は持っている?」

「一つ前のなら」

「じゃあ丁度良かったわ、最新版をあげるわね」

 そう言って分厚い本を手渡されました。


 つくづく思うが調合錬金術の本は分厚すぎる!


「私が持とう」

 レイオス様が持って下さいました。

「では、帰ろうか、アイリス」

「はい、レイオス様」

 私はレイオス様の腕を手で掴み、そのまま王宮を立ち去りました。


 屋敷に着くと、すぐマリオン様がやってきました。

 そして合格したことをお伝えすると喜んでくださいました。

「有り難う、アイリスちゃん」

「いえ」

 お礼の言葉と高級な葡萄ジュースを下さりました。


「レイオスお酒だめだからね」


 そう言って帰られました。

 レイオス様はまた余計な事を、とブツブツ文句を言っていました。


 私はレイオス様をなだめ、食事をし、入浴を終え、共に眠りました。

 いつか、私の成長がとまり、周囲の事をきにする必要がなくなった時、私は子どもを抱き、そしてその子等に自分が学んだ事を伝えたい、そう思いながら眠りに落ちていきました。


 夢を見ました。

 子ども達が居ます。

 顔や姿がよく見えずぼんやりとぼやけています。

 ただ、両親の姿は見えました。

 メンフィス公爵様達と、侯爵様達、そして──

『『お母様!』』

 私達。

『さぁ、今日も調合錬金術師の勉強の時間よ』

『『『『『『『はーい!』』』』』』

 元気よく返事をする子ども達に私は調合錬金術の基礎を教えていく。

 ノートにメモを取っていく、子ども達。

『分からないところがあったらすぐ言ってね』

『ここがわかりません!』

『ここはね──』

『なるほど!』

『私、ここがちょっと……』

『そこはね──』

 一つずつ教えていく。

 子ども達は分からないところや興味を抱いた箇所を聞いていく。

 それがとても楽しかった。

『じゃあ、実技をやりましょう、一番簡単な清め水から』

『『『『『『『はーい!』』』』』』

 そう言って調合台で悪戦苦闘する子ども達に一つ一つ助言をして行った。

 助言を子ども達は吸収して、自分の物にしていた。

『じゃあ、今日はここまで』


 実技を終えて、帰る子ども達を見送る。

 私の側の子達が言う。


『『お母様!』』

『なぁに?』

『未来であおうね!』

 そう言って白く光って消えてしまった。



「……」

 夢か、と思うけれども、どこか現実味のある夢だった。

「うん、未来で会いましょう」

 私は静かに呟いた──





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