「メルト公爵夫人も、お体は大丈夫の様子ですね」
スノウさんが六ヶ月、メルト公爵夫人が三ヶ月の時様子を見に行きました。
一応、医療魔法等は全部頭にたたき込んでいるので、メルト公爵夫人のお腹の子が順調、つまり私の薬がしっかり役目を果たしているのを知って安堵します。
「主治医もお腹の子どもは順調に育っていると」
「それは良かったです」
主治医の意見も重要です。
「有り難うアイリス夫人、貴方のお陰で妻と子を成す事ができた」
メンフィス公爵様がそうおっしゃいますが、私は首を振ります。
「それは無事出産し、夫人の産後の容態も大丈夫な事を確認してから言ってください」
「随分自分に厳しいな、貴方は」
メンフィス公爵様の言葉に首を振ります。
「これは命が関わる行為でもあるのです、厳しくないといけないのです」
「なるほど……」
「アイリス、メンフィス公爵の所の用事は終わったかい?」
「はい、終わりました」
「では、マリオンの屋敷に向かおうか」
「はい」
次はスノウさんの薬の効き具合の確認。
「では、メンフィス公爵様、また一ヶ月後。ただ容態が急変したらすぐご連絡を」
「ああ、分かっている」
そう言って私はレイオス様と馬車に乗り、メンフィス公爵様の屋敷を後にした。
すこしすると、侯爵様の屋敷に着いた。
レイオス様に手を取られ、下りると侯爵様が出迎えてくれた。
「よく来てくれた!」
あんまり大声で言うのだから私は少し驚いてしまった。
「何かありましたか?」
「いや、無い!」
「驚かせないで下さい」
まぁ、嬉しそうにしているのだから、何もないのは分かりますが……
私はスノウさんの部屋に入ります。
「スノウさん、お邪魔します」
「アイリスさん、いらっしゃい」
スノウさんは微笑んで出迎えてくださいました。
少し運動の為、部屋の中を歩いて居た様子です。
ただかなりお腹が大きくなっているのが気になりました。
七ヶ月くらいでしょうか?
「スノウさん、お薬は飲んでいますか?」
「ええ、飲んでいるわ。毎日」
「……じゃあ、誤差ですかね?」
「お医者さんは少し心配していらしたわ、元々マリオン様の魔力は強大だもの、今までが人に寄りすぎていたって」
スノウさんは首を振っていった。
「……」
なら薬の濃度を濃くした者を出した方がいいかもしれない。
念の為濃度を濃くしたものを取りだし、今まで飲んでいた薬と交換する。
「念の為同じ薬ですが効果が少し強めの薬を出します。それで一ヶ月効果を見てください。八ヶ月位になっていたら問題は無し、九ヶ月以降になっていたらまた薬を調整します」
「有り難う、アイリスさん」
「いいんですよ、スノウさんには色々お世話になっていますから」
「本当にごめんなさいね。出産が終わったら──」
「出産が終わってもしばらくは安静にしてください、あと、お医者さんにも言われているでしょうけど、一ヶ月お風呂は厳禁です」
「ええ、言われたわ」
「なら、大丈夫ですね」
「……スノウさん、少しだけ私怖いの」
「怖い?」
「私はロクに親から愛された記憶がないの、それに体が弱いからとマリオン様にも迷惑をかけてきたわ。そんな私の子が私の悪い所を引き継がないか、心配なの」
スノウさんの悩みは彼女の出自からの悩みだった。
確かに仕方ない、元々生贄として育てられ、侯爵様のお陰で思考が今のような風になったのだから。
そして、体が弱いのも陽光に弱いのも、スノウさんが抱える困難。
親として、子に引き継がれる事を恐れているのは分かります。
「スノウさん、お気持ちは理解できます。ですがそう怖がっていては胎教にはよろしくないと思います。それに、スノウさんには侯爵様がいらっしゃるじゃないですか」
「……そうね、マリオン様がいらっしゃるわ。でも、あの方に子どもが拒絶されたら──」
「スノウさん、それはないです、絶対」
「でも──」
「スノウ!」
立ち聞きしていたであろう侯爵様が入って来ました、ノックはして欲しかったです。
「君と私の子どもなのだよ、拒絶する訳がないだろう!」
「でも、私の悪い所を引き継いだら──」
「それを含めて愛するとも! 漸く授かったのだ、君との子を! ないがしろにする訳がないだろう!」
「──マリオン様……!」
スノウさんは目に涙をためて侯爵様に抱きつきました。
侯爵様は優しくスノウさんの白い髪を撫でています。
医療魔法の分析で、スノウさんの陽光に弱い性質などが引き継がれてないか調べて、引き継がれていない事を知っていましたが、敢えてつたえませんでした。
だって、余計なことでしょう。
安心するかもしれないけど、万が一私の魔法に不備があって引き継いでいたらスノウさんへのダメージが大きいですから。
だから、スノウさんを安心させるのは侯爵様のお役目です。
「では、一ヶ月後伺いますね」
「はい、待っていますね」
「アイリスちゃん、いつもありがとう!」
「いえいえ」
私はそう言って、レイオス様に手を握って貰い馬車の中に入りました。
そして屋敷へ帰宅する──と思って居ました。
「レイオス様、ここは……」
「エドモンの屋敷だ、今サーシャは実家に帰っている。またトラップ関係は全て解除済み、だから来た」
エドモン辺境伯様の屋敷に来た私は状況が飲み込めませんでした。
「どういうことです?」
「とにかくエドモンの話を聞いてほしい」
レイオス様に案内されるがまま、屋敷に入り、エドモン辺境伯様が待つ客室に案内されました。
「え、
「レラの奴のせいで不能になっているんだ、エドモンは」
「女性にこう言う相談をするのは恥だが……この事がバレたら、サーシャがショックを受ける」
「ああ……」
「……一応、勃起不全の治療薬ありますよ。安全妊娠薬作る際に一緒にできるものなので」
と言って錠剤が入った薬を置く。
「感謝する」
「行為をする、1時間前位に飲んでくださいね、最初は。二、三ヶ月以上経過したなら行為前でも問題ありませんが」
「助かる」
「では、失礼するぞ」
「ああ……ところで、まだ君達はしないのか?」
「私、まだ成長途中なので」
「……そういう訳だ」
私は少し茶目っ気を加えて言うと、レイオス様が顔を紅くしてぼそりと呟きました。
「そ、そうか。ではな、礼は──」
「葡萄ジュースでいいですよ」
「ワインじゃなく?」
「私もレイオス様もワインは飲まないんですよ」
「そうか。では葡萄ジュースと金貨を幾ばくか支払おう」
「大金は要りませんよ?」
と、釘を刺す私。
「分かっている」
そして、エドモン辺境伯様の屋敷を後にして、漸く帰路につくことができました。
「すまないね、私が事前に説明しておけば良かったのだが、エドモンから緊急で連絡がはいったから……」
「いいんですよ」
申し訳なさそうにするレイオス様に私は微笑み返します。
「ありがとう……」
「いいえ」
私達は家に入り、のんびりとお茶を楽しんでいました。
すると──
「アイリスちゃんー!」
「わ、王妃様⁈」
王妃様がやってきました。
何が用でしょうか?
「各地で、はやり病で病院が切迫状態らしいのよー‼ お願いだから万能薬作りをお願いー‼」
半泣きで言われ、私は頷きました。
「分かりました、では私は部屋で、調合錬金術で薬作りをしますので」
「ありがとー!」
「レイラ王妃、初耳だぞそんなこと」
「なんかね、人が統治している領地ではやり病がでたらしいのよ、そこから感染広がっていてね。メンフィス公爵やガイアス公爵領とか、マリオン侯爵の領地には今は入れないようにしているから感染はない見たいだけど、他がね──」
なんて事を聞きながら私は部屋に向かいます。
今の私は調合錬金術師、その為の仕事をしなければ──