「どうして子どもの祝福をするのに人数が限られているのでしょう?」
私はぽつりとつぶやきました。
「おとぎ話とおんなじで子どもに呪いを書けようとする輩がいるんだ、だから信用できる連中しか呼ばない」
侯爵様が解説してくださいました。
「そうなんですね」
「それに本当はもっと早い段階で祝福するんだ」
「母子の体調が良くなかったから?」
「そゆこと」
私は侯爵様の解説で一人納得していました。
「さて、そろそろお茶会も終わりだし帰るとするか」
「ではまた皆でお茶会をしましょう、お土産を持って帰って頂戴」
王妃様の言葉に皆様が帰る支度を始めました。
私はお土産を貰うと王妃様と国王様に挨拶し、レイオス様と帰宅しました。
「レイオス様、どうしたのです?」
屋敷に帰ると何か考え込んでいるレイオス様がいらっしゃいました。
「いや、レイラ王妃が、子ども達が大きくなったらダンスパーティを今の面々で開きたいから検討してくれと」
「ダンスパーティですか……」
私はぎこちなく笑います。
「どうしたのだね?」
「いえ、ダンスの練習なんてお母様が生きていた頃しかやらせて貰えなかったので忘れているかもしれないと……」
「……じゃあ少し踊ろうか?」
「宜しいのですか?」
「久しぶりに踊りたくなった」
私は促されまま庭にでます。
そして月明かりの下で手を取り踊り始めました。
4年近く空白の期間はありましたが、なんとか踊れましたが、それもレイオス様が促してくれるからです。
踊り終わると私は驚いた顔でいいました。
「レイオス様、ダンスがお上手ですね……」
「ティアに死ぬほど練習させられたんだ、自然にやれるくらい体にたたき込めって……」
やらかしました。
ティア様の話題を出してしまいました。
どうしましょう、どうするのが正解なのでしょう?
「アイリス、ティアの話題で私が傷つくと思っているかい?」
「……」
私はこくりと頷きます。
「心配症だね、アイリスは。大丈夫ただ懐かしくなっただけさ」
「本当ですか?」
「そうだよ」
私は少し安堵のため息をつきます。
そしてなんとか話題を変えようと考えて──
「侯爵様とスノウさん、メンフィス公爵様とメルト夫人の子ども達、可愛かったですね」
「ああ、そうだね、可愛かったね」
「私も、あんな風な親になれるでしょうか?」
「アイリス……」
「すみません、変な事言ってしまって……」
そう言うと、レイオス様は私を抱きしめてくださいました。
「君は良き親になれるよきっと、問題は私だ……」
「レイオス様……」
「前を向いている君と違い、今も過去を引きずっている……」
「それは同じです、私も過去を引きずっています」
私がそう言うとレイオス様は首を振ります。
「君は母君の事は自分で消化し、自分を虐げていた連中の事はどうでもいいと片付けた。だから前を向いている。でも私は──」
「レイオス様?」
「君を抱く勇気が無い、君と契る覚悟ができない、ずるずると引き延ばしだ。また失ったらどうしようという恐怖はあるのに」
「レイオス様……」
「すまない、今日は一人で寝てくれ」
「……はい……」
私はどうすればいいのか分からず、ただ小さく頷きました。
そしてその夜、久しぶりに一人でベッドに眠りました──
『お前まだうじうじしているのか!』
「うるさい……」
通信用の魔導器でレイオスはマリオンと話をしていた。
レイオスは頭を抱えて項垂れていた。
もう何をどうすればいいのか分からないからだった。
『レイオス、いくら何でもアイリスが不憫だぞ』
『そうよ、レイオス! 貴方アイリスちゃんを愛しているんでしょう!』
「それは勿論だ!」
レイオスは怒鳴るように言い返した。
『だったら、早く覚悟を決めなさいな!』
「それは、そうなのだが……」
『……まったく、仕方ないわね』
「仕方ないと言われても」
『愛しているなら、ちゃんと勇気を持ちなさい』
「……」
『自分の年齢の一割も生きていないお嫁さんばっかりに、負担をかけるのはどうなの?』
「それは……」
『マリオンとスノウ夫人が契約するまでに時間を要したのは知っているわ、でもそれは貴方達と違って仕方ないこと。スノウ夫人はガリガリに痩せ細っていたんだもの』
『そうそう、生贄って聞いたときは目を疑ったよ。普通生贄ってふくよかな子を選ぶじゃない? でもスノウは口減らしで食事もまともに貰えないような位痩せ細っていたんだ、それを通常に戻すには苦労したんだぜ。量を食わせれば吐いてしまうから、少ない量で栄養を取らせて、そして食べられるようにするのに』
「そこまでではないが、アイリスも痩せてはいた」
『痩せていた事は知っているわよ、だから今の標準体型になってアンタ何やっているのよって話なのよ』
「ぐ……」
レイオスは口をつむぐ。
『レイオス、大切にしているのは分かるわ。そして将来的には子どもを欲しがっているのも分かるわ、だったら契らんでどうするの⁈』
レイラの怒声が部屋に響く。
「もう少し音量を下げてくれ、アイリスが起きたら困る……」
『レイラ?』
『もう、分かったわよ、アディス』
レイオスはふーっとため息をついた。
『だが、レイオス。レイラの言う通りだ、アイリス夫人は健康そのもの、お前も心構えをしたほうがいい、でなければ二の舞、なんてことになるぞ』
「ぐ……それは」
『それと最悪の場合、我が兄オーギュストが寝取りかねんぞ』
「はぁ⁈」
『いや、かなり興味を持ってしまっていてな、兄曰く「愛想尽かしたら私にもチャンスはあるよね?」と馬鹿なことを言っていたぞ、本気で』
レイオスは視線をさまよわせた。
『今の一言でかなり焦ってんな』
『愛想を尽かすことはないだろうが、お前から離れるというのをやりかねない危うさはある』
レイオスはだらだらと汗のような物を流した。
『おーい、レイオス。わかってんなら、少しは危機感もてよー?』
「わ、わかっている……!」
レイオスは絞り出すように言うしかできなかった──