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第62話:レイオスが恐怖すること



 一人で眠った日から、レイオス様何か時折びくびくするようになられました。

 私が考え事をしていたりすると、おっかなびっくりに聞いて来ます。

 なにがあったのでしょうか?


「侯爵様、スノウさん知りませんか?」


 丁度、レイオス様が庭の手入れをしている時にいらっしゃった侯爵様とスノウさんに尋ねます。

「私は知らないですが……マリオン様?」

「勿論知っているよ」

「何があったのですか?」

「実はね──」



「──と、言う訳なんだ」

「王妃様……」

「これは擁護できませんわ……」

 スノウさんため息ついている。

「私も擁護できなかった訳さ」

「……」

 私はしばし考えます。

 ティアさんも、体を交わる行為をするのにはかなり時間がかかったと。

 ならば、体を交わる行為をしたことで私が不幸な目に遭うのではとトラウマを持っているのでは無いでしょうか?

 私は二人にその可能性をお伝えしました。

「あー、あり得る」

「そうですわね、伯爵様ならあり得ます」

「でも、とてもデリケートな内容だから聞くのをためらってしまいます」

「そうですわね……」

 スノウさんも困り顔。

「じゃ、私が聞いてこようか」

「「え?」」

「アイツと付き合い長いし、何かあったら私がボコられるだけだから! アイツ何処にいる?」

「薬草栽培している庭、です」

「ありがとう!」

 そう言って侯爵様は伯爵様の居る庭へと向かいました。

「こ、これで良かったのでしょうか」

「私も良かったかは分かりません……」

 スノウさんも、どうしたらいいか分からない様子、私も同じでした。





「よぉ、レイオス。お前が庭仕事なんて珍しいな」

 レイオスが庭で植物の手入れをしていると、マリオンがやって来た、

「アイリスが使用する薬草は私が直に育てた方がいいと思ったのでね」

「ほぉ、じゃあそんな奥さん思いのお前に質問だ」

 マリオンの言葉に何事かとレイオスは振り返った。

「アイリスちゃんと契らないのって、成長まっている以外に、契った途端不幸な目に遭うんじゃ無いかって思っている?」

「……」

 レイオスは図星をつかれて黙り込む。

「その黙り込み方は正解だな?」

「……何故そう思った?」

「思ったのは俺じゃなくてアイリスちゃんだよ」

「アイリスが?」

 レイオスは再度自分の聴覚を疑った。

「アイリスちゃんが聞くのはデリケート過ぎるから聞けないって言ったから俺が聞きにきたの」

「……」

「あ、その顔と沈黙具合、アイリスちゃんだったら誤魔化そうと思っている顔だろ?」

「一々指摘するのは止めろ!」

 マリオンにちくちくと刺激されて、レイオスは怒鳴った。

 腹が立ったのもある、だが事実を指摘されたのが大きい。

「契った後の結婚式でティアが殺されたのはやっぱりトラウマだよな」

「そうだ、だからどうしてもあと一歩踏み出せない」

「んー」

 マリオンは考え込んでいるようだった。

「でも、今は契らないとアイリスちゃんが殺されかねないぞ、何かあったとき」

「それはそうなのだ、だが怖いのだ」

「これは深刻な悩みだなぁ」

 レイオスの言葉にマリオンは盛大にため息をついた。





「──と言う訳で、やっぱりアイリスちゃんの言うとおりトラウマなってたー」

「そうですか……」

 戻って来た侯爵様の言葉に私ははぁとため息をつく。

 レイオス様は私を愛していない訳では無い、愛しているからこそ、怖くて失ったらどうしようと恐怖し、怯えているのだ。

 それを必死に隠している。

 押し殺している。

 私に幻滅されることを恐れている。

 ああ、そんな貴方だからこそ私は──惹かれたのです。

 でも、貴方の側に入れなくなる恐れがあるのは私も怖いのです。

 どうしたらいいのか、どうすれば貴方の恐怖心を取り除けるのか、私は知りたい。





「で、私に聞きにきたのね?」

 夜、私はレイオス様と共に眠り、ティア様と話す事ができました。

「これに関しては私がしばき倒しているけど、上手くいかないのよ」

「そうなのですか? ……ですが、しばき倒すのはほどほどに……」

 いえ、本当。

 ティア様は過激な所がありますから。

 その過激さに、レイオス様が救われた一面もあるのでしょうが……。

 ですが、今はその過激さがレイオス様を苦しめていると思われます。

「ティア様、どうかお願いです、レイオス様をしばき倒すのはやめてください、貴方の過激さでレイオス様は救われましたが、今は苦しんでいます」

「んー……そうね、今の奥さんがそう言うなら私はほとんどお役御免な感じかしら」

「いえ、そこまでは……ただ、レイオス様の背中をそっと押してあげて欲しいのです」

「背中をそっと?」

「はい」

 レイオス様は一歩前に出る勇気を失っている。

 だからそれをそっと後押しして欲しいのです。

「アイリスちゃん」

「はい」

「それは貴方の役目でもあるわ」

「分かっています」

 一人でダメなら、二人で、レイオス様のお心を巣くう闇をはらうのが私達の役目──





 朝目を冷ますとレイオス様はいませんでした。

 書き置きには、「外の庭の掃除をするから食事は一人で」と書かれていました。

 私は着替えその書き置きを無視してレイオス様の元に向かいます。


「レイオス様」

「アイリス、起きたのかい?」

「お話があります」

「……何かな?」

「次回行われる、ダンスパーティが終わったらお話したいことがあるんです、聞いてくれますか?」

「ダンス、パーティ?」

「大分先だが、何かあるのかい?」

「ええ、何かある予感がするのです」


 そう、私にとってどこか不快にさせるものが現れる予感が──

 それと対峙した時、静かに対応できたなら──


「──どうか、お話させてください。私と貴方の未来の為に──」

「未来……」

「では、失礼致します」


 私は下準備を行った。

 レイオス様が逃げないための。

 卑怯かもしれないが、これ位の猶予を与えていたのだから貴方も、と周囲に囲わせるために。

 レイオス様、どうか、私と未来への一歩を進んでください──






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