それから数ヶ月の時間が流れました。
レイオス様は相変わらずですし。
侯爵様はスノウさんと子ども達に愛情を注ぎ、スノウさんは侯爵様を愛しつつも、子ども達に目一杯愛情を注いでいました。
メンフィス公爵様とメルト夫人に似たような感じでした。
カイル侯爵は釣書が山のように来ていますが、まだお相手を見つけるには至らず。
正確には、まだ自分が、若輩者でなおかつ未熟者だと感じていて結婚するべきではないと思い込んでいるのを周囲がなんとかお相手を探して貰いたいようです。
ガイアス公爵様とミラ夫人は仲睦まじくですが、時折ミラ夫人の一言余計な言葉でガイアス様がこう……アレな感じになります。
エドモン辺境伯様はサーシャさんと仲睦まじく、けれども子どもはもう少し後にしようという話しをしておられました。
リーゼン伯爵様とラティア夫人は相変わらず仲が良く、時折屋敷に来てはレイオス様を茶化して帰っています。
頭の痛そうな顔をするレイオス様がちょっと可哀想で可愛かったです。
他の方々も、皆穏やかに過ごしていました。
そして迎えたのが──
「レイオス様、このドレス似合いますか」
と、レイオス様が選んだドレスをまとってくるりと私は回りました。
「ああ、アイリス、似合っているとも」
レイオス様は穏やかに微笑みました。
今日は王宮で舞踏会、つまりダンスパーティ。
今日の為に皆さん、ドレスを新調していると聞きました。
何せレイオス様が王宮のダンスパーティに出るのですから。
皆さん衣装を新調しているとおっしゃいました。
「あのレイオスがダンスパーティに出るんだぜ、少しは格好いい姿で出迎えたいじゃ無いか!」
「アイリスさんの初めての夜会デビューですからね、綺麗な格好をしたいのです」
と、侯爵様とスノウさん曰く。
他の皆様も似たようなものでした。
ただ、今回は私も初めてお会いする方がいらっしゃいます。
グラン辺境伯様です。
私の継母と腹違いの妹達の住んでいる土地の領主。
レイオス様を含む他の皆様は面識がありますが、私にはありません。
それからディオス伯爵の夫人になったレティーナ夫人と、その夫人の兄であるクレスト侯爵とエリナ夫人。
エリナ夫人はディオス伯爵の祖父母に預けられた妹君だそうです。
そう言えばそんな話したような、聞いたようなちょっとあやふやですがその方々も面識がレイオス様はあるとのことでいらっしゃいます。
いつもより人数多めにしたのは、レイオスにそろそろ引きこもり生活は止めろという国王様の心遣いによるもの。
レイオス様いわく。
「大きなお世話だ!」
とのこと。
「でも、本当引きこもりと言っていいほど、私が関わろうとしなくては他人に関わりませんよね?」
と私が言うと反論もできず口ごもってしまいます。
これは国王様も王妃様も心配してしまいますね。
馬車で王宮に向かい、招待状を見せる事で中に入り、案内されると豪奢なダンスフロアが広がっていました。
「アイリスちゃん、レイオス、こっちだ、こっち!」
と侯爵様が他の皆様が集まっている場所へ読んでくださいました。
「何か行きたくない」
「レイオス様、子どもみたく駄々をこねるのは止めてください」
「ぐぅ……」
レイオス様はしぶしぶ私を案内しました。
どれだけ関わりたくないんですか?
よその御方と?
「アイリスちゃん、ありがとう。レイオスを連れてきてくれて」
「私こそ、このような素敵な場所に皆様と参加できた事を嬉しく思います」
「それはレイラ王妃に言って差し上げな、狂喜乱舞して喜ぶだろうから」
「そうでしょうか」
「ええ、とてもお喜びになりますわ」
スノウさんも同意見、取りあえず、私は挨拶をしようと試みました。
「ディオス伯爵様とレティーナ夫人、ごきげんよう。レティーナ夫人は初めまして」
「初めまして、ごきげんようアイリス夫人」
「お二人の馴れ初めを伺っていても?」
「そうだな、私達と会った時、ディオス伯爵は独身だったはずです」
「それは……」
「私に説明させて頂いても?」
そう言って現れたとがった耳の男性はレティーナ夫人とどこか似ていました。
「私はクレスト侯爵といいます、初めましてアイリス夫人」
「初めましてクレスト侯爵様」
私は挨拶をします。
「今あそこで談話しているエリナがディオスの妹だったのです、結婚式にはディオス殿とエリナの育ての親──祖父母とエリナの友人達が参加しました、そこで我が妹はディオス殿に一目惚れしたのです」
「まぁ……」
「ただ、ルイーズの件があり、両親はディオスとの結婚を許可しませんでした──が、ルイーズの件が無くなり、ディオス殿は爵位はさがったものの、伯爵として領地の立て直しを始めたのを聞いてレティーナは今を逃すと次はないと両親を説得し、エリナのつてで見合いをし、結婚に至りました」
「なるほど、ただ気になるのは私達にはその情報は来なかった事ですね」
「それは後ろめたかったのです、私が」
ディオス様がそうおっしゃいました。
「式を簡素なものにしたとはいえ、堂々と被害者であるアイリス夫人に結婚しますなんて厚顔無恥と思われそうで……」
「いえ、私が嫌悪を抱いたのはルイーズとその両親だけで、ディオス伯爵様には何も悪い感情は抱いていませんよ、寧ろ結婚のお祝いをしたかったくらいで」
「ほら、ディオス。アイリス夫人には誠心誠意に対応していれば問題ないと言ったでしょう?」
「ああ、そうだねレティーナ」
そんな事を話していると、王妃様と国王様が姿を現しました。
「今日はよく来てくれた」
「レイオスが参加してくれたんだし、皆で踊り明かしましょう!」
「レイラ……」
「事実でしょう?」
レイオス様と私以外の方は苦笑してました。
レイオス様……もっとこういうのは参加しましょうよ。
綺麗な音楽が流れてきました。
「では、踊ろうか」
「はい」
レイオス様が微笑んでおっしゃったので、私も参加することにしました。
ダンスは習っていたけれど、夜会のダンスは参加をしたことがないので不安でしたが、誰にもぶつからず踊ることができました。
何かとても不思議な気分でした。
沢山の方々も一緒に踊っていて、その中の一人なのに。
レイオス様とまるで二人きりのような不思議な感覚。
皆さんに祝福されているような感覚に陥りました。
きっと私の気のせいでしょう。
そう思った時のことでした──