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最終話:愛しているから~契りを結ぶ、そして貴方と共に~



「「「アイリスぅうう──‼」」」

 聞き覚えのある声がしました、衛兵達が現れてその女達を捕まえようとしています。

「何よ、なんでお前がそんな扱いを受けるのよ!」

「私達は金も身分も何もかも奪われたっていうのにぃい!」

「代わりなさいよ! アンタにそんな身分勿体ないわ!」

「そうよそうよ!」

 かつての継母と腹違いの妹達がわめいています。

 しかし私には何の感情も湧いてきません。

 ただ、分かるのは、おそらくグラン辺境伯様の荷台か何かに紛れ込んできたのでしょう、おそらく。


 証拠にグラン辺境伯が頭を抱えて、荷台に紛れ込んだのかとブツブツ呟いていらっしゃる。


「つまみ出してください」

「よ、宜しいのでアイリス伯爵夫人?」

「ええ、王妃様がそれで宜しいと言うならつまみだし、入れなくしてください、私はこの方々とは無縁なので」

 どうでもよかった。

「うぎぃいい‼ アイリス‼ お前が国に報告しなければぁ‼」

「一人だけ貴族の生活を満喫するなんて許さない!」

「この阿婆擦れあばずれ! どうやって相手をたらし込んだ、教えなさいよ」


「阿婆擦れ? 今私の妻を阿婆擦れと言ったか?」


 あ、ヤバい。

 レイオス様が顔を真っ赤にし、黒炎を口から吐き出している。

 ぶち切れている、初めて見るけど、分かる。


「貴様らの魂も残さず焼いてやろう、我が妻を罵倒し続けた罪、命を持って償え」

「「「ひ、ひぃいいいい‼」」」

 腰を抜かす連中を炎が迫る。


「レイオス様!」


 私はもうどうでも良い連中を庇う。

「っ……!」

 炎が私の肩を焦がす。

 レイオス様の炎が消え私を抱きしめる。

「──なんて無茶な事をした!」

「こんな連中を殺すことで、貴方の手が汚れるのは嫌だったんです……」


「こんな殺す価値もない連中で、貴方の手を汚す必要はない……」


 そう、殺す価値などない。

 こんな愚か者を殺す必要もない。

 だから、どうか、どうか。


「……アイリス、君が言うならそうしよう」

「レイオス、取りあえずアイリスちゃんを救護室へそこで応急の手当てを!」

「分かりました」

 レイオス様は私を抱きかかえてその場から立ち去りました──





「さて、貴方達だけど、王宮に不法侵入してただで済む訳、ないのは分かるわよね?」

「「「ひっ!」」」

 レイラは嗤う。

「この者達の処遇は王国管理の鉱山労働の強制。殺す価値ないものねぇ?」

「レイラの処遇に意義のあるものはいるか?」

 誰も手を上げない。

「連れて行きなさい」

 悲鳴を上げて連れて行かれるみすぼらしい女共を見てレイラは嗤う。

「アイリスちゃんを傷つけてきたのが今になってきたのよ、ざまぁみろ」

 と。

「王妃様! 不快な者を入り込ませてしまい、申し訳ございません!」

 グラン辺境伯が頭を下げる。

「いいのよ、入り込ませてくれてむしろ感謝しているわ」

「どういうことですか?」

「あの連中は、アイリスちゃんがルズ子爵の元にいたときアイリスちゃんをいたぶっていた連中なのよ」

「つまり──」

「いつか私の手で処分してやりたかったのよ、だから感謝しているわ」

 嗤うレイラに、グラン辺境伯はなんともいえない表情を浮かべた。





「やれやれ、ルズ元子爵同様馬鹿な奴らだったな」

 マリオンは肩をすくめた。

「マリオン侯爵様、もしかしてアレがアイリス夫人を虐げてた連中ですか?」

 リーゼン伯爵が尋ねる。

「リーゼン、お前の言う通りだよ」

「で、ルズってのは俺の前任者ですよね?」

「そうだ」

「……どんな扱いを受けていたんですか?」

 リーゼンの問いかけに、マリオンは耳元で囁いた。

「えぇ⁈ そんなに酷いことされたのに、命取らないとか優しすぎません⁈」

「だから俺や王妃が処分対応したんだよ、あとお前声でかいな昔から」

 マリオンはリーゼン頭を軽く叩く。

「いで、じゃ、じゃあもしかしてレイオスの兄貴がぶち切れていたのは……」

「嫁さんに酷い事しいてた連中が厚顔無恥さらけ出して、嫁さん罵倒するのにぶちっといったのが正解だな。我慢できなかったんだろう」

「レイオスがキレてなかったら、私がキレてたからな、あとレイラ王妃が」

 マリオンは遠い目をした。

「しっかし、王国管理の鉱山での女が強制労働っていうと……」

「おっと公の場ではここまでだ、あんまり言うことじゃないからな」

 マリオンはそう言ってリーゼンの口を閉ざさせた。





 応急処置の後、私とレイオス様は一足早く屋敷に帰宅しました。

「アイリス、大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫です」

 そして寝室に向かい着替えて横になる。

 私の肩にはくっきりと火傷の痕が残ってしまった。

 ベッドに横になると、レイオス様は肩の火傷の痕に触れて、悲しそうな顔をしました。

「すまない、アイリス……誰かに傷つけられるのではなく、私が傷つけてしまうなんて……」

「いいのです、レイオス様……」

 レイオス様は肩にキスをしました。

「アイリス」

「何ですか?」

「君に触れてもいいかい?」

 ああ、ついに、そういうことなのですね。

「どうぞ、触れてください。私の髪から爪の先まで」


「貴方の物ですから」


 そうしてレイオス様は触れてくださった。

 熱帯びた手で、この体を、傷を、ナカを、優しく、蕩けるように、喰らうように、抱いてくださいました。



 翌朝目を覚ますと、レイオス様も同時に目を覚ましました。

「ティアは本当逝ってしまった」

「ああ、やはり」

「次こそは失わないように、と釘を刺されたよ」

「ならば、私の事を手放さないでください」

「勿論だ」

 そうして口づけをしました。

 契約はこれで結ばれた、貴方が死ぬまで、私は貴方のもの。

 この体が共にくちる日まで、愛し合いましょう、レイオス様。

 私の愛しい人──
















END

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