契った日の翌日の夕方、皆さんがこぞってお祝いの品を持ってきました。
若干居心地が悪かったです。
恥ずかしくて。
「いやぁ、漸く契ったか! これで安心できるな!」
「ええい、マリオン。私とアイリスを辱めるのは辞めろ! 趣味が悪いぞお前達!」
「だって、全然契約を終結する為の契りをしなかったんだもの」
「だからといってこんな祝いの品を贈るのは悪趣味だ」
「はい、妊娠しやすくなる薬を送るのはどうかと思います、王妃様」
「えーオーギュストに命令して直々に作らせたのよ」
私は盛大にため息をつきました。
「王妃様、私、作れるんですけどその薬」
「でも、より体への負担が軽くなる母子ともに安全になる薬を用意したのよ!」
「はぁ……」
「子ども欲しくないの?」
「「欲しいですが?」」
レイオス様と同じ発言をしてしまいました。
「だったらどうぞ、使って頂戴!」
と押しつけられました。
「……使います?」
「まだ、使わない」
「何故です」
レイオス様の発言に首をかしげます。
「もう少し二人がいい」
「どれ位ですか?」
「1年位」
「……私が我慢できません」
私はレイオス様にすり寄る。
「アイリス?」
「レイオス様の御子を宿せるのですもの、それに子ども達はきっと可愛いでしょう」
「……」
無言になられるレイオス様、これは悔いているのでしょう。
「レイオス様、戦争時子どもも殺した事を悔いているのですね」
「仕方なかったとは言え、私は子どもも殺した。子ども達も洗脳済みだったからだ」
「それは……」
「お陰で100年経ってもそう言う反乱は起きていない」
「……」
「そんな私に子どもを抱く権利はあるのだろうかと、悩んでしまうのだ」
「レイオス様……」
私はかける言葉が見つかりませんでした。
「あーなるほど、レイオスが、ねぇ」
翌日、侯爵様とスノウ様が来訪なされました。
レイオス様は庭の土いじり。
なので私がお二人とお話をしています。
「っても、女子ども率先して殺したのはレラの奴だからな、レイオスは其処まで重荷に負う必要ないと俺は思うんだが」
「そう、なのですか?」
「うん、俺は殺すのを躊躇って施設送りにしたけど赤ん坊とかは」
「……」
「まぁ、確かにレイオスもそこそこ年取った子どもは殺してた、武器向けて襲ってきたしな俺等に」
「そうなのですね……」
「うん、レラの行動ほど酷くないから気にしなくてもいい気がするんだよなぁマジで」
「……」
私は少し考えて尋ねました。
「一族の方は皆殺しにしたと聞きましたが……」
「ああ、黒炎の一族は子どもでも厄介だ、だから魔族だけの世界を求める意思に染まった子どもは殺すしか無かった」
「……赤ん坊は?」
「黒炎の一族とはいえ赤ん坊だ、放置すれば死ぬと思ったらしい。実際は排除された黒炎の一族側の連中がこっそり様子を見に来て全員引き取って育てていたらしい」
「もしかして、以前襲撃したのは……」
「その子どもだそうだ、今の黒炎の一族の長老の息子として育てられていたが、反抗期とか色々あってかなり乱暴になっていたそうだ」
「そう、なのですね」
「そういうこと」
「……」
「アイツの自罰癖はヤバいからなぁ」
「……はい」
不思議と涙がこぼれてきました。
「よし、俺ちょっとアイツと話してくるわ」
「ありがとうございます」
「マリオン様、くれぐれも殴り合いにはならない様に!」
「ハイ……」
スノウさんの一言でマリオン様はどこかおどおどして部屋を出て行かれました。
「スノウさん、御子様達は?」
「リチアとフレンですね。お義母様とお義父様に任せて出て来ました」
「お二人の反応は?」
「私の孫を抱けるなんて思っても見なかったと驚かれ、涙を流して喜んでくださいました」
「それは良いですね」
そんな話をして心をなんとか穏やかにさせながら不安を押しつぶしていました。
「レーイーオース?」
「何だ、マリオン。一体何の用だ?」
レイオスはため息をつき、土いじりを止めて立ち上がった。
「俺影でしょっちゅう言っているよな、アイリスちゃんは大事にしろ、泣かすなって!」
「?」
「アイリスちゃん、お前が子作りに後ろめたさもっていてしてくれないんじゃ無いかって泣いたんだよ!」
「⁈」
「お前が悲しませてどうする! せっかく本格的な夫婦になれたって言うのにさ!」
「わ、私はどうすれば……」
「とにかく、こんなところで土いじりしてないで話合え」
「……分かった」
レイオスは急いでその場を後にした。
「どうしてでしょう、涙が止まらないです」
「それほど悲しかったのでしょう、愛する人と結ばれてうれしくて、それでは子が欲しいけど相手がそれを望んでいないというズレを知ってしまったから」
「スノウさん……」
スノウさんは涙を拭ってくださいました。
「アイリス!」
「レイオス様……」
レイオス様を見ると再び涙がぽろぽろとこぼれ落ちます。
「すみません、私の我が儘で……」
「違うんだ、アイリス。もし子どもを授かることができたとして、成長した子どもがもし私の所業をしってしまったら君と共に離れてしまうんじゃないかと怖かったんだ……!」
「レイオス様……」
「伯爵様、それは隠しているからダメなのです、幼い頃から正直に教えましょう」
「スノウ夫人」
スノウさんは続けました。
「ガイアス公爵はそうやって子どもをに言い伝え、関係が良好だと、今平和な理由も理解してくれたと」
「……」
「レイオス様、私も言って聞かせます。決してレイオス様は戦争の英雄に好きでなった訳ではないことを、好きで自分の親を殺した訳ではないことを……ダメですか?」
レイオス様に尋ねると、レイオス様は静かに頷かれました。
「ありがとう、アイリス。決心がついたよ」
「有り難うございます、レイオス様」
望まれて生まれてきて欲しかったので私はうれしかったです。
それで余計に泣いてしまい、戻って来た侯爵様がレイオス様を叱ろうとしましたが、スノウさんのおかげで事なきを得ました。
それから数日後、妊娠に良い時期が近づいたのでレイオス様に報告しました。
貰った薬は私の体に合うように調整されており、オーギュスト様の力量が分かりました。
「レイオス様……」
「アイリス……」
薬を飲んで、口づけをしてベッドに寝ました。
体を交わる感触は心地良く、熱が体の内を暖めるような感触は酷く心地の良い者でした。
それから一ヶ月後、月の物が来ないのを理解し、調べると妊娠していました。
レイオス様に報告するとうれしそうに微笑まれ、私を抱きしめてくださいました──