いつものように、侯爵様とスノウさんがやって来ました。
「アイリスちゃん妊娠おめでとう!」
「はい……有り難うございます?」
私はまだ何も言っていないのに、侯爵様何故気付いたんでしょう?
「いや、ちらっと見たらお腹に二つの光が──いでででで‼」
「マリオン、勝手に私の妻の体を覗き見るな……‼」
「妊娠おめでとう、アイリスさん。そしてごめんなさいね、マリオン様がデリカシーなくて。本当は貴方の口から聞くまで待つのが正しかったのでしょうけど……」
「いえ、スノウさんなら、大丈夫ですよ」
「それなら良かった」
「スノウ助けてー!」
侯爵様が悲鳴を上げているが、スノウさんは微笑んだまま。
「今回はマリオン様が100%悪いので」
「そん……ぎゃあああああ‼」
何か聞いちゃいけない音を聞いた気もしましたが、気にしないことにしました。
「いででで……私を殺す気か⁈ レイオス!」
「デリカシーのない貴様が悪い」
「そうですよ、まだ妊娠安定期でもないのに本人の口からではなく勝手に『視て』言ってしまったマリオン様が悪いです」
「スノウまで、そんなぁ」
「当然です、流れてしまったらどうしようという不安があるし、他にも色々と不安があるのですよ!」
「そうですよ、侯爵様。ですからこの件はご内密に……」
「んーでもさ、レイラ王妃にだけは報告した方が良くない?」
「「あー……」」
レイオス様とスノウさんが何かを悟ったような顔をします。
「だって妊娠だって言わないとアイリスちゃんに抱きつくじゃないか、あの王妃様」
「……確かに」
「そうだな……」
「お邪魔するわよー!」
「「げ」」
レイオス様、侯爵様、そろって嫌そうな顔をしました。
噂をすると来るって本当ですねぇ。
「アーイリスちゃーん!」
そう言って私に抱きつこうとして、何かに気付いて王妃様は抱きつこうとするのをおやめになりました。
「アイリスちゃん、もしかして、妊娠したの?」
「ええ、一応……まだ安定期にはなってないので」
「ごめんなさいね、気を遣わせてしまって」
王妃様は私の体を案じるような事をおっしゃいました。
「レイオス、もっと奥さんの体を大事になさいな」
「いや、その……すみません」
レイオス様は申し訳なさそうに謝罪してきました。
「王妃様、レイオス様は悪くないのです」
「はい、王妃様。悪いのはマリオン様なのです」
「ちょ⁈ スノウ⁈」
慌てふためく侯爵様。
「どういうことかしら?」
スノウさんが事情を説明すると、王妃様はマリオン様の頭を鷲づかみ増した。
「マ~リ~オ~ン~⁈ アンタね! そういうデリケートな事はアイリスちゃん達が言い出すまで言わないのが普通でしょうが‼」
「あいでで‼ すみません、すみません‼」
「次同じ馬鹿やったらその頭かち割るわよ!」
「止めてください! 死んでしまいます!」
「なら言わないように!」
そう言って王妃様は侯爵様の頭から手を離しました。
「こんな大切な次期に来てごめんなさいね、レイオスから安定期の連絡があるまで来ないようにするので、体を大事にしてね」
「王妃様……」
少し驚きましたが、王妃様のお心遣いに、感激しました。
「マリオン、この事は内密にね」
「分かっております」
「あの、宜しければいつものように来て下さいませんか? 私妊娠も子どもも初めてなので不安で……」
私はスノウさんに言う。
「──分かりました、マリオン様。私をいつものように此処に連れてきてくださいな」
「子どもはその間どうする?」
「お義母様とお義父様に頼みますわ」
「……分かった」
「有り難うございます、マリオン様」
子どもが生まれてから、スノウさんは侯爵様を尻に敷いているように見える。
最初の頃は後ろ一歩下がっている感じでしたが……
これが母性というものでしょうか?
でも、一人で抱え混みすぎないところがスノウさんの凄いところかと。
「でも、今日は帰りますね。アイリスさん、お体を大切に」
「私も帰るわ、安定期になったら教えて頂戴」
「はいスノウさん、王妃様」
三人が帰られるのを見送ると、私はレイオス様に気を遣われながら、屋敷に戻りました。
「薬は飲んだかい?」
「はい、飲みました」
「では、ゆっくり凄そう、薬が足りなくなったらオーギュスト殿に頼もう、レイラ王妃にお願いして」
「はい」
そう言って部屋の中に入って行きました。
レイオス様は、毎日薬を飲んでいるかなどを気にしておられました。
それもそのはず、もしレイオス様の要素を強く持つ子どもがお腹にいるならその子の炎が消えてしまうか、私がその子の炎で燃やされてしまうか、この二択が待っているからです。
だから、毎日レイオス様は薬の量を確認し、私に薬を飲ませてくださいます。
少々過保護ですが、それ位、私と私のお腹の子を大切にしてくださってくれます。
そんな中ふと思い出しました。
お母様の事です。
お母様は私が妊娠中は、お祖父様とお祖母様が気を遣ってくださっていたそうです、あの男は……そんな家が嫌だったのか帰ってこない日が何日もあったそうです。
子どもが生まれても興味を持とうとせず、父親の役目を放棄したからお祖父様とお祖母様がその役目を担ったそうです。
産まれる前から父親と呼ぶべき男から愛されない。
そんな事はないのだと安心しています。
レイオス様は、私の事も、お腹の子どものことも大切に思っていますから。
あの男がこのことを知ったらどう思うでしょうか?
別になんとも思わないのですが。
知る手段もないでしょうし。
きっと。
「アイリス、どうしたのだい?」
「いえ、ちょっと
「胎教に悪いだろう、気にしなくていい」
「そうですね、気にしないことにします」
私はレイオス様の提案に頷き、お腹をさすります。
元気に生まれておいで、私とレイオス様の愛しい子──