安定期に入り、スノウさんを診ていたお医者様が私の診察をしてくれることになりました。
「おめでとうございます、双子ですね。順調に育っていますよ。ちゃんと動いていますし」
「ああ、良かった」
お腹を診てもらい、私は安堵のため息を零しました。
「ただ、片方の子はレイオス伯爵様に似ているので薬の服用を続ける必要があるかと」
「分かりました」
男の子か、女の子か分からないが片方はレイオス様に似ているのですか。
薬を飲み続けなければいけないと私は自分に言い聞かせます。
「何かあったらすぐ私に連絡を下さいませ」
お医者様はそう言ってお腹までめくっていたマタニティドレスを直してくださいました。
「有り難うございます、侯爵様直属のお医者様なのに、診てくださって」
「いいえぇ! 奥様が妊娠し、出産もスムーズに行ったのはアイリス夫人、貴方様のお陰です。ですから気兼ねなく私を読んでください」
「有り難うございます」
「いいえ、こちらこそ」
お医者様が部屋からでるとレイオス様が部屋に入って来ました。
「アイリス、どうだった?」
「はい、順調だと。そして一人はレイオス様似の子どもだともおっしゃっていました」
「私似、か」
「はい」
レイオス様は少し複雑そうな顔を成されました。
「どうしてそんな複雑そうな顔を?」
「私似ということは黒炎の一族の血が濃く出ている、出産時君を焼いてしまわないか不安なのだ」
「その為の薬なのですわ」
「……そうだな、ちょっと王宮へ薬を貰いに行ってくるからスノウ夫人と談話でもしているといいだろう」
「はい、レイオス様」
レイオス様が出て行くとスノウさんが入って来ました。
「アイリスさん、体調はいかが」
「スノウさん、調子はいいですが……」
「いいですが?」
「食べられる物が最近限られてしまったのが残念です」
「分かるわ、私もそうだったから」
「スノウさんは果物しか食べられなかったんですよね?」
「ええ、薬は飲めたけど、それ以外は微弱な魔力を宿した果物ばかり、マリオン様には苦労をさせてしまったわ。アイリスさんは何が」
「柑橘系のものじゃないとちょっと……」
そう私は果物で更に限定されて柑橘系の要素が入った物じゃないと食べられないのだ。
逆を言えば柑橘系の要素が入っていればジュースやゼリーでも食べられる。
スノウさんは果物の形をしてないと行けなかったのと、微量の魔力が無ければ体的にダメだったので、私とは違った意味で食べられる物が制限されてしまっていたそうです。
「我が儘なのは分かりますが、白いパンやスープが恋しいです。今は匂いもダメなんですもの……」
「分かります、私もそうでした」
スノウさんが手を握って励ましてくださいます。
「お腹の子ども達の成長を、把握できているけれども薬を作るのは却下されているのがもどかしいです」
「仕方ないはあの薬を作るのは大変なのでしょう? 今の体でやったらダメにきまっていますわ」
「……確かに、そうですね」
あの薬は作るのに材料を揃えるのは今は苦ではないけど、作るのは労力を使う。
この体ではお腹の子に悪影響だ。
「「アイリス‼」」
「伯父様、伯母様」
どうやって此処にきたのでしょう?
そう思うとレイオス様が姿を見せました。
「アイリスちゃんが教えていいって言ったから教えたら連れて行ってくれって頼まれてさ」
「アイリス、体は大丈夫かい?」
「ええ、今のところ母子ともに順調ですわ、伯父様」
「それは良かった……」
伯父様は安堵したように息を吐かれました。
「双子で、片方はレイオス様似だと」
「何⁈」
「アイリスちゃん、大丈夫なの?」
伯父様と伯母様の顔色が変わり、不安そうな表情をなさっていました。
「大丈夫です、薬を飲んでおりますし、お医者様にも診て貰っています。何より自分の体の事は一番私が分かっています」
「そう……わかったわ、体に気をつけてね」
「無理はするんじゃ無いぞ」
「はい、伯父様、伯母様」
そう言って頭を撫でてくださいました。
少しお母様達との事を思い出しました。
無関心なあの男にかわり、お祖母様とお祖父様は愛情を注いでくださいました、お母様も同じように愛情を下さいました。
でも決して甘やかすだけではありませんでした、時に厳しく、けれど優しく私を愛してくださいました。
私が体調を崩し寝込んだときは寝ずの看病もしてくださいました。
「出産の時は私が立ち会うわ」
「伯爵様は私に任せてくれ、きっとオロオロするだろうか」
そう、これはきっとそれに近いのでしょう。
「有り難うございます、伯父様、伯母様」
「「アイリス
私を姉と呼んだ子達が部屋に帰ってきた。
「レイモンド、マーガレット。どうしたのだ?」
「だって、アイリスお義姉様は、お父様の養子なのでしょう。だったら私達の義理のお姉様になるわ!」
「そうだよ、父上。アイリス義姉様になるじゃないか」
「アイリス義姉様、男の子、女の子?」
「まだ分からないわ、でも双子ということは分かったわ」
「わぁ、だったらどっちかが女の子だといいなぁ」
「僕は男の子がいいなぁ」
「こらこらお前達、アイリスに負担をかけるのは止めなさい」
「「はーい!」」
元気の良い返事に、私はつい微笑んでしまいました。
可愛らしくて。
そう思って居ると視線を感じました。
レイオス様です、どうやら人見知りモードに突入中。
後ろで侯爵様があきれ顔をしておられます。
「おお、伯爵様! そんなところから見ていないでどうぞ中へ!」
「は、はいぃ……」
レイオス様のコレ、いつ治るのでしょうね?
「一気に子どもが二人もとはめでたいですなぁ!」
「は、はいぃ」
「……伯父様、レイオス様をいじめるのはおやめになってください。レイオス様は人見知りが激しいのですから」
「いじめているつもりはないのだがなぁ……」
「はいはい、貴方。レイモンド、マーガレット。帰りますよ」
「「えー⁈」」
伯父様の子ども達──私の義理の弟妹達は不満そう。
「伯爵様とアイリスちゃんの邪魔はしないの! 行くわよ!」
伯母様、ずるずると伯父様と子ども達を引きずって出て行きました、母は強しとはこのことを言うのですね。
伯父様達が居なくなると、レイオス様は薬の瓶を安全な場所に置いてから私を抱きしめます。
「レイオス様、本当に伯父様達が苦手なのですね」
「苦手というか……いや、苦手なのだろう、あのまっすぐな目が……」
「……そうですか……」
レイオス様は英雄と呼ばれる程魔族も人も殺めてきました。
結果、英雄伯爵と恐れられています。
だからこそ、恐れる事無くまっすぐ見てくる方は苦手なのでしょう。
「レイオス様、いずれ伯父様達とも仲良くしてくださいね」
「……時間はかかりそうだが、努力はする」
「それでいいのです」
私が微笑むと、レイオス様は微笑み帰されました。
私の可愛い子ども達、みんなが貴方達を待ち望んでいるわ。
だからほら、怖がらないでね──