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第4話:王妃は語る



 レイオス様と伯父様達が仲良くなるように侯爵様が取り計らってくれた。

 でないと、子どもが生まれた時大変だろうと、特に大きくなった時。

 二日おきにレイオス様を伯父様の家に連れて行き慣れさせたそうです。

 慣れるには二ヶ月かかりました。

 レイオス様の人見知りには常々苦労させられます。

 まぁ、だから可愛いのですが。

 二ヶ月間、親戚も集まってあれこれ揉まれた結果人馴れしたレイオス様は普通に対応することができるようになりました。



「レイオス様」

「アイリス、薬は飲んだかい?」

「ええ」

 今日もレイオス様は薬を飲んだか尋ねてくださいます。

 私は先ほど飲んだので頷きました。

「薬はきちんと飲むのだよ」

「分かっております」

 私が微笑むと、レイオス様も微笑み帰してくださいました。

「では食事にしよう、今日はレモンのゼリーとオレンジのジュースにしてみたよ」

「有り難うございます」

 柑橘系であれば、加工品でも食べられるのが救いです。

 スノウ様は加工品が食べられなかったと聞いておりますから。


 食事の内容は、妊娠中は別々。

 なので、最初の時の様に溶岩のスープにもどってしまっています、レイオス様の食事が。

 私の具合が悪くなったら対応しなくてはならないからという理由でしたので反論いたしませんでした。


 私の食事が普通に戻ったらその時はまた同じ食事に戻すという約束をしています。


「アイリス、どうしたんだい?」

「いえ、こうして家族・・で食事ができるのがうれしいのです。お腹の子達も喜んでいるでしょう」

「──ああ、そうだね」


 お母様が妊娠してから屋敷に寄りつかなくなったあの男とは違う。

 私は幸せなのだ。

 何せ夫であるレイオス様が側に居てくださる。

 居ない時はスノウさんが居てくださる。

 私は友人にも夫にも恵まれて幸せだ。


「アイリスちゃーん! どう調子は?」

「王妃様」

 安定期になってから王妃様は柑橘類を土産に屋敷を度々訪れるようになってくださいました。

「はい、安定期に入ったのと薬の出来も良いのですこぶる調子は良いです」

「それは良かったわ! レイオス、これお土産」

 お土産は柑橘類の果物と、ジュースとゼリーの詰め合わせでした。

「有り難うございますレイラ王妃」

「いいのよ!」

「もう六ヶ月経ちましたからね……」

「薬の効果を考えると、あと四ヶ月くらい?」

「そうなりますね」

「どうか出産も無事に終わりますように!」

 王妃様は祈るような仕草をして呟いた。

「……あの王妃様達には子どもはいらっしゃらないのですよね?」

「そうよ、アディスが落ち着くまでまってくれっていったけど、もうそろそろいいんじゃないと思うのだけど?」

「そうだな、私も人前に出られるようになったしいいと思う」

 王妃様に、レイオス様が言いました。

「よし、今日からアタックしかけ……いや、アイリスちゃんの出産が無事に終わってからにするわ」

「どうしてですか?」

 私が訪ねると王妃様が微笑まれました。

「いやだって、もし私が妊娠しちゃったらアイリスちゃんの出産祝いに駆けつけられないじゃない」

「王妃様……」

「ということで、アイリスちゃんが安全に出産できるまでは私は妊娠しません、妊活しません」

 王妃様の言葉にレイオスは言う。

「……そうですか」

「それ以外はするけどねー妊娠しないよう気をつけるわ、そっちの薬はあるし」

「王妃様」

 罪悪感が湧きました。

 平穏な世の中になったのに、私が妊娠した結果、王妃様はまだ子どもを持たないという選択をしたのですから。

「アイリスちゃん、気にしなくていいのよ」

「王妃様……」

「漸く平和になったのは全てアイリスちゃんが動いたお陰なのよ」

「え?」

 私は驚きました。

 そんな兆候見えなかったからです。

「アイリスちゃんの件があって、私達は全ての貴族の内部調査を行い、問題を抱えている箇所を解決したり、どうにもできないのは降格させたり色々やったわ」

「……」

「そしてレラの件、あのクソ女が尻尾を出したのはアイリスちゃんがいたから。ただアイリスちゃんに怪我をさせたのだけは申し訳ないと思っているわ」

「いいのです、王妃様」

「他にも色々な事があった、そして本当の意味で穏やかな時を私達は過ごせるようになり始めているのよ」

「王妃様……」


 私はただ、レイオス様と結婚しただけなのですが。

 ……当時は打算結婚を受け入れたので、我ながら酷い女です。


「レイオス、検討してくれた?」

「?」

「検討しましたが、私は今の地位で丁度いいです」

「そう……」

 私はレイオス様に尋ねる事にしました。

「レイオス様、何をなさったのですか?」

「いや、侯爵にならないかと言われたんだが私は今の伯爵の地位と環境で充分だよ」

「……」

「アイリスは嫌だったかい」

「いえ、レイオス様らしくて、いいかと。私も今が丁度いいです」

「よかった」

 レイオス様は息を吐かれました。

「じゃあ、アイリスちゃんお大事にね」

「王妃様、有り難うございます」

「ええ、じゃあ」

 そうして王妃様は帰られました。

「伯爵で私は十分だよ、侯爵になると今の土地から別の土地に行かなければならないだろうし」

「レイオス様……」

「私は君と、子ども達とで暮らしたいんだ」

「有り難うございます……」


 私は泣いた、嬉しくて、申し訳なくて。


「アイリス、君を愛しているよ」

「私もです、レイオス様」

 私達は口づけを交わしました。


 熱帯びていてどこか優しい口づけでした──





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