妊娠して十ヶ月が経過しました。
お医者様からいつ産まれてもおかしくないと言われ、お医者様は現在屋敷の一室に待機中。
スノウさんと侯爵様も屋敷の客室で待機してもらっています。
伯母様と伯父様も客室で待機しています。
レイオス様は気が気ではないようで、屋敷の廊下をいったり来たり。
不安そうな顔をしてらっしゃいます。
そして、ついにその時は訪れました。
「あ……」
破水しました。
「レイオス様、破水しました」
「医者―!」
レイオス様は大急ぎでお医者様を呼びに行かれました。
それから生まれるまで怒濤の展開があったらしいのですが。
ちょっとうろ覚えで覚えていません。
痛みがなくなり、肩で息をしていると、赤ん坊が二人お医者様の腕の中にいました。
一人は私と同じ人の姿をしている子、もう一人はレイオス様と同じ姿の子です。
「アイリス夫人、無事に出産おめでとうございます、元気な女の子と男の子ですよ」
「ありがとうございます……」
私は我が子を抱っこしてふぅと息を吐き出しました。
片方は、人の姿の子は女の子と発覚していたのですが、レイオス様似の子は出産するまで分からなかったのでようやく分かって、なぜだかほっとしました。
「何で私は入っちゃダメなのー!」
「王妃様が入って言ったら緊張で出産どころじゃなくなるって何度いったら分かるんですかアンタは!」
「ええい、少しは落ち着けレイラ王妃!」
「うがー!」
ああ、そう言えば部屋の外で王妃様とレイオス様と侯爵様の攻防が繰り広げられていましたね。
確かに、王妃様に応援されたら、緊張でお産どころではなかったでしょう。
「スノウさん、レイオス様を部屋の中に」
「はい」
スノウさんが出て行き、少しして変わりにレイオス様が入って来ました。
「レイオス様、可愛い男の子と女の子ですよ。男の子はレイオス様そっくり」
「ありがとう、産んでくれてありがとう……そして出産が無事で良かった……私は役に立たないから」
「レイオス様……」
「伯爵様! そんな事ありませんよ! 王妃様が部屋に乱入するのを阻止してくださったのでしょう? 王妃様に来られたらおちおち出産もできませよ、ねえアイリスちゃん!」
「ええ」
「そ、そうか」
伯母様に言われ、レイオス様は引きつった笑いを浮かべました。
「レイオス様、抱っこしてください」
「ああ」
まずは女の子を抱っこしてもらいます。
「可愛いな、きっと君そっくりに育つだろう」
「有り難うございます」
そして次は男の子を。
「私そっくりだな」
「でも、燃えさかる炎ではないですね」
「魔術膜で覆われていたようだね、だからあまり燃えていないのだよ」
「魔術膜?」
「私のような一族を普通に人が産むときは魔術膜で子どもを覆う儀式をするのだ、魔術膜は、炎の勢いを弱め、体内に蓄積させ──」
男の子が口を開けました。
ぽぉっと小さな火を吐き出しました。
「こんな風に父親に抱かれて初めて炎を吐き出すようになる」
「なるほど」
納得していると、外から大声が聞こえて来ました。
「レイラ! お前は何をしている!」
「うげぇ⁈ なんでアディスがここに居るの⁈」
国王様がいらっしゃったようです、王妃様凄い慌てた声をしています。
「私が呼びましたよ」
「マーリーオーン⁈」
侯爵様が呼んだようです。
「あれほどレイオスの夫人の出産には立ち会おうとするなと口酸っぱく行ったはずだぞ⁈ なんで居るんだ‼」
「だってー赤ちゃんみたくてぇ」
「よし、帰るぞ!」
「ヤダヤダ‼ 赤ちゃん見ないと帰らないー‼」
「お前は駄々っ子か!」
「「「「……」」」」
なんかなんともいえない沈黙が部屋を包みました。
「王妃様だけじゃなく国王様まで⁈ いや、国王様は王妃様をお迎えにいらしたようだけど……心臓に悪いわ」
伯母様の意見に頷きます。
「何故王妃様と国王様が……」
伯父様は頭が痛そうな表情をなさいます。
しかし、このまま王妃様が帰るとは思えないので──
「仕方ありません、屋敷を壊されたり、色々あとでぐちぐち王妃様が言うようなことがあっては困りますので、王妃様をお呼びください」
「いいのかい、アイリス?」
「仕方ありません」
それに王妃様なら悪いようにはしないでしょうし。
そんな事を思って居るとレイオス様が部屋を出て王妃様を連れて来ました。
「アイリスちゃんおめでと~~‼」
「有り難うございます、王妃様」
「わぁ~可愛い~! 女の子がアイリスちゃんで、男の子がレイオス似かな?」
「そうですね」
「やっぱり赤ちゃんは可愛いわ! 見せてくれてありがとう!」
そう言って部屋から出て行かれました。
「アディスー! 帰るわ!」
「ようやくか……」
「可愛い赤ちゃん見られたし、満足満足!」
「よし、なら帰ったら書類の山片付けるの手伝って貰うぞ」
「えー! 何でー!」
「お前のせいで増えたんだ!」
「いやー!」
「「「「……」」」」
二度目のなんともいえない沈黙が部屋を包みます。
王妃様、王妃様なのですよね?
いや、なんか疑いたくなりました。
「アイリス、安心してくれ。レイラ王妃はあんなんだが仕事はこなす」
「そ、そうですか」
「そ、そうだ。赤ちゃんにお薬飲ませないと」
「ああ、そうでした」
「お母さんもですよ」
「はい」
私は薬を飲み、赤ちゃんはシロップ状の液体を飲んでいました。
「これを一ヶ月間飲ませてくださいね」
「はい」
「お母さんはこちらも飲んでくださいね」
「はい」
と、オーギュスト様が作った薬を渡されます。
「では……」
お医者様が帰られると、赤ちゃんが泣き出しました。
「おっぱいじゃ無い?」
「出るでしょうか?」
背中を向けたレイオス様を見て、私は気を遣ってくれてるなと思いつつ授乳します。
女の子は大丈夫でした、ただ男の子は──
ふぎゃあふぎゃあ!
「どうしたらいいの?」
どうやら母乳ではだめなようです。
レイオス様がいつの間にか居なくなっていて、ノックして部屋に入って来ました。
「アイリス、男の子の方の子どもを」
「はい」
レイオス様は哺乳瓶にだけどちょっと違う物で何かを飲ませて居ました。
赤ちゃんは飲んで満足したので、レイオス様がゲップをさせて上げていました。
「あの、何を飲ませたのです?」
「……溶岩、私達の血液や母乳は溶岩に近いけどそれよりもさらさらしたものだから溶岩が母乳の代用品になるんだ」
「なるほど」
「言うのが遅くてすまない」
「いえ、レイオス様。私は気遣ってくださって嬉しいんです」
「そうか」
レイオス様はにこりと微笑まれました。
「伯爵様、アイリスちゃん、名前はどうするの?」
「決まっています」
「ええ」
私とレイオス様は顔を見合わせてから伯母様に伝えました。
「男の子がエミリオ、女の子がリリィ」
「エミリオに、リリィ……ええ、とても良い名前ね」
「ああ良い名前だ」
伯母様と伯父様は微笑まれました。
エミリオ、リリィ、産まれてきてくれてありがとう──