子どもが生まれて一ヶ月が経過した。
リリィは赤ん坊らしいふっくらむちむちな手足をしている。
手は危ないので手袋で包んでいる。
エミリオは、黒炎の一族の子どもについては、私は詳しくないのでレイオス様に任せがちになっている。
耐火性の高いベビー服を着せており、手袋も同様だ。
勿論皆様から「祝福」を頂いた、きっと素敵な子に育つだろう。
ただ気になるのは。
てっきりエミリオはパパっ子になるのかと思ったら違った。
リリィもエミリオも、私をみるとにこぉと笑う。
パパであるレイオス様を見てもにこぉっと笑う。
良きことです。
「良い事ですねぇ」
「はい、良い事です」
スノウさんは娘さん──リチアちゃんを抱っこして言います。
私はリリィを抱っこして話しています。
「……あら、リチアちゃんに小さな角が……」
「夫の血筋で、角が生えるそうなんです」
リチアちゃんは金色のおめめをぱちくりさせて、白い髪をいじっています。
「まーまぁ」
「リチア、なぁに?」
「おかち!」
「お菓子ね」
そう言って小さい子が食べるようのお菓子をスノウさんはあげていました。
「おいち、おいち」
嬉しそうにリチアちゃんは食べて居ます。
リリィも胸を軽く叩きました。
「おっぱいかしら?」
私はそう言って授乳をしました。
んくんくとほっぺを膨らませてのんでいます。
あかちゃんのほっぺってどうしてこうふくふくとして可愛いのでしょうか?
そう考えていると、飲み終わったようです。
私はリリィにゲップをさせて、抱っこします。
「赤ちゃんってなんでこう可愛いんでしょう?」
「そうですね……ところで夜泣きには悩まされたりしていませんか?」
赤ちゃんと言えば夜泣きだ、だがこの屋敷にはレイオス様の使い魔がいる。
使い魔達が私達を起こしたり、代わりにオムツを替えたり色々とやってくれる。
「負担はありますが、レイオス様の使い魔のお陰で助かっていますね」
「それは良かったです」
服を直しながら言うと、ノックする音が聞こえました。
「はいどうぞ」
そう言うと困った表情をした侯爵様がフレン君を抱いています。
「まぁまぁー‼」
号泣しています。
「どうしたんです?」
「さっきまで寝ていたんだけど、起きたら途端コレだよ!」
「フレン、ママですよ」
侯爵様の代わりにスノウ様が、フレン君を抱っこするフレン君は泣き止みました。
「まぁま!」
きゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでます。
すると、面白くなさそうな顔をするリチアちゃん。
フレン君をべちんと叩きます。
フレン君は泣きながらリチアちゃんをべちんと叩きます。
リチアちゃん大泣き、フレン君もギャン泣き。
カオスといってもいいでしょう。
「もう、フレンとリチアはどうしてそう仲が悪いの⁈」
スノウさんも困ったようにおっしゃいました。
これは小さい頃だけ限定でありますようにと私は祈りました。
そして大きくなったら二人の黒歴史扱いになりますようにと。
「どうしたんだ?」
レイオス様がやって来ました。
「リチアちゃんとフレン君の仲が悪いようで……」
「そんなにか」
「何故かママの取り合いになるんだよ、うちの子」
侯爵様はため息を吐き出しました。
「父親の取り合いはしてくれないのか」
「全然」
侯爵様は再度息を吐かれました。
「このまま大きくなったらどうしよう、マジで」
「大丈夫ですよ、きっと大きくなれば変わるでしょうから」
スノウさんが言う。
「だといいんだけどなぁ
侯爵様、ため息つきすぎ、幸せが逃げて仕舞いますよ。
「ところでアイリスちゃんところはどうなんだい?」
「私の所は同じ、という感じでしょうか。エミリオもリリィも私とレイオス様に甘えて下さいますし」
「そうだな」
エミリオとリリィはベビーベッドの中であぶあぶといいながらお互いの頭を撫でたりハグしあったりして遊んでいる。
「レイオス、お前の所は仲が良くて羨ましいぜ」
「ええ、そうですわね」
「俺らの子どもなんか一緒にするとすぐたたき合いが始まってそして両方ギャン泣きするんだよ」
「だから離していると」
「寝ている時はな、起きている時はスノウが居ないとすぐぐずるし……私は泣きたい」
侯爵様はうなだれます。
スノウさんもため息をつきます。
「もう一歳すぎたのにこれでは、色々と心配ですわ」
「レイラ王妃に見て貰えばいいのではないか? 王妃は未来視の力もある、普段は封印しているがな」
レイオス様がとんでもないことをおっしゃいました。
「あのさぁ、そういうので王妃様が未来視するなんて……」
「あるわよー!」
王妃様がドアを開けて入って来ました。
いつから其処に?
「れ、レイラ王妃⁈」
「王妃様⁈」
スノウさんも侯爵様も驚いています。
私もですが。
驚いていないのはレイオス様だけです。
「聞いたわよ、子ども達が仲悪いって」
「は、はい」
「だからちょっとだけ未来を見せて貰うわねー」
スノウさんに抱っこされ、ぐずっている赤ちゃんを王妃様が見ます。
「……」
「王妃様?」
「うーん、四歳ぐらいかしら、二人は仲よさげに遊んでいるわ」
その言葉に侯爵様とスノウさんが安心しました。
「マリオンが来るとマリオンに抱っこをねだっている、あ、でもスノウ夫人が来たらスノウ夫人に抱っこねだっているわ、で順番の取り合いになって二人で大泣きしているわね……」
安心したのもつかの間、再度額に手をやる侯爵様とスノウさん。
「もっと大きくなったのを見てみましょう、十歳くらいかしら、二人は勉強に励んでいるわ、そして二人そろってマリオンとスノウ夫人に誇らしそうに見せているけど、マリオンがダメだししているわ、同じ所で間違っているって、そして二人そろってうなだれているみたい」
ようやく苦笑する侯爵様と微笑まれるスノウさん。
「まぁ、仲が悪いのは小さい頃だけっぽいから大丈夫でしょう」
「ありがとうございます、王妃様」
「ありがとうございます、レイラ王妃」
「いえいえ」
レイラ王妃はにこにこと笑います。
するとこちらを見ました。
「良かったらアイリスちゃんの子達も見るけど?」
「いえ、今は不安がないので、不安になったらお願いします」
「そう?」
「はい」
「そうですね」
私とレイオス様は顔を見合わせる。
「そっか、じゃあ見たくなったらいつでも呼んで」
「いいのですか」
「いいのいいの、二人の赤ちゃんみたいからねーよちよち」
そう言いながら、王妃様は我が子達を撫でました。
我が子達は手袋をしゃぶりながらきょとんとしています。
「いい子達ね、じゃあ」
そう言って王妃様は出て行き、レイオス様は見送りに出ました。
「レイラ王妃」
レイオスはレイラ王妃に声をかけた。
「なぁに?」
「見たのでしょう、我が子達の未来を」
「バレてたか、ちょっと心配でね」
レイラ王妃は苦笑した。
「何かありました?」
「何もなかったわ、寧ろ家族仲が良すぎて羨ましいって思ったわ」
「そうですか……」
「それと、貴方の子は貴方の行いを拒絶しないわ」
「……ありがとうございます」
レイオスはレイラ王妃に頭を下げた。
「それじゃ」
レイラ王妃は馬車に乗り、そのままレイオスの領地を後にした。
レイオスはソレを見送ると、屋敷に戻っていった──