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第21話 エリアスVSイオナ①


 イオナから突然挑まれた手合わせ。


「イ、イオナさんっ! 彼は昨日ここへ来たばかりなんです。まだ小さい子だし、戦いなんて……危ないと思います」


 アーゼルが反射的な速度で止めに入ってくれた。

 いいぞ、もっとやれ。


「アーゼル、お前はコイツの実力を知っているのか?」


「いえ、まだ何も知らないですが」


「この子を仲間として迎え入れたのなら、遅かれ早かれ実力は知っていた方がよくないかい? なに、ちゃんと手加減はするさ」


「……えっと、そうですね」


 え、アーゼルさん?

 ちょっと押されてません?

 止めに入ってくれた当初の気持ちを思い出してっ!


「ならこうしよう。コイツと手合わせさせてもらえるなら、今回渡す資材をいつもの2倍に増やそう」


「な……っ!? 2倍、ですか?」


 今、完全にアーゼルの心がイオナに寄った……いやもう完全に寄り掛かった瞬間を目にしてしまった。


「そうだ、2倍だと困ったグループの子に分けてあげられるんじゃないか?」


「そ、それも……そうですね」


 イオナの案に同意しつつ、チラチラと遠慮気味に俺をチラ見してくる。


「……アーゼル、分かったよ。俺のひと頑張りで他の子が救われるなら悪い話じゃないだろうしな」


 よし、テキトーに戦って良いタイミングで参りましたぁ〜。

 これでいこう。


「エリアス、巻き込んでしまってごめんよ」


「いや、俺もお世話になる身だ。気にしないでくれ」


 アーゼルは気が引けた、って様子。

 彼はみんなことを思って、そんな優しい人間だ。

 そのことを知ってるから俺は責めることなく、優しく寄り添うように言葉を投げた。


「じゃあ決まりだ。……あ、あと少しでも手加減したら私には分かるからね? その瞬間、資材の件はなしだ。分かったかい?」


「……」


 なんだこのお婆、俺が手を抜けないよう予防線みたいなものを張ってきやがったぞ。

 これじゃある程度は本気でやらなきゃダメか。


「……分かったかい?」


 次は少し強めの口調で同意を求めてきた。


「……はい」


 この場はそう返すしかない。

 一応俺はアーゼルについて来させてもらってる身。

 彼が心から欲しているその資材、それを手に入れることが多少であれどみんなの力になるのなら。

 そう思って、俺は覚悟を決めた。



 それからすぐイオナは武器商店に何かを取りに行ったけど、一体何持ってくるんだ?

 とそんな考えを巡らせるのも束の間、時間にして1分もないほどの時間で帰ってきた。


「ほれ」


 イオナはさっき武器商店へ取りに行ったある物を俺に手渡してきた。


「これ、竹刀……?」


「あぁ。剣術に興味があるのかと思ってな」


「えっと、なんでそう思ったんですか?」


「ふん、商売人の癖さ。お前がこの武器商店に入ってきてから1番初めに見てた武器、それが剣だったからね」


 イオナは鼻を鳴らして興味無さそうに俺から目を逸らすが、この人おそらく……いや確実に良い武器商人だ。


 俺が前世関わっていた武器商人はこう言っていた。


「ソイツを顔を見りゃ会話せずとも適性武器が分かんだよ。それが一端いっぱしの武器商人ってもんだ」


 このイオナという女性は俺の得意武器を会話せずとも当ててみせた。

 もしかすると偶然当たっただけなんじゃないか、そうも考えられるが、この人に限ってそれはないと思う。


 実力の高い人は努力できる人だ。

 これは俺が常日頃思っていることだが、イオナの戦闘能力を見てそう感じた。

 だからこの人が武器商人をやるってんなら、それ相応の努力をするだろう。


「……違ったかい?」


 イオナは返事がないもんだからとしゃがみ込み、俺の顔を下から覗いてくる。

 一見心配そうな声を出しているが、彼女の目には一切の迷いがない。

 自分の出した答えは間違わない、そう言っているかのような強くギラギラした瞳だ。 


「いや、さすがですよイオナさん」


 この人はやはり俺の知る『一端の武器商人』だ。

 そう思った俺は彼女から竹刀を受け取り、さっきの戦闘前にラニアが立っていた配置へつく。


「いいかガキ、本気で来るんだよ? 私はお前の本気を見てから力を調節する」


 なるほど。

 今回の手合わせ、完全に俺の実力を図りにきてるってわけか。

 しかし手を抜くなと言われたが、さてどうする。


 ま、俺自身、エリアスとして剣を相手に向けるなんて初めてのことだ。

 どれくらいの力が出せるのか様子見していくか。


「分かりました。あとイオナさん、俺はガキじゃなくてエリアスです」


 ここは指摘しておかないと。

 アーゼル、ラニアは名前呼びで俺だけガキだと1人だけ子供扱いされている気がするからな。


「そうかい。エリアス、かかって来な!」


 イオナは右手で握った竹刀を構える。


「はい……っ!」 


 ここで生半可にいくと、手を抜いているのが明らかになってしまう。

 だからこそ今のエリアスの体にも負担がさほどかからない程度では攻める!


 俺は全身に氣を巡らせていく。


 前世での『氣』とは、人の体に巡るエネルギーのことだったが、この世界にも同じように存在していて本当に良かった。 

 まぁ転生してからも同じ人間、当然といえば当然なのだが。


 ただ、家には魔法についての書物はたくさんあった中、氣については何一つなかった。

 もしかしたら存在はすれど、認知されていないのが今の現状なのかもしれない。


 俺はアルベールの頃のように氣で身体能力を上げ、一気に地面を蹴り上げる。


 ダッ――


 一瞬にしてイオナの眼前に迫る。

 彼女の視線がこっちを向いた頃、俺はすでに彼女と同じ目線から竹刀を斜め上から振り下ろし始めていた。


「……っ!?」


 イオナは驚愕しつつも瞬時に竹刀構え、俺の剣撃を防ぐ。


 パシッ――


 竹刀同士が生んだ短く甲高い打突音が響いた。


 しかし弾かれるのは想定内。

 俺は空中でバランスを取り、そのまま水平回転斬りへ移行した。 


 パシッ――


「……想像以上だっ!」


 俺の竹刀を再び止めたイオナは、ハハッとひと笑いしながらギンギンに目を血走らせている。

 この婆さん、怖いって……。


 とはいえここで引けば、資材の話も無くなってしまう。

 だからこそ攻めの気持ちは変えないつもりだ。


 俺は一度地上へ足を下ろし再び竹刀を振るっていくが、イオナはもちろん守りの姿勢を崩さない。

 つまり攻めと守りが拮抗しているのだ。


 そんな均衡に退屈したのか、イオナは攻撃の合間に大きく後退した。


「エリアス、お前は強い。私が思ったよりも」


 彼女はそう言って竹刀を下げた。


「そりゃどうも……」


「だが!」


 イオナは強調した物言いで俺の言葉を遮る。

 あまりの迫力に思わず息を呑んでしまう。

 こりゃまるで蛇に睨まれた蛙みたいだが、そのくらいに勢いがあった。


「本気、じゃないだろ?」


「いや、そんなこと……」


 言葉が止まってしまった。

 そう、今まで俺が剣聖として戦ってきた時は必ずそこに命のやり取りがあったからだ。

 そりゃその時に比べれば本気じゃないかもしれないが、ここでそんな命懸けの戦い必要ないだろうよ。


「……私がお前の本気を引き出してやるよ。エリアス!」


 イオナは再び戦闘態勢に入った。

 今までとは違う空気を纏って。


 彼女の放つ気迫、鋭く刺すような瞳、あれは……人殺しのそれだ。

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