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第32話 激闘の末



 ダッと強く地面を蹴り込み、俺へ迫るモーリス。

 動きはまぁまぁ速いが避けれないこともない。

 結局武器をつけようが、当たらなければ同じ話だ。


 シュッ――


 俺は問題なく体を半身に逸らすことで、その右拳を避ける。

 やはりなんの問題もないはず……っ!?


 ボゥッ――


 すると突然避けたはずのガントレット側面から突如炎が噴射し、力の移動軸が前ではなく水平に切り替わった。


「……なんだっ!?」


 間一髪、氣を腕に集中させて尚且つ小刀をガントレットにあてがってみせる。


「く……っ!」


 さすがに武器持ちの一撃だ。

 小刀はパッキリ折れて見事俺に直撃、本気で体が吹っ飛ばされてしまった。

 しかし普通のストレートパンチが、ガントレットからのガス噴射でラリアットへ切り替わるとは。

 こんなの初手じゃ避けきれんだろ。


「……なんとか致命傷は避けたか。さすがヴォルガンさんが認めたガキなだけはある」


 モーリスはへへ、と余裕そうに笑みながら右肩をぶんぶん回している。


 くそ、ここはやはり魔法で創る火の剣で……いや、それは最終手段。

 魔法を堂々と使ってしまえば、少なくとも噂を広める可能性が1番高いモーリスに関してはもちろん、まだ信用に足り得るか分からないこの女の子の命すら奪わなくちゃいけなくなるかもしれない。

 もちろんそんなことをしたくはないが、俺自身、未だに魔法を使うことでどれほどの弊害があるのかよく分かっていないのだ。


 とりあえすまずはできる手を打つ。

 俺にはいつもお世話になっている手刀だってあるんだから。


 よし、次は俺から攻める。


 ダッ――


 全力で地面を蹴り込み、一瞬でモーリスの元へ駆けた。


「ほう、さすがに速い」


 俺は今、奴の懐にいる。

 モーリスもこの速さには反応できておらずガントレットによる攻撃もまだ振りかぶった段階。

 あとはさっきの部下の時みたく手刀で体を斬り裂くだけだ。


 そうだ、斜めにひと斬りっ!


 ガキンッ――


 俺の手刀は完全にモーリスの体を斬ったはず。

 だが手応えが人肌ではなく、堅い何か。

 そしてその正体は、今の手刀によって破れた服の間から垣間見えた。


「鎧……っ!?」


「気づくのが遅かったな、ガキッ!!」


 その瞬間、ガントレット肘部から後方に噴射するガスにより加速したモーリスの右ストレートが俺にまっすぐ直撃したのだった。


「……うっ!!」


 吹き飛ばされた俺はちょうど半分に割れた荷台の裂け目から内部に突っ込んだ。


 今の攻撃は痛かった。

 しかしなんと便利な体、ダメージを受ける箇所を一瞬で予測し、無意識に氣をその部位に凝縮させて守りを固める。

 前世で常日頃行っていたことがエリアスになった今でも活きるとは。

 いや、ほんと剣聖アルベールくんの頑張りのおかげだね。


 影の牙No.3、モーリス。

 攻撃はあのガントレット、防御は全身鎧ってさすがに卑怯だわ。

 それに俺は武器なし防具なし、オマケに魔法もなしで使えるのは氣と肉体て。

 さすがに差がありすぎる。


 もちろんその氣と肉体でもアルベールの頃ならあんな鎧余裕でぶっ壊していただろうが、今のエリアスにはまだ難しいらしい。 


 「あぁせめて剣でもあれば」


 俺は荷台の中で仰向けに倒れたまま、そうぼやいた。


 実際、俺の氣は剣があって初めて本領を発揮する。

 何せ剣聖だからな。


「あの……えっとこれ、使えねぇか?」


 話しかけてきたのは女の子だ。

 仰向けの俺を上から覗く形で立っている。

 そして彼女は手に持つ物を俺の眼前にチラつかせてきた。


「それ、剣! どこに……?」


「あのオッサンがガントレットを出した箱の中に」


 そう言って荷台の奥を指差す。

 なるほど、何かあった時にすぐ戦えるよう武器を内蔵してたってわけか。


「……なんにせよ、ありがとう。それ借りるわ」


 俺は彼女からその剣を受けとった。

 いや、これは剣……というより太刀に近いか?

 片刄ってことは切れ味も良さそうだな。 


「あのっ!」


 俺がモーリスの元へ向かおうとするところ、彼女に呼び止められた。


「……? どした?」


「さっきは、助けてくれてありがとう」


 さっきか。

 おそらく荷台をぶった斬った時のことだろう。


「別に、恩なんて感じなくていいよ。俺はただアイツが……陰の牙が許せないだけだから」


「あぁ? 誰が許せないって?」


 背後から男の声、モーリスだ。

 ヤツは荷台の裂け目から中へ足を踏み入れてきた。


「あんまり出てこねぇもんだから死んじまったと思ってたが、ずいぶんとしぶといじゃねぇの。ま、そっちの方が殺し甲斐があるってもんだ!」


「お前がえらく狭いところに来てくれたおかげで、こっちは斬りやすくなったわ」


 そう言いながら、俺はこの太刀を構えた。

 真っ二つになった荷台は足場も悪く、くつろぐには広いが戦うには少し手狭な空間だ。

 接近戦のみを強いられる今のこの環境、おそらく勝負は一瞬で決まる。


「はっ、そりゃ部下の使うなまくら刀じゃねぇか! そんなもんで俺のガントレットが斬れるわけねぇだろ!」


「じゃあ試してみようや!」


 俺はこの太刀にめいっぱいの氣を込めた。


「……っ!? なんだ、その光?」


 モーリスは俺の持つ刀を見て、目を丸くする。

 どうやら氣を纏ったことで光を放っている剣身を目の当たりにして驚いているようだ。


「これがなまくらじゃないところを見せてやるよ」


「ふ、ふんっ、戯れ言をっ!」


 モーリスは一瞬焦りを見せるも即座に気持ちを切り替えて、俺に詰め寄ってきた。

 そしてガントレットを振るう。


 俺はヤツの初動と同時に1歩踏み出し、迫るガントレットに向かって刀を振り下ろした。


 今にも重なりそうな武器と武器。

 カキンッと弾く金属音、散る火花、なんて相手方は想像していたかもしれないがそれは少し違った。

 ……いや、かなり違ったはず。


 ザシュッ――


 そこには金属を弾く音などなく、ただただ斬撃音のみが響き渡る。


 ガタンッ――


 そして少し遅れて響くガントレットの落下音


「うわぁぁぁあああああっ!!!」


 最後にモーリスの断末魔。

 そしてその足元の血に濡れたガントレット。


 あの一振りが勝敗を決したのだった。


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