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第41話 アリシア、夢の中でノーアさんと出会う

「おはようございます、アリシア=グリーン。良い朝ですね」


 ん……もう朝?


「おはようございます。私が来ました。良い目覚めを」


 ……誰? あと5分。


「アリシア=グリーン。今日は調印式です。早速準備をしなければなりません」


 そうだった。今日は調印式の日だった。準備……って誰⁉


 布団から少しだけ顔を出して声の主を確認する。


 あー、赤毛……。


「ノーアさんだ……おはようございます……」


「はい、おはようございます」


「いや……なんでわたしの部屋に勝手に入ってきているんですか……」


 厳重にセキュリティロックをかけていたはずなんですけど……。

 わたしの許可なく部屋への立ち入りはできないようにしていたはずなんですけど?


「私にそういったモノは意味を成しません。それはアリシア=グリーンもご存じのはずでは?」


 にっこり。

 じゃないんですよ……。

 エヴァちゃん、普通に『賢者の石』には負けちゃうのね……。


 いやいや、勝ち負け以前に――。


「乙女の寝室に入り込むなんて、普通にマナー違反じゃないですか? ラダリィも何とか言って……あれ? ラダリィ?」


 ラダリィはどこ⁉

 このダブルベッドで添い寝してもらっていたはずなのに⁉


「ここはアリシア=グリーンの意識の世界です。夢を見ているようなものだと考えてください」


「あー、だからラダリィが隣にいないんですね。じゃあ『おはよう』でもないじゃないですか」


「そこは気分的なものです。ひさしぶりに会ったのに、挨拶もなしでは失礼でしょう?」


 イケメンが爽やかに笑う。

 びっくりするほど何にも惹かれないですけどね。

 やっぱり人間味がないからなのかな……。彫刻か何かを見ているみたい。


「それで、わざわざ人の夢に侵入してきて、いったい何の御用ですか?」


 内緒話ってことよね。

 どう転んでも良い話ではなさそう……。

 聞きたくないなー。


「そんなに警戒しないでください。私はアリシア=グリーンのことを評価しているのですよ」


「それはどうもありがとうございます……」


 それで、話っていうのは、どんな厄介事ですか?


「今日の調印式ですが、大きな問題が起こります」


「ですよねー。知ってました!」


 ただにこやかに笑ってサインするだけ、なんてことあるわけないですよねー!


「『ウルティムス』の反体制派が反乱を仕掛けてくるようです」


「うるてぃむす?」


「アリシア=グリーンは、これから国交を結ぶ国名をご存じではないのですか?」


「あー、そういう名前なんですね。『ウルティムス』。覚えました」


 なんか誰も国名を教えてくれなかったので……。

 王様も知らなかった、とかないよね?


「そういえばあの人たち……『ウルティムス』の人たちって、体がないんですよね? 調印式の時ってどうやってサインするんですか?」


 わたしが異空間に落っこちた時は、わたしの記憶の中にある情報を使って、それっぽい映像(ヤンス)を投影してしゃべっていただけで、実体はなかったんだよね?


「私が仮初めの肉体を用意しています」


「仮初の肉体ですか? ホムンクルス的な?」


 それともエヴァちゃんみたいなガワだけ人工繊維で創ったロボ?


「魂の入っていない人造の素体です」


 やっぱりホムンクルスかー。

 さすがノーアさんって言うべきところなのかな。あっさりホムンクルスなんてものを創ってくれちゃって。まあ、わたしだって創れますけどねー。ミィちゃんがダメって言うから創っていないだけなんだからね!


「『ウルティムス』から2名が調印式に参加する予定と聞いていますので、2体分の素体を用意しています」


「殿ともう1人誰か参加するんですね」


 あの黒い球の人かな? 側近っぽかったし。ほかにあの国の人を知らないだけだけど。魂ちゃんたちは、たぶん普通の一般国民だろうし? 一般国民なんて概念があるかは知らないけど。


「私が反乱の情報をキャッチしましたので、ウルティマと事前に打ち合わせを行いました」


「うるてぃま?」


「あなたが殿と呼ぶ、『ウルティムス』の現国王です」


 なるほど、ウルティムスのウルティマさんね。ウルウル。ヤンスヤンス。


「ウルティマとの話し合いにより、調印式はダミーを用意することにしました」


「ダミー、ですか?」


「はい。私のほうで、ウルティマとお付きの者の振りをした、人工生命体を用意することにしました」


 ノーアさん……人工生命体って。あなた、なんでもありですか。

 ミィちゃんは何も言わないの?

 って、夢の中だからミィちゃんが答えてくれない……。


「アリシア=グリーン、あなたのほうもダミーを用意してください」


「えっ、わたしのダミー?」


「ダミーです。調印式は別の会場を用意して行うつもりです」


 ダミーの素体にダミーの会場。

 それで反体制派を欺くってことですか?


「ダミー……。わたしもホムンクルスを創ればいいんですかね?」


「アリシア=グリーンはエヴァシリーズを使うと良いでしょう」


「あー、そういうことですか。なるほど……って、エヴァちゃんのことをご存じなのですか?」


 まだ会ったことないですよね?


「私に知らないことはありません」


 はい、なんか納得です。

『賢者の石』ってすごいな……。だからって、別になりたくなったわけじゃないけど。


「ではここで私は失礼します。後ほど、調印式の会場でお会いしましょう」


「えっ、ちょっと待ってくださいよ! 調印式のホントの会場はどこですか⁉」


 まだ話が途中なのに突然いなくならないで!


 えー、いない!

 わたしの夢の中に取り残されたわたし……。


 どうするの、これ?


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