「今日はスーちゃんの神殿で1泊!」
『ああ、みんなゆっくりしていくがいいさ。明日は調印式だからな。ここに泊まり、そのままみんなで集まって移動したほうが良いだろうな』
珍しくスーちゃんがまともなことを言っている!
『失礼な! オレはまともなことしか言わんぞ。女神だからな』
「わたしの知っている女神様たち……みんな変……だし?」
ミィちゃんもマーちゃんもリンちゃんも、どこか独特な世界観を持っているというか・……。
『そうですね。私以外の女神は皆変わり者ですから』
『我以外は非常識で困っているのじゃ』
『あーしがいっつも常識とマナーを教えてあげてるんだぉ☆』
おお、全員集合!
さすが女神様の神殿。通信状態が良い!
スーちゃん以外のみんなは明日の調印式に出席するのかぉ?
『スークルに一任しています』
『酒が出ないなら行かないのじゃ』
『明日は月に1度のピクシー族にマナーを叩きこむ日だからいけないぉ』
うーん、残念。
ひさしぶりにみんなに会いたいなー。
「アーちゃんきたのじゃ」
「あーしが来てあげたぉ☆」
と、目の前には、お酒の女神様ことマーちゃん、そしてマナーの女神ことリンちゃんの姿が!
「マーちゃん、リンちゃん、こんばんはー! さっすがお早いお越しで♡」
さては……お酒の匂いに釣られてやってきましたね?
「皆の者、堅苦しいのはやめるのじゃ」
あれ、みんな跪いちゃってどうしたの?
あーそうか、女神様が増えたから!
「我はアーちゃんの義母なのじゃ。つまりお前たちにとっても母というわけなのじゃ?」
なんで疑問形?
「今日は楽しい調印式前夜祭だぉ♪ みんなで飲めや歌えやの無礼講なんだぉ♪」
「無礼講か! それなら良いな!」
と、スレッドリーがうれしそうに立ちが上がる。
あーあ。やっちゃった……。どうなってもしーらない、と。
「スレッドリー殿下。まったく……王族ともあろう者がこんな初歩のマナーも理解できないなんて……きついおしおきだぉ……」
「おしおき……? なぜだ⁉ 無礼講では⁉」
スレッドリーがリンちゃんにがっちりと肩を掴まれて、引き摺られていく。
「アリシアさん……どういうことですか?」
ナタヌが頭を下げたまま、小さな声でこそこそと尋ねてくる。
「あー、今のはね、初歩的な引っかけなのよ……」
「引っかけ、ですか?」
「うん。さっきさ、リンちゃんが『無礼講なんだぉ』って言ったでしょ?」
「おっしゃられましたね……」
「それでスレッドリーはどういう行動をとったか覚えている?」
「『それならいい』みたいなことをおっしゃって、すぐに立ち上がられた、ような……」
よく覚えているね。
そう、スレッドリーは女神様の前で、無礼にも許しなく頭を上げたってこと。
「無礼講は無礼を働いて良いってわけじゃないのよ。マーちゃんが言っていたでしょ。『堅苦しいのはやめるのじゃ』って。つまり、堅苦しい礼儀は抜きでいいよって言っているだけなの」
「なる……ほど?」
「だから正解は、リンちゃんが、『頭を上げて一緒に飲むぉ』って言ったら、『ありがとうございます』って言って頭を上げる!」
「なるほど! 理解しました! マナーって難しいんですね!」
「そうだぉー。リンちゃんはとくに厳しいからね。マナーに殺されたくなかったら、マナーを重んじるんだぉ? ほら、隣のラダリィを見て? 跪いて頭を下げたまま微動だにしないでしょ? これが女神様を前にした時の正しい姿!」
「わかりました! ナタヌ、ラダリィさんを見習ってマナーの鬼になります!」
「その意気だぉ!」
「アーちゃん、そろそろ宴会を始めるのじゃ。我は喉が渇いたのじゃ!」
マーちゃんはマナーよりもお酒、だもんね。
頭を下げなくても怒ったりしないし、いっつもやさしい私の義母♡
「はーい、ただいま準備します! ナタヌ、ラダリィ、手伝って!」
『まったく、マーナヒリンはすぐに酒だ。羽目を外し過ぎてオレの神殿を汚すなよ?』
「それは約束しかねるのじゃ。チビエヴァちゃんたちと鬼ごっこをして遊んだら、神殿の1つや2つは壊れても仕方ないの」
『それはやめろ……外でやれ』
「マーちゃんはすっかりチビエヴァが気に入ったのね。エヴァちゃん、出してあげてー」
≪ステルスモード解除。かしこまりました。いでよ、チビエヴァシリーズ、そして願いを叶えたまえ!≫
エヴァちゃんの手のひらから溢れ出る光。
その光の中からチビエヴァちゃんが、1、2、3、4、5体!
まあね、おもにマーちゃんのお願いしか叶えられないけど、やっぱりかわいいね♡
「マーナヒリン様。おひさしぶり~。あそぼあそぼ~」「あそぼ~」「あそぼ~」
マーちゃんがあっという間にチビエヴァたちに囲まれる。
「チビエヴァちゃんたち、よく来たのじゃ。今夜も一緒に遊ぶのじゃ!」
エヴァちゃんの召喚の光はまだまだ止まらない。
さらにチビエヴァちゃんが5体追加。
「スークル様~!」「あそんであそんで~」「あそんで~」
「お、オレか⁉ ど、どうしたら……」
親戚の子どもに囲まれてあたふたするおばさんみたい。
「誰がおばさんか! ずっとピチピチだ!」
ピチピチって……。
まあ、好きに遊んであげてくださいよ♡
宴会の準備できたから、お酒注ぎますよー。
って、リンちゃんとスレッドリーが戻ってこないね……。
もしかしてマナーに殺された?