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第52話 アリシア、みんなに顔を思い浮かべられる

『ウルティムス』の人たちにとっては、人生初めての食事。


【これが食事でやんすか!】


【おいしそうな匂いです……】


 ウルティマさんが目を輝かせ、シャーレさんが涎を垂らして目の前のお皿を見つめている。


 そう、最初の晩餐にわたしが選んだのは、パストルラン王国のみんなも大好きなあれ。


 コカトリスの肉をひき肉にして、小麦粉と混ぜて成形して焼いたあの料理!

 ナゲットクンだー!


 これなら外さない。

 いろいろな味付けもあるし、きっとみんな喜んでくれるはず!


 それと飲み物は、ナタヌの大好きなガーランドレモンスカッシュをチョイス!

 間違いない組み合わせ♪



「はーい、みなさんのテーブルにお料理は行き渡りましたかー?」


 5人に1つくらいの間隔で、雑に大皿とドリンクのピッチャーを置いていったからホントに足りているかちょっと不安……。


「ナタヌ、スレッドリー。悪いんだけどちょっと席を回って、料理と飲み物が足りていないテーブルがないかチェックしてくれない?」


「わかりました!」


「おう、まかせろ!」


 2人がローラーシューズで滑りながら、各テーブルを目視確認し始めてくれる。

 助かる。


「この短時間で200人分の料理を用意するとは、アリシア=グリーンもなかなか良い仕事をしますね」


 ノーアさんが感心したように頷く。


「『龍神の館』と繋がっているアイテム収納ボックスがあるんですよ。そこから旅の際には食事を分けてもらうことになっていて……。でも200人前を一気に使うのはちょっと不安ではありますけど」


 一応お手紙は入れておきました。


-----------------------

 異国の人たちの接待で大量に使います。

 ごめんね。


 アリシアより

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 一応、お店の会計に打撃を与えないように補填金もセットでね。

 ソフィーさんたちには、がんばってコカトリスを討伐しまくってもらわなきゃ。


「アリシア、料理も飲み物も大丈夫だったぞ」


「アリシアさん、ちゃんと全員に行き渡っていました!」


 2人の偵察が無事完了。

 良かった!


「2人ともありがとー! じゃあ、みなさん、さっそく人生初めての食事をしてみましょうか!」


【アリシアさん……】


【どうすれば……】


【これを口に?】


【口に入れてどうするのかしら】


【でもおいしそうな匂い】


【口に入れてみる?】


【食べられたりしない?】


【&&$#!T#~=B?>"E!#T$%T&&%)A+*@I~{!$】


 ああっ、そうですよね! いきなり食べろって言われても食事の仕方がわからないですよね!

 たしかにそうだ! 最初はお手本が必要……。


「ナタヌ、スレッドリー! みなさんと一緒にテーブルに着いて、この『ナゲットクン』の食べ方と『レモンスカッシュ』の飲み方のお手本を見せてあげて!」


 人間代表として、食事の仕方を教えてあげてほしい!


「食べ方と飲み方、ですか?」


「おう、まかせろ!」


 2人が予備のイスを持ってきて輪の中に入る。


「はい、みなさん注目ー! 今からパストルラン王国のナタヌとスレッドリーが、みなさんに食事の仕方を教えます!」


「ナタヌです! よ、よろしくお願いします!」


「これはだな、『ナゲットクン』といって、熱々でジューシーでおいしい料理だ。食べ方はこうだ。片手で1つ摘まんで口に放り込む。俺と同じようにナゲットクンを手で持ってみろ」


 スレッドリーの呼びかけに応じて、ウルティマさん、シャーレさん、200人のエヴァちゃんの顔をしたみなさんが、右手でナゲットクンを持ち上げる。


「そうだ。おいしそうだろう? 良い香りだ。これを『香ばしい』というんだ。食欲をそそる。これからこのナゲットクンを口にし、咀嚼する。準備は良いか? よし、口に放り込め!」


 全員が同時に、ナゲットクンを口にする。

 パクリと勢いよく、小ぶりなナゲットクンが全員の口の中に納まった。


「さあ目を閉じろ。そしてアリシアの顔を思い浮かべるんだ。美しいな。ありがとう、アリシア。今日もアリシアと一緒にいられる喜びに感謝しよう。感謝を終えたらゆっくりと奥歯で噛んで味わう。細かくかみ砕いたら飲み込む。そうしたらまた次のやつを片手で――」


 ちょっとちょっと! 

 純粋な『ウルティムス』の人たちにウソを教えないで!

 変な工程が混じってるから!


「アリシアさんに感謝をしながら食べるのが最も重要な部分です! そうするとお食事が何杯もおいしく感じられます!」


 ああっ、ナタヌまで!

 ってー、『ウルティムス』の人たちが目を閉じて食事してるぅ!


 やめてー!

 みんなでわたしの顔を思い浮かべないでー!


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