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第53話 アリシア、『賢者の石』について考える

「わたしの顔を思い浮かべながら食事って……とんでもない辱めを受けたわ……」


 スレッドリーのことは許さないからね!


「アリシアさん、どうかしたんですか⁉ 顔が赤いです! 熱ですか⁉」


 ナタヌが走り寄ってきて、わたしのおでこに手を当てる。


「いやそういうのじゃないから大丈夫……」


 そんな心配したふうを装ってもダメ! これに関してはナタヌも同罪ですからね!


『そんなこと言って、みんなに注目されて気持ち良くなっていたんだろう?』


 今度はスーちゃんが近づいてきて、肘でツンツンしてくる。

 まったくバカにしてぇー!


「し、失礼な! 不意打ちはそんなに気持ち良くないもん!」


 わたしの思い通りに注目してくれないとヤダ!


「アリシア=グリーン」


「ん、なんですか?」


 今度はノーアさん?

 もうからかおうとしてもダメですからね! さすがに熱は引きましたから!


「『賢者の石』は常にすべての人間から注目を集める存在です。そしてその注目に値する存在なのです」


「そう、ですね……」


 ノーアさんはそれ以上何も言わず、ただ微笑むだけだった。

 でもノーアさんが口にしなかった言葉の続きはわかる。


 アリシア=グリーンは、いつ『賢者の石』に至るための探究を始めるのですか?


 わかっているんですよ。

 こんなに特異な力を手にしてしまったからには、「何かを成せ」「何かを残せ」って、そう言うんでしょ?


 でもわたしが転生者だったのも偶然。

 ミィちゃんから特別な加護をもらったのも偶然。

 どっちもただのラッキーでしかない。


 前世がアンラッキー過ぎた揺り戻し、みたいな?

 そこに意味なんて求めないでほしい。


 わたしはまだ人間でいたい……んだと思う。



【ところでアリシアさん!】


 シャーレさんの鈴が鳴るような声で思考が中断される。


「はい! 何でしょう⁉ ナゲットクンのおかわりですか⁉」


【そうですね……とてもおいしくて、みんな食事というものをいただくことに感動をしているのですが……】


 シャーレさんがなぜかとても言いにくそうにしている。

 なんだろう?


【食事というものは、出されたものをすべて食べるのがマナーだと、ナタヌさんからお聞きしました】


「一応そうですね。あまりたくさん残すのは料理を提供する側にとってうれしくはないものですが、今はあまり気にしなくても大丈夫ですよ」


 マナーは相手が不快に思わなければ問題ないんだし。

 マナー講師の女神・リンちゃんが見ていなければね……。


『あーしのことを呼んだかぉ?』


 ごめん、呼んでないです。

 ほら、今はスーちゃんが担当の調印式だから、スーちゃんに任せてくださいな?


『マナーを教え込みたい……けれどガマンするぉ』


 さすがリンちゃん!

 場を弁えるのもマナーだよね!


『アリシアにそれを言われると、なぜだか説教したくなるぉ』


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 説教は今度スレッドリーが代わりに受けるので、わたしは免除してください。


『仕方ないぉ……。殿下とはまた飲んで語り合いたいぉ』


 ぜひ!

 生贄はスレッドリーっと。

 なんだか話が合うみたいだし、それで良いよね。


 あっ、スレッドリーがくしゃみしてる。

 ちょっとかわいい♡


【あの~、アリシアさん?】


「あ、ごめんなさい。なんでしたっけ?」


 また女神様通信のせいで会話が飛んじゃった。

 これ、良くないよね。よっぽどマナー違反だと思うの。


【お皿が空になりそうになると、ナタヌさんとスレッドリーさんがどんどん追加のお料理を持ってきてくださるので……食事の終わり時がわからなくて……】


 そういうこと⁉


「あー、ごめんなさい! その体だと満腹とかないですもんね! どうなったら終わりなんだろう。ノーアさん、あの仮初の体って、食事をエネルギー変換できるんですよね?」


「はい、そのように設計してあります。人間と同じですね」


「すごく良いと思います! でも食事の終わり時ってどこですか?『エネルギー満タン!』みたいなメーターとかついてたりしますか?」


 そんなわけないか。

 人間も自分で腹八分目、みたいな調整をしながら生きているんだもんね。


「もちろんあります」


 あるんかーい!


「ど、どこに……?」


「ピアスですよ」


 ピアス?

 ああっ! ホントだ!


「シャーレさん! みなさんのピアスを見てくださいっ! 一旦全員食事止めて!」


 ピアスがパンパンに膨らんでるー!


「ピアスで簡易的にエネルギー充填率がわかるようになっています。そうですね、現在……150%を超えたあたりでしょうか」


「食べ過ぎぃ! はいはい、みなさん食事終了です!」


【もう終わりですか?】


【もっと食べたい】


【食事はとても楽しいですわ】


【ほかにも食べてみたいです】


【あと1口だけ】


【持って帰っても良いですか?】


【*+~!M"#!#$O`*+???TT%#$``O*@!&%】


 めちゃくちゃ気に入ってもらえてとってもうれしいんですけどー。


「これ以上食べたらお腹が破裂して、肉体が損傷するのでダメです! エネルギーを消費したらまた食事をお出ししますから!」


 危ないなー。

 満腹中枢がぶっ壊れている仕様なら、先にちゃんと教えておいてくれないと……。


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