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第50話 アリシア、国の代表としての仕事を任される

【それはみなが肉体というもののすばらしさを知らないからに他ならない。知らないものを否定してはいけないとおいらは思うでやんす】


 急にヤンス(ウルティマ)が、フレンドリーなヤンスに戻った?


【だから、みなには体験してもらおうと思っているでやんす。ここで】


 ここで?

 何を?


【というわけでスークル様、よろしいでやんすか?】


 と、ヤンス(ウルティマ)が、唐突にスーちゃんに話しかける。

 真面目な話が始まってからは、だいぶ興味なさそうにぼんやりとしていたスーちゃん。戦いの女神様だからなのか、平和な話し合いには興味ないみたいに見えたんだけど――。


『ああ、もとよりそのつもりだ。早速始めようじゃないか!』


 なぜだか目を輝かせていた。

 もしかして、何か楽しいことが始まるの……?


【パストルラン王国の女神・スークル様の許可が出た。みな、思うところはあるだろうが、しばらくの間、おいらと一緒に、仮初の肉体に身を宿し、個として立ち、人間として暮らしてみるでやんすよ】


 ざわつく大ホール。

 200人のエヴァちゃん(の顔をした反乱分子のみなさん)がお互いに顔を見合わせている。不思議な光景……。


【私もまだほんの少ししか人間と関わっていないですが、きっと大丈夫だと思っています! アリシアさんたちはとっても興味深くて温かい人たちなので、楽しい体験ができると信じています!】


 わたしたち⁉

 もしかして、わたしとナタヌとラダリィでシャーレさんのことを撫でまわしたことを好意的に受け取ってくれているの?


『ようこそパストルラン王国へ。オレがここの管理をしている女神・スークルだ』


 スーちゃんがゆっくりと歩いて、テーブルとテーブルの間にある通路を進む。200人のエヴァちゃん(反乱分子?)たちのちょうど真ん中あたりまで歩いていき、ピタリと立ち止まった。


『さあ、立て。この城がお前たちの生活の拠点だ。しばらく逗留し、人間であることを楽しめ。学べ。そして後悔し、感謝しろ』


 あー、そういえばなんかノーアさんがそれっぽいことを言っていたような……。

 人間であることを楽しめ、かー。


『アリシア、後は頼むぞ』


 えっ、どういうこと⁉


「後は頼むって何⁉ わたし今、何を頼まれたの⁉」


 ナタヌに目で助けを求めてみる。

 でも眉を下げて小さく首を振るだけ。


「ノーアさん、どういうことですか⁉」


「スークル様はアリシア=グリーンに頼まれたのですよ。もちろん私もできる限りのサポートはします。しかし責任者はアリシア=グリーンです」


 ノーアさんがそう言ってから、小さく微笑む。


「あの……わたし、何の責任者なんですか? 何かわかっているなら教えてください?」


 抽象的なことを言われてもピンと来ていなくて……。


『アリシア、お前はパストルラン王国の大使を任じられた。そうだな?』


「う、うん。任じられた……ね?」


『そして、わかりやすく言えばここは大使館だ』


「大使館……」


『たった今から、ここはパストルラン王国であってパストルラン王国ではない』


「それって、あれだよね。……治外法権ってやつ?」


『そうだ。ここは今から暫定的に『ウルティムス国』ということになる』


「なるほど……?」


 ウルティマさんやシャーレさん、それにほかのみなさんが暮らす場所だから。


「それで……?」


 ここが『ウルティムス国』の領地、治外法権が認められる場所になったってことはわかったよ。それとわたしに何の関係が?


『お前は国の代表としてここにいる。そして彼らはこの土地のことを、人間のことをよく知らない』


「そう、だね?」


『彼らがここに逗留する目的は、人間を知ることだ』


「それはさっき聞いたから、なんとなくわかる……」


 仮初の肉体を使って、人間として暮らしてみる。

 そこで何かの経験を得ようとしている。

 そういうことだよね?


『人間を知るにはどうするのが良いと思う?』


 あー、なんか求められていることがわかってきたかも。


「えーと……つまり、そういうこと?」


『そういうことだ。ようやく理解できたな?』


「うーん、はい。なんとなくは……」


 わたしがこの国の代表で、大使で、『ウルティムス国』のみなさんは、人間と触れ合うことで人間のことを知りたい。


 つまりは――。


「わたしにここで、『ウルティムス国』のみなさんの相手をしろ?」


『頼んだぞ。こればかりは女神のオレにはできないことだ』


 と、楽しそうに笑う。

 本気出したら相手できるくせに……。


「アリシア=グリーン。私はすでに人間ではありませんが、微力ながら協力させていただきますよ」


 いつの間にか、ノーアさんがスーちゃんの隣に立っていた。


 微力ながらって……。

 ノーアさんが微力なら、ほかの人の力は何力なんですか……。


「もちろんわたしも全力で協力します!」


「お、俺もやるぞ!」


 ナタヌもスレッドリーもありがとう。

 2人のことはすっごく頼りにしているよ!


「さあ、アリシア。パストルラン王国のホストとして、まず最初にやるべきことをやりましょう」


 ノーアさんが両手を広げて『ウルティムス』の人たちのほうに向かって歩き出す。


「最初にやるべきことって?」


「人間の楽しみの1つ。食事の用意です」


 食事!

 人間の3大欲求の1つだ!


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