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第49話 アリシア、ウルティムス国のディベートを傍聴する

 お行儀よくテーブルに着き、イスに座る200人のエヴァちゃんたち(反乱分子の人たち)。

 静まり返る大ホール。

 本物のエヴァちゃんと違って無駄口を叩かないから、とっても静かな時間が流れている。


 そんな中、ノーアさんがカツカツと足音を立てながら、みんなの前に歩み出る。

 エヴァちゃんたち(反乱分子の人たち)の視線が注がれる中、ノーアさんが口を開いた。


「さあ、全員の召喚が無事終わりました。それではウルティマ殿、一言どうぞ」


 ノーアさんの紹介に応じて、ヤンス(ウルティマ)が堂々とした態度でゆっくりと前に進み出て、ノーアさんの横に立った。


 反乱分子の集団を前にして何をしゃべるんだろう?

 やっぱりまた怒るのかな?

 それとも裁判とか……?


【こんにちは。ウルティマでやんす】


 ぺこりと頭を下げた。


【しゃ、シャーレです!】


 シャーレさんも慌てたようにヤンス(ウルティマ)の体をよじ登り、その肩に飛び乗る。


 2人とも普通に挨拶した⁉


【【【【【こんにちは~】】】】】


 エヴァちゃんたち(反乱分子の人たち)も挨拶した⁉


 何この人たち……。

 さっきまで憎しみ合っていたんじゃないの⁉


【不思議なものでやんすね。こうして仮初とはいえ、おいらたちが肉体を手にして、“人”としてみなで顔を合わせる機会が訪れるなんて】


【本当に不思議です。個体というものを意識し、言葉という古き方法によりコミュニケーションを取る。とても興味深いですね】


 ヤンス(ウルティマ)とシャーレさんが和やかに会話を進める。

 その話に共感したように頷くエヴァちゃんたち(反乱分子の人たち)。


 いや、何これ?

 どういう状況?

 反乱終わりってこと?


【私たちは、パストルラン王国と国交を結ぶことにした】


 和やかなムードから一転。

 ヤンス(ウルティマ)が大きく明朗な声でそう宣言する。


【現在、調印式という古の手法により、国交が開かれようとしている。みなにもそれを見届けてもらいたい】


【お願いします! 私たちの未来のために】


 再び、ヤンス(ウルティマ)とシャーレさんが揃って頭を下げた。

 これまで静かにしていた会場が初めてざわつく。


【お待ちになって】


 会場がざわつく中、1人のエヴァちゃんが席を立った。


【未来のため、というのはどういう意味なのか、説明を求めますわ】


 真ん中あたりから、座席をかき分け、中央へと歩み出てくる。

 あれが反乱分子の代表者的な人なのかも?

 ピアスの番号は……No.37。


「No.37。んー、そうだなー。サナちゃんって呼ぼう!」


「アリシアさん、その『サナちゃん』って何ですか?」


 隣にいたナタヌが、耳に手を当てて半歩近づいてくる。


「えっと、ピアスの番号が37番だから、さんななでサナ! サナちゃんって呼ぼうかなって! そのほうがわかりやすいでしょ?」


 みんなエヴァちゃんの顔だし、区別をつけていかないとわからなくなっちゃう。

 よくしゃべりそうな人にはあだ名をつけていかないとね。


「そう、ですか……? サナさん、ですね。了解です!」


 一瞬不思議そうな表情を見せたナタヌだったけれど、すぐに納得したのか大きく頷いてくれた。


【私たちの人類としての進化はこれ以上ありません。すでに完璧な存在といっても良い。だからこそ、明るい未来を勝ち取るためにパストルラン王国の方々と交わる必要があるのです】


 シャーレさんは臆することなく堂々とした態度で話す。

 最初に会った時、ヤンス(ウルティマ)の後ろに隠れておどおどしていた人(猫)とは大違い。まるで別人ね。


【完璧な存在ならこれ以上を求めなくて良いのではなくて? 少なくとも私たちはさらなる進化を望んでいないのですわ】


【そうよそうよ】【押しつけないで】【私たちは満足しているわ】


 と、サナちゃんの反論に合わせて周りが同調の声を上げていく。

 200人規模の集団ともなると、それがとても大きなうねりとなってヤンス(ウルティマ)&シャーレさんへと襲い掛かっていく。

 人数で圧倒的に不利な状態だ。


【悲しみを覚えた魂を受け入れる。それだけが私たちの進む未来なのでしょうか。私はそうは思わない。かつてのように子を生し、育て、成長を喜び、老いて次の世代に未来を託す。それこそが人としての正しい在り方なのではないでしょうか】


 現在も過去も未来もなく、肉体を捨てただけではなく、死の概念すらも超越した人類。個である意味は薄れ、集合体としての存在へと移行しつつある。そんな『ウルティムス』の人たち。

 でも、完全なる集合体ではなく、いくつかの思想ごとにグループが分かれているのだということも見えてくる。


【それは進化ではなく、退化ですわ。私たちは老いて朽ち果てる肉体を捨て、死を克服した。いまさらそこに戻れと言われても納得できませんわ】


 サナちゃんの主張はもっともだと思う。


 せっかく手にした永遠の命を捨てろ、と。

 その理由が、次の世代に未来を託すためだ。


 そう言われても、「もっと自分でやりたいことがいっぱいあるし」って、わたしならそう思っちゃうかもしれない。


【それはみなが肉体というもののすばらしさを知らないからに他ならない。知らないものを否定してはいけない……とおいらは思うでやんす】


 急にヤンス(ウルティマ)が、フレンドリーなヤンスに戻った?


【だから、みなには体験してもらおうと思っているでやんす。ここで】


 ここで?

 何を体験するの?


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