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第48話 アリシア、刻印を確かめられない

 ノーアさんによる大規模な強制転移が始まる。


 大ホールの天井いっぱいに広がった空間の歪み。その歪みを通って、次から次へと人(?)が転移してくる。


【こんにちは】


【おはようございます】


【ごきげんよう】


【はじめまして】


【やっほ~】


【べ、別にあなたに会いに来たわけじゃないんだからねっ】


 しっかりと整列し、列をなして現れる人型のホムンクルス。

 わたしたちの前を通り過ぎる時に、礼儀正しく挨拶をしてくれる。そのままテーブルのほうへと進み、指示もしていないのに順番に奥から詰めて着席していく。


 めっちゃ礼儀正しい……。

 反乱分子のはずなのに……。


 でも――。


「なんでみんなエヴァちゃんの見た目なんですか⁉」


 ていうか、これ、実はホントにエヴァちゃんじゃないの⁉

 途中にいたツンデレっぽいのとか、絶対エヴァちゃん本人でしょ!


『違うぞ。これはすべて捕らえた反乱分子だ』


「えー、どこからどう見てもエヴァちゃんなんですけど?」


 なんならエヴァシリーズに準拠しているというか……全員お揃いのミニスカメイド服姿だし! だけどみんなそれぞれ髪型や表情が違う……でもでもやっぱりエヴァちゃんじゃないの⁉


 ここはあれか……。

 とうとうエヴァちゃんを見分けるための必殺技を使う時来てしまったというの……?


 そう、エヴァシリーズは……わたしがおっぱいを揉むと喜ぶ……。


 やるしかないか……。


「アリシア=グリーン、よく見てください」


 ノーアさんが左耳を触るジェスチャーを見せている。

 ん、どういうこと? 耳を見ろってこと?


「あ、みんな数字が書いてあるピアスをしている……?」


 整列して現れた順に、1から数字が並んでいる……。

 え、識別番号的な意味⁉


「そうです。わからなくならないように、1~200の数字を振って管理することにしました」


 ねぇノーアさん……「私やりましたよ」みたいな顔してますけど……別にそんなすごく良いアイディアだとは思えないんですが……。


「管理番号があるのはまあ、悪くないとは思いますけど……ピアスが取れちゃったらわからなくならないですか……?」


 意図的に取ったりした場合もね。


「問題ありません。ピアスで識別できるようにしたのはわかりやすさを重視しただけです。実際には体にも同じ刻印を施してあります」


「体にも? ちょっと見当たらないですけど?」


「大きな声では言えませんが……」


 と、ノーアさんが唇を寄せ、耳打ちをしてくる。


「えっ⁉ そ、そんなところに⁉ ちょっと確かめてみても良いですかっ⁉」


 まさかそんなところに刻印が施されているなんて!

 目視確認しないと信じられない!

 そう、これは調査だからしかたないの!


 げっへっへっへ♡


「アリシアさん! ラダリィチェック(代理)です! 刻印を確認するのはNGです! って、私の中のラダリィさんが言っています!」


 ナタヌがわたしの前に立ちはだかり、両手を広げて通せんぼをしてくる。


「ラダリィチェック(代理)⁉ なんで⁉ わたし、何もやましいことなんてないよ⁉」


 わたしはただ錬金術師としてノーアさんの作品に興味があるだけで!


「これ以上先に進むというのなら、私にも考えがありまぁす!」


「わたしはただ刻印を……」


「大臣が『刻印を施された』とおっしゃられているのですから、アリシアさんがわざわざ確かめる必要はないです!」


「でも……」


「必要ないです!」


 ちょっとだけでも……。


「いけません」


 ちょっとお尻を……。チラッとだけ……。


「だったら私の刻印を確かめてください!」


「いやナタヌのお尻に刻印はないでしょ……」


 さすがにここでナタヌのお尻を確かめ出したらおかしな人になっちゃう……。


「なあ、アリシア。刻印とやらを確かめたいだけなら、シャーレ殿に頼んだらいいんじゃないか?」


 後ろからスレッドリーが肩を叩いてくる。


 なん……て?


「今現れた者たちはミサトさんではなくて、中身は『ウルティムス』国の国民なのだろう? それならあちらに頼むのが筋だと俺は思う」


 まさかの正論……。

 スレッドリーが正論で殴ってくるわっ!


「でもエヴァちゃんの見た目をしているんだからわたしが確かめないと!」


「抵抗されて変に揉めたら国際問題に発展するかもしれない」


「た、たしかに……」


【臀部に刻印がされていることを確認すればよろしいのですね。私にお任せください】


 わたしたちのやり取りを見守っていたシャーレさんが、ピョンとテーブルから飛び降り、端っこに座っているエヴァちゃん(ウルティムス国の反乱分子の人?)に声をかける。


「ああっ、わたしの研究が……」


 エヴァちゃん(ウルティムス国の反乱分子の人?)がイスから立ち上がり、シャーレさんにお尻を向けてしゃがみこむ。するとシャーレさんは、そのスカートの中にもぐりこんだ。


「シャーレさんだけずるいっ!」


「アリシアさん!」


 いつになくナタヌの圧力が怖い……。代理ラダリィの名は伊達じゃない……。


「はい……つい……」


 わたしもめくりたかったのに……。


【刻印を確認できました。たしかにお尻に数字が刻印されていました。全員分確認して回れば良いですか?】


 え、なにそれ!

 そんな夢のような仕事が⁉

 わたしも手伝いたいです!


「それには及びません。1人分確認できればアリシア=グリーンも納得したでしょう。私の仕事は完璧です」


「ええ、そうですね……。ノーアさんはいつも完璧です……。シャーレさん、ありがとうございました……」


 わたしも猫になりたい。


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