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第47話 アリシア、会場設営をする

「みなさんを召喚するには、この場所は少し手狭ですね。大ホールのほうに移動しましょう」


 ノーアさんに連れられて、わたしたちは調印式の会場から大ホールへと移動する。


 1個中隊相当の敵軍かー。

 100人規模のホムンクルスってことだよね。

 でも最初にノーアさんは「2体の仮初の肉体を用意した」みたいなことを言っていたのに、実は100体も予備でホムンクルスを作っていたってこと? こんなこともあろうかと、の想定範囲が広すぎるんですけど。


「アリシアさん……私、ちょっと怖いです……」


 そうだよね。

 日課で魔物をぶっ飛ばす趣味がナタヌでも、対人戦は経験ないでしょうし、これから100人の敵と対峙するのは怖くて当然だと思う。わたしも怖いし! でも安心させてあげなきゃ。


「だ、大丈夫だよ。わたしもいるし、スーちゃんは最強の女神様だよ? それとなんて言ったって『賢者の石』ことノーアさんがついているんだから。何があってもわたしたちの願望が実現する。そういうものだよ」


 万能の願望器『賢者の石』。

 ノーアさんが味方にいるっていうのは、ある意味それだけで反則技だからね。

 ノーアさんがいれば因果律さえ捻じ曲げてしまえる。たぶんそういうものなんだと思うんだ。もしかしたら今も捻じ曲げられたのかもしれない。わたしたち人間にはそれを観測することはできないだろうけれど。



「この会場なら広さも十分でしょう」


『ああ、良さそうだな。おい、お前たち』


 スーちゃんに声をかけられたのは、わたし、ナタヌ、スレッドリーの3人だ。


「なーに、お義姉ちゃん?」


『これから反乱分子を閉じ込めた200体の人形を召喚する』


 200体⁉

 思っていた人数の2倍だ!

 中隊ってそんなに人がいるんだっけ。


「つまり……反撃されないようにわたしたちで制御すればいいのね!」


「お任せください!『セイクリッド・フォース』でぶっ飛ばします!」


 やる気満々のナタヌ。

 力強く杖を握り締める。


『いや違う』


 そうだよね。

 建物の中で魔法はダメだよね。

 ならば――。


「俺の出番か。俺の剣ですべての敵をなぎ倒す」


 いよいよ『剣聖』スレッドリーの出番ね!

 屋内ではやっぱり剣!

 わたしのライトサーベルも狭いところは苦手だし、スレッドリーに任せた!


『それも違う』


 スーちゃんが首を振る。

 んー、じゃあどうすればいいの? わたしたちの攻撃手段って、ビーム、魔法、剣、の3つしかないんだけど?


『攻撃はするな』


「えー! 攻撃しないでどうやって制圧するの⁉」


 わたしたちが「コラー」って言っても、たぶん聞いてくれないと思うよ?

 そういう役だったらシャーレさんに直接頼んだほうが良さそうだと思うの。


『イスとテーブルをセッティングしろ』


「……はい?」


 なんでそんなことを?

 イスとテーブルを並べたら、めっちゃ狭くなって、今よりももっと戦いにくくなるよ?


『戦いのことは忘れろ。そっちの隅に重ねてあるイスとテーブルを人数分セットしろ。急げ』


「えー、うん。スーちゃんが言うなら……はい」


 ナタヌとスレッドリーに目配せする。

 とにかく従わないと。

 理由はわからないけど、ここのリーダーはスーちゃんだしさ。


 200人分かー。

 こんな時エヴァちゃんがいてくれたらすぐなのになー。


【おいらたちも手伝うっす】


【私も手伝い……どうしましょう】


「ありがとうございます! ウルティマさんはこっちをお願いします! シャーレさんはそこで応援しててください! 見ていてもらえるだけで作業捗るので!」


 シャーレさんが「ニャー」と鳴くだけで、わたしたちの作業速度は上がっていくからねー♪


 じゃあ役割分担。

 わたしとスレッドリーがテーブル係で、ナタヌとヤンス(ウルティマ)がイス係ね。テーブルのほうが重たいだろうし。


 並べ方どうしようかなー。

 200人だと丸くするのは無理だし、とりあえずスーちゃんのほうに全員がまっすぐ座る感じにしようかな。いわゆる講義形式ってやつかな? 講義って意味わかる?


「いっくよー」


 ローラーシューズと同じ原理で、床に魔力の波を起こして、テーブルを滑らせる。テーブルが魔力の波乗りをして、セッティング係のスレッドリーのところに流れていく。これなら重たいテーブルも楽々運べちゃう♪


 イス係の2人は……。

 20脚くらいのイスを縦に重ねて、ローラーシューズで強引に運んでいる。

 さっすがナタヌ! パワー系プリースト!



* * *


『よし、並べ終わったな。全員お疲れ』


 まあ、わたしたちにかかればこんなの大したことはないですよ。


 ね?


 と思ってみんなのほうを見てみると、元気が余っているのはわたしと同じテーブル係のスレッドリーだけ。ナタヌは疲弊しきった表情をしていた。ヤンス(ウルティマ)は、飄々としていて疲れているのかちょっとわからないや。


「ナタヌ。HP回復ポーション」


 アイテム収納ボックスから取り出して手渡す。


「ありがとうございます……。少し疲れました……」


 ナタヌはポーションを口にしてから、小さくため息を吐いた。


『ノーア。準備ができたぞ。召喚を頼む』


「かしこまりました。それではこの場に召喚いたします」


 ノーアさんが右手を掲げると、天井付近の空間がぐにゃりと歪み出す。

 それがだんだんと大ホールの天井いっぱいに広がっていく。


 めっちゃ大規模な召喚だわ……。


「出ます」


 いよいよ敵さんとご対面、か。

 ホムンクルスに閉じ込められているんだよね。

 どんな姿だろう。


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