目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第46話 アリシア、内乱を目の当たりにする

 ウルティムス国、パストルラン王国のそれぞれの代表者と立会人がサイン。書類を交換して、もう1部にも同じようにサインをしようとしたその時だった。


『待て。敵襲だ』


 スーちゃんの無感情な声が脳内に響き渡る。


 まあ、だいたい予想できていたから驚かないけど。

 会場を別の場所に移したくらいで、簡単に終わるわけないよねーって思っていましたし。


 ウソです、ちょっとだけ驚いた。

 まさかエヴァちゃんの警報をすり抜けて襲撃されるなんてね。


 エヴァちゃん、気づかなかった?


≪申し訳ございません。探知が及びませんでした≫


 素直でよろしい。

 それで、どんな手を使ってきたのかわかる?


≪想定外です。空間転移を使用したようです≫


 ふーん?

 前にわたしが異空間に落ちた時のような?


≪アリシアの記憶にあるそれとは異なります。空間を歪めて穴を空けたのではなく、別空間からそのまま転移を行ったようです≫


 んー、ちょっとよくわからないけれど、想定外ってことだけはわかった。

 敵の数は?


≪人ではないので判別が難しいですが、質量で言うと1個中隊程度だと推定されます≫


 1個中隊って100人くらい?

 ヤンス(ウルティマ)の話からすると、個人の概念があまりないような感じなのかも? だったらなんで思想の違いで内乱が起きているのかってところが謎なんだけどね。


≪考察は後にしてください。会敵します≫


 えっ、マジぃ?

 わたしのほうではぜんぜん魔力探知で来てないんだけど⁉


≪索敵機能、一部シンクロします≫


 お、おおー⁉

 なんか赤外線カメラみたい。

 ぼんやりと敵(?)のまとまりが見えるね。

 これが敵ってことで良いの? ホントに人じゃないんだー。


≪こちらも同種の相手と会敵しているので間違いありません≫


 OK。わかった。

 こっちはスーちゃんとノーアさんがいるから何とかなると思う。

 そっちは……もう陽動の役目は終わっちゃってると思うし、みんながケガしないようにうまいことやってくれる?


≪Yes, My Lady.≫


「スーちゃん、ノーアさん、敵の姿って見えてます?」


『ああ、問題ないよ』


「問題ありません」


 さすがの2人だわ。

 エヴァちゃんのアシストがないと敵の姿さえ見えないわたしとは格が違う!


【ご迷惑をおかけしているでやんす。こちらでも対処を試みるでやんすね】


【対応します!】


 ヤンス(ウルティマ)とシャーレさんが敵に向かって歩き出す。


 そんなにズンズン無遠慮に近づいていって大丈夫なんですか⁉

 射的距離とかぜんぜん想像もつかないですけど、その距離で攻撃されたらヤバい⁉


【こら~! お前たち~! パストルラン王国のみなさんにご迷惑でやんす! すぐに侵略をやめるでやんす!】


 普通に「コラッ」って怒った……。

 えっと……内乱の鎮圧ってそういう感じ?

 ドンパチ魔法やら重火器やらでやり合った末……みたいなのではなくて?


【迷惑です! 私も本気で怒りますよ!】


 シャーレさんが毛を逆立てて「シャーッ」って……シャーレさんがシャーッ……。なんでもないです。


 シャーレさんの「シャーッ」に合わせて、敵の質量が減っていく……。

 うっそ。

 シャーレさんの「シャーッ」が効果あり過ぎるんですが……。

 猫がかわいいから、なのかな?


『さすがだな。オレたちが出る幕はなかった』


「華麗な手際でした。さすがです」


 スーちゃんとノーアさんも感心しているね。

 剣の柄に手を当てたまま固まっているスレッドリーと、杖を握り締めたまま固まっているナタヌも……出番はなかったけれどお疲れ様だね。

 そして、防御フィールドの展開準備をしていたわたしもだけど……。


 えっと……なんかみんないなくなっちゃったけど……これで内乱鎮圧完了ってことで良いの?

 肩透かしってこういうのを言うんだよね……。


【しかし申し訳ないでやんす。とっつかまえて謝らせようと思ったのでやんすが……逃げられてしまったでやんす……】


 すまなそうに謝るヤンス(ウルティマ)。


「そこは私にお任せください。こんなこともあろうかと、周辺一帯の空間に罠を仕掛けておきました」


 軽くウィンクをするノーアさん。

 空間に罠って……どんなことを想定していたんですか?


「空間転移しようとしたすべての反乱分子は捕らえて、強制的に私の用意した仮初の肉体に封じ込めておきました」


 なん、ですと……。


『でかしたぞ、ノーア』


 スーちゃんがうれしそうにノーアさんの背中を叩く。


「すべてスークル様のご指示通りです」


『お、おう。……そうだな!』


 あー、これ絶対指示してないやつ!

 良いところだけスーちゃんが持っていってずるいんだー。


「スークル様、捕らえた者たちをいかがいたしますか?」


『空間転移を封じているならただの人と同じだろう。まとめてここに呼び寄せろ』


「承知いたしました。ウルティマ殿、シャーレ殿もそれでよろしいですか?」


 ノーアさんはスーちゃんの言葉に満足そうに頷くと、2人のほうへと視線を送る。


【もちろんでやんす。お手間をおかけするでやんす】


【よろしくお願いします!】


 全会一致。

 ということは、ここに1個中隊相当の反乱分子のみなさんがやってくる……!



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?