目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第45話 アリシア、サインをする

 それから、巨大な猫のシャーレさんを抱っこする大会が、ナタヌ→わたしの順に3周ほど行われた。


 こんな猫カフェならいくらでもお金払うよ!

 ううん、ここに住みたいっ!


「いつまで抱っこしていても飽きない! 正直お持ち帰りしたい!」


「シャーレさんとってもかわいいです~。アリシアさんとシャーレさんの組み合わせも最高です!」


【は、はずかしいです……】


 しっぽを畳んで顔を隠してしまうシャーレさん。


「「か、かわいいっ♡」」


 そんなシャイなシャーレさんにメロメロな女子2人なのでした。


「俺も抱いてみたい……」


 ぼそりと呟くスレッドリーに対して、わたしとナタヌが猛攻撃を仕掛ける。


「殿下⁉ アリシアさんの前で『女性を抱く』だなんて! 見損ないました! もともと見損なっていましたが、さらに見損ないました! その辺の埃のほうがまだマシです!」


「スレッドリー……それはないわー。わたしでも引くわー」


 そう、絶対にシャーレさんには触れさせない構え。

 一致団結した女子パワーを見よ!


「違う! 俺はただ猫を……すまない……なんでもないです……」


 肩をすぼめて引き下がっていく。


『殿下。お前にしてはよくがんばったな。これに懲りずにアリシアとは仲良くしてやってくれ』


「ええ、とてもよくがんばりました。あのアリシア=グリーンを前にして、よくがんばりました。殿下、私も評価しますよ」


「あ、ああ。ありがとう、スークル様、大臣……」


 スーちゃんがやさしい目でスレッドリーのことを見つめ、ノーアさんがその肩をポンポンと叩いて慰めていた。

 なんでちょっと良い話風に褒められているの? ノーアさんだって、「アイコさんを抱っこさせてくれ」って言われたら嫌でしょ? スレッドリーはむっつりなんだから!


【それにしても良かったでやんす。シャーレとこんなにも仲良くしてくださるなんて感激でやんす】


「んー、どういうことです? こんなにかわいいんだからみんな抱っこしたがるのは当たり前ですよ? あ、見た目が猫っていうだけじゃなくて、性格的にもとってもかわいいので♡」


 むしろ中のシャーレさんのほうに好感を持っています!

 ね、ほら、ナタヌも頷いているでしょう?


【シャーレは、以前アリシアたちには失礼な態度を取ってしまっていたので、受け入れてもらえるか心配していたでやんすよ】


「失礼な態度? わたしたち、初対面じゃない? あー、もしかしてやっぱりあの黒い球の人?」


【そうでやんす。「あの時は失礼な態度を取ってしまった」と、ずっと反省しきりで困っていたでやんす】


 そんな失礼な態度なんて取られたっけ?

 はて、あまりよく思い出せない……。


「失礼な態度を取っていたのはアリシア=グリーンのほうだと記憶しています」


 と、ノーアさんのツッコミが入る。


「そ、そんなことありましたっけ……? わたし、10歳だったから全然覚えてないなー」


 口笛ピューピュー。


「光を当てて影を飛ばして正体を見ようとしたり」


 や、やったかもしれない!


『小さいミィシェリアといちゃついたり』


 ちょっとスーちゃん⁉ それは関係なくない⁉


【あの時はそっけない態度で案内してすみませんでした!】


 シャーレさんが前足を揃えて頭を下げてくる。


「いえいえ! わたしこそ、無遠慮に挑発したり攻撃を仕掛けたりしてすみませんでした!」


 若気の至りで許してください、とは言いません。

 ホントにごめんなさい。



「さて、お互いの陣営同士、打ち解けることができました。邪魔が入らないうちに調印式を済ませてしまいましょう」


 ノーアさんの仕切りで突発的に始まった交流会(猫カフェ)がお開きになる。

 そうだった。わたしたちは遊びに来たわけじゃなくて、国の大事な仕事をしに来たのです。存在も文化も何もかも違う両国だけど、正式な国交を結ぶことがきっと大切なことなのでしょう。

 わたしにはその辺りはよくわかっていないけれど、大事なお仕事を任されたということだけはわかります。


 ニコニコしながら調印式に臨む。

 これがわたしの任務だから!



「それでは両国の代表、ウルティマ殿、そしてアリシア=グリーン。こちらのテーブルへどうぞ」


 お、おう……緊張する。

 いけない、笑顔笑顔。


「アリシアさん、がんばってください!」


 ナタヌの声援にぎこちなく手を上げて応える。


 ニコニコしながらサインをする。

 それだけだから大丈夫っ!


「では立会人、シャーレ殿、そしてスレッドリー殿。隣へどうぞ」


 立会人なんているんだ!

 そ、そうよね。

 何の意味もなくスレッドリーがついてくるわけないし。


『よっ、ご両人!』


 スーちゃん、それ何目的の合いの手……?


「それではお2人、サインをお願いします」


 渡された書類に何が書いてあるかに目を通す必要はない。

 これはただの儀式。

 でもその儀式が大事。


 というわけで、さらさらさら~と。


「続けて立会人のお2人、サインをお願いします」


 スレッドリーのほうに書類を回す。


「よろしい。それではお互いの書類を交換いたします」


 ノーアさんがサインを確認。

 それからウルティムス国、パストルラン王国それぞれのテーブルに置かれた書類を交換する。


「それではウルティマ殿、そしてアリシア=グリーン。もう一度サインをお願いします」


 はいはい、上にウルティマさんのサインがあるね。読めないけど。わたしは下の空いている欄に名前を書けばいいのかな。


 わたしがペンを手に持った。

 その時だった。


『待て。敵襲だ』



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?