お城の大広間でわたしたちを出迎えたのは――。
【おひさしぶりでやんす】
ヤンス(殿)だ。
立派なひじ掛けイスに座ってにこやかに笑っている。
「お、おひさしぶりです……でも、なんでここにいるの……」
こっちが出迎えるほうでしょ!
そもそもそういうことじゃなくて!
「なんでまたヤンスの顔なの⁉」
おかしいでしょ!
「公爵閣下、ご、ご無沙汰しております!」
「公爵、遊びに来ていたのか! なんだ、水臭いぞ」
ナタヌとスレッドリーがヤンス(殿)の顔を見て、それぞれ挨拶を始めてしまった。
「騙されないで! これはヤンス……じゃなくて、グレンダン公爵じゃないの! ニセモノ……でもなくて!」
【アリシア、おいらから説明するでやんす】
ヤンス(殿)がイスから立ち上がる。
おお、殿がイスのひじ掛け部分を掴んで滑らかな動作で立ち上がった! おお、ホムンクルスの体をしっかり使いこなしている!
「あの仮初の体にはオートアシスト機能を搭載しているので、アリシア=グリーンの記憶の中に存在する人物を完璧にトレースした動きが可能となっているのですよ」
ノーアさんの解説付き。
いや、だからわたしの思考を読まないでくださいってば。
【みなさん、お初にお目にかかるっす。おいらはウルティマという者でやんす】
「うるてぃま? 公爵閣下?」
ナタヌが首を傾げる。
まあ、どこからどう見てもヤンス(グレンダン公爵)ですからね。不思議に思うのも無理はないでしょう。
【『ウルティムス』という……ここで言うところの「国」で王様をやっている者でやんす】
「王様! ハハ~」
いきなり土下座しなくて良いからね?
ナタヌの王様じゃないから、大使一行として適切な礼を尽くせば失礼に当たらないからね?
【国……『ウルティムス』は国なんでやんすよね?】
『オレたちはその集合組織のことを「国」と呼んでいる。ただそれだけだ。無理に合わせる必要はないよ』
スーちゃんが補足する。
【ありがとう、女神・スークル。『ウルティムス』は国で良いでやんす。おいらたちの国では、あまり個を意識しないでやんすから。それにみなさんのような肉体を持っていないんでやんす】
「肉体がない……?」
再び首を傾げるナタヌ。
そうだね、今日は難しいことばっかりだよね。わたしもちゃんとは理解していないから大丈夫だよ。
【肉体がないままだとみなさんと対話が成り立たないでやんすから、そちらのノーアさんのお力をお借りして、そしてそこにいるアリシアさんの記憶をお借りして、「肉体を持った人」の姿を模してこの場にいるんでやんす】
「そ、そうなんですね……? ななな、なるほど!」
ぜんぜんわかってなさそう。
でもわかったふりをするナタヌかわいい♡
「つまり、あなたはグレンダン公爵ではないんだな?」
おお、スレッドリーのほうは多少理解しているっぽい?
【誤解を与えてしまったなら謝るでやんす。おいらは『ウルティムス』国のウルティマという者でやんす】
「ウルティマ殿、はじめまして。俺……私はパストルラン王国第2王子のスレッドリー=フォン=パストルランと申す。この度は我が国によくぞ参られた。歓迎いたす」
お、おお……。王子様だ……。
私って言った!
『アリシア、どうしたんだ? 殿下の優雅な立ち振る舞いに惚れたか?』
「なっ!」
スーちゃん! 何をぶっこんできているの⁉
今はそういう時じゃないでしょ!
TPO! TPO!
『それはそれ、これはこれだろ。オレにとっては義妹の恋の行方も立派な関心事の1つだよ』
関心を寄せてもらえるのはうれしいんだけど、国交樹立と並べられて考えられても困るんですけど……。
【そしておいらの後ろに隠れているのが……シャーレでやんす】
ん、後ろ?
人なんていた?
【シャーレ。みなさんに挨拶するでやんす】
【よ、よろしくおねがいします……】
えっ、声ちっさ!
ていうか、どこにいるの⁉
【シャーレ。みなさんの前に出てちゃんと挨拶するでやんす】
と、ヤンス(ウルティマ)が後ろを向いてしゃがみ込み、抱きかかえたのは――。
【シャーレです! よろしくおねがいします!】
あ、アイコさんだ!
ノーアさんの工房にいた大きな猫さん!
なんでなんで⁉ ホムンクルス⁉ 猫⁉
「シャーレさんは、私の記憶をお貸しして仮初の体を作成したのです。どうやらシャーレさんの中ではアイコの見た目がしっくりきたらしく」
「そ、そうなんですね……」
人じゃないじゃん。
猫の体もありなの⁉
後ろ足で耳を掻いてるし……。
「かわいいですね……。抱っこしたいです……」
吸い寄せられるようにシャーレさんのもとに近寄っていくナタヌ。
一瞬警戒したように毛を逆立てるも、ヤンス(ウルティマ)が「シャーレ」と声をかけてそっと背中を撫でると、シャーレさんは落ち着いたようで、床に腹ばいになった。
【抱っこしてあげてくださいでやんす】
「良いんですか⁉ ありがとうございます!」
えっ、いいな!
わたしも抱っこしたい!
「失礼しますっ!」
ナタヌがとっても重たそうなシャーレさんを抱きかかえ、なんとか自分の膝の上に乗せる。
「……ああっ、ふかふかもふもふ♡」
【そこは……ちょっとくすぐったいです】
「ああっ、ごめんなさい! こう、ですか?」
【それなら気持ちいいです】
ナタヌは遠慮がちにシャーレさんの頭や背中を撫でて、溶けそうなくらいだらしなく表情を崩していた。うらやましい!
『モジモジしていないでアリシアも行ってこい』
と、スーちゃんがわたしの背中を押してナタヌの前へ。
よーし、順番♪
「お、俺も良いか?」
スレッドリーはダメ!
男子禁制!