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第44話 アリシア、挨拶を交わす

 お城の大広間でわたしたちを出迎えたのは――。


【おひさしぶりでやんす】


 ヤンス(殿)だ。

 立派なひじ掛けイスに座ってにこやかに笑っている。


「お、おひさしぶりです……でも、なんでここにいるの……」


 こっちが出迎えるほうでしょ!

 そもそもそういうことじゃなくて!


「なんでまたヤンスの顔なの⁉」


 おかしいでしょ!


「公爵閣下、ご、ご無沙汰しております!」


「公爵、遊びに来ていたのか! なんだ、水臭いぞ」


 ナタヌとスレッドリーがヤンス(殿)の顔を見て、それぞれ挨拶を始めてしまった。


「騙されないで! これはヤンス……じゃなくて、グレンダン公爵じゃないの! ニセモノ……でもなくて!」


【アリシア、おいらから説明するでやんす】


 ヤンス(殿)がイスから立ち上がる。

 おお、殿がイスのひじ掛け部分を掴んで滑らかな動作で立ち上がった! おお、ホムンクルスの体をしっかり使いこなしている!


「あの仮初の体にはオートアシスト機能を搭載しているので、アリシア=グリーンの記憶の中に存在する人物を完璧にトレースした動きが可能となっているのですよ」


 ノーアさんの解説付き。

 いや、だからわたしの思考を読まないでくださいってば。


【みなさん、お初にお目にかかるっす。おいらはウルティマという者でやんす】


「うるてぃま? 公爵閣下?」


 ナタヌが首を傾げる。

 まあ、どこからどう見てもヤンス(グレンダン公爵)ですからね。不思議に思うのも無理はないでしょう。


【『ウルティムス』という……ここで言うところの「国」で王様をやっている者でやんす】


「王様! ハハ~」


 いきなり土下座しなくて良いからね?

 ナタヌの王様じゃないから、大使一行として適切な礼を尽くせば失礼に当たらないからね?


【国……『ウルティムス』は国なんでやんすよね?】


『オレたちはその集合組織のことを「国」と呼んでいる。ただそれだけだ。無理に合わせる必要はないよ』


 スーちゃんが補足する。


【ありがとう、女神・スークル。『ウルティムス』は国で良いでやんす。おいらたちの国では、あまり個を意識しないでやんすから。それにみなさんのような肉体を持っていないんでやんす】


「肉体がない……?」


 再び首を傾げるナタヌ。

 そうだね、今日は難しいことばっかりだよね。わたしもちゃんとは理解していないから大丈夫だよ。


【肉体がないままだとみなさんと対話が成り立たないでやんすから、そちらのノーアさんのお力をお借りして、そしてそこにいるアリシアさんの記憶をお借りして、「肉体を持った人」の姿を模してこの場にいるんでやんす】


「そ、そうなんですね……? ななな、なるほど!」


 ぜんぜんわかってなさそう。

 でもわかったふりをするナタヌかわいい♡


「つまり、あなたはグレンダン公爵ではないんだな?」


 おお、スレッドリーのほうは多少理解しているっぽい?


【誤解を与えてしまったなら謝るでやんす。おいらは『ウルティムス』国のウルティマという者でやんす】


「ウルティマ殿、はじめまして。俺……私はパストルラン王国第2王子のスレッドリー=フォン=パストルランと申す。この度は我が国によくぞ参られた。歓迎いたす」


 お、おお……。王子様だ……。

 私って言った!


『アリシア、どうしたんだ? 殿下の優雅な立ち振る舞いに惚れたか?』


「なっ!」


 スーちゃん! 何をぶっこんできているの⁉

 今はそういう時じゃないでしょ!

 TPO! TPO!


『それはそれ、これはこれだろ。オレにとっては義妹の恋の行方も立派な関心事の1つだよ』


 関心を寄せてもらえるのはうれしいんだけど、国交樹立と並べられて考えられても困るんですけど……。


【そしておいらの後ろに隠れているのが……シャーレでやんす】


 ん、後ろ?

 人なんていた?


【シャーレ。みなさんに挨拶するでやんす】


【よ、よろしくおねがいします……】


 えっ、声ちっさ!

 ていうか、どこにいるの⁉


【シャーレ。みなさんの前に出てちゃんと挨拶するでやんす】


 と、ヤンス(ウルティマ)が後ろを向いてしゃがみ込み、抱きかかえたのは――。


【シャーレです! よろしくおねがいします!】


 あ、アイコさんだ!

 ノーアさんの工房にいた大きな猫さん!

 なんでなんで⁉ ホムンクルス⁉ 猫⁉


「シャーレさんは、私の記憶をお貸しして仮初の体を作成したのです。どうやらシャーレさんの中ではアイコの見た目がしっくりきたらしく」


「そ、そうなんですね……」


 人じゃないじゃん。

 猫の体もありなの⁉

 後ろ足で耳を掻いてるし……。


「かわいいですね……。抱っこしたいです……」


 吸い寄せられるようにシャーレさんのもとに近寄っていくナタヌ。

 一瞬警戒したように毛を逆立てるも、ヤンス(ウルティマ)が「シャーレ」と声をかけてそっと背中を撫でると、シャーレさんは落ち着いたようで、床に腹ばいになった。


【抱っこしてあげてくださいでやんす】


「良いんですか⁉ ありがとうございます!」


 えっ、いいな!

 わたしも抱っこしたい!


「失礼しますっ!」


 ナタヌがとっても重たそうなシャーレさんを抱きかかえ、なんとか自分の膝の上に乗せる。


「……ああっ、ふかふかもふもふ♡」


【そこは……ちょっとくすぐったいです】


「ああっ、ごめんなさい! こう、ですか?」


【それなら気持ちいいです】


 ナタヌは遠慮がちにシャーレさんの頭や背中を撫でて、溶けそうなくらいだらしなく表情を崩していた。うらやましい!


『モジモジしていないでアリシアも行ってこい』


 と、スーちゃんがわたしの背中を押してナタヌの前へ。

 よーし、順番♪


「お、俺も良いか?」


 スレッドリーはダメ!

 男子禁制!


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