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第43話 アリシア、調印式会場に到着する

「それでは調印式に参りましょうか」


『おう、それぞれ役割はわかっているな? みんな、頼んだぞ』


 当たり前のように仕切るノーアさん。

 そして先頭を行くスーちゃん。

 その後ろ姿を追いかけて、黙ってついていくわたし、ナタヌ、スレッドリーの3人。


 今さらながら、不安過ぎるフォーメーション……。トラブルのニオイしかしない……。まとめたり、止めたりしてくれる人がいないと……。


≪お呼びですか?≫


 いや、呼んでないです。

 そっちの対応に集中して?

 反体制派から襲撃を受けて大変なのはそっちだからね? こっちはニコニコしながらサインするだけなんだし。


≪たった今、大きめのフラグが立ちました≫


 うへぇ……ホントやめて……。

 わざわざこんな2チームに分けて行動しているのに、実はこっちに反体制派の襲撃があるパターンとか、予想でき過ぎるけどやめてね?


≪押すな押すな?≫


 違います。


≪でもそんなの関係ねぇ?≫


 何それ?


≪アリシアのいるほうの調印式会場の北2kmの位置に、敵正反応を確認≫


 えっ、もう⁉

 まだ調印式の時間までかなりあるけど⁉


≪今のは訓練です≫


 この警報器、うるさいから一生スイッチオフにしておこうかな。

 自前の魔力探知でいいや。


≪捨てないで! ご主人様! きっと役に立ちますから!≫


 ご主人様って!

 そんな下手に出たことなかったのに、なりふり構わずか!


≪殺さないで……私は悪いロボじゃないよ……≫


 普通に悪いロボだよ。

 魔王目指しているロボが良いロボなわけないでしょ……。


『アリシア、こっちに集中しろ。置いていくぞ』


「あ、はい!」


 まーたエヴァちゃんのせいでスーちゃんに怒られちゃった……。

 もう調印式が終わるまでの間は、ホントの緊急時以外は話しかけないで!


≪Yes, My Lady.≫


 ふぅ、これで一安心。

 調印式に集中しようっと。


「みんな待ってー!」



* * *


「ここが調印式の会場……?」


「そうです。急ごしらえなので、見た目が質素でお恥ずかしい」


「質素……?」


 質素って言葉の意味、なんだっけ?


「すごいです! グレンダン城よりも巨大です!」


「大きさヤバいよね……。それに柱が全部……金?」


 金箔を貼ってあるわけじゃなくて、純金の柱⁉

 調印式が終わったら1本持って帰って売ろうかな。


「まあまあの出来だな。造りの荒さが目立つが」


 王子様よ……。

 あなたここでその発言はそうとう強いね。たぶん、ノーアさんは謙遜して「急ごしらえ」って言っただけだと思うよ?


『国賓を招くにはこれくらいがちょうどいいだろう。よくわからんが』


 女神様なのにわからんのかーい。

 お義姉ちゃんさー、外交の窓口としてはお義姉ちゃんだけが頼りなんですよ? わたしたちはみんな素人なんですから。ノーアさんはどうか知らないですけど。


「スークル様、お気に召されましたか。それでは中に入って最終打ち合わせといきましょう」


 ノーアさんの先導で調印式会場……というかお城に足を踏み入れる。


 これは……中もそうとうヤバい……。

 普通にめっちゃ豪華なお城だよ。

 庭もきれいに手入れされているし、居住スペースとか、調理場とか、フル装備だけど、ホントに今日1回使って終わり? もったいなくない?


「さあ、料理もあります。みなさんおくつろぎください」


「試食タイム、ですかね。あれ? でも『ウルティムス』の人たちは食事するのかな」


 体ないし。

 ホムンクルスの素体で味とかわかるの?


「そこは問題ありません。彼らに合わせてエネルギー変換できるように調整してあります。もちろん食事はおいしく食べられるように、仮初めの肉体には味覚を持たせてありますから」


「さすがです……」


 抜かりないというか、エネルギー変換まで……。

 なんかもう、そのホムンクルスの体を量産したら、『ウルティムス』の人たちがここで生活していける未来が見える……あ、もしかして?


「察しが良いですね、アリシア=グリーン」


「え、あ、はい」


 普通に心を覗かないでください。


「ということはつまり……このお城は『ウルティムス』の人たちに提供する目的で創ったんですね?」


「彼らが望めばそうなります」


 んー、なるほど。

 国交樹立の後は、ここでの生活を体験してもらうってことかー。

 なかなか良さそう!


「彼らが望んだ場合、みなさんにはしばらくの間ここで彼らとともに過ごしてもらいたいのです」


「えっ、これってそういう流れですか⁉」


「はい。彼らが望めば、ですがね」


 ノーアさんが自信たっぷりに微笑む。


 なるほど、最初からそういうシナリオでしたか……。


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