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第71話 アリシア、恋バナをしないと出られない部屋に閉じ込められる

 ふぅ、夕食会も楽しかったねー。

 パルーボールの団体戦でお腹を空かせたからなのか、ウルティムスのみなさんもガツガツ栄養補給をしていたね。

 あ、ナタヌはちょっと食べ過ぎだよ? またお腹ポンポコリンになっちゃってるから……。


「それでは本日最後のおもてなしと参りましょうか」


 ノーアさんが立ち上がる。


「まだ『おもてなし』やるんですか? もうみんなお腹一杯ご飯を食べましたし、宴会もしましたし、そろそろダラダラして寝っ転がりたい時間じゃないですかねー?」


 貴族式のゆっくりな夕食&宴会でしたから、あと2時間もしたら日付が変わっちゃいますよ?


「ですから最後のおもてなしですよ」


 ノーアさんがウィンクする。

 うーん、最後ねぇ。


「何をするんですか?」


「就寝前にすることと言えば、1つしかありません」


 そうかなあ。

 洗顔、お肌の手入れ、歯磨き、女神様へのお祈り、それと……秘密の日課かな? ああっ、今日はラダリィがいない!

 でもやることはいっぱいあるから1つじゃないですけどー?


「そう、恋バナです」


「「恋バナ⁉」」


 スレッドリー、ナタヌ、そこでハモらないの。

 いや、その流れでわたしの顔を見ないで!


「ノーアさん、冗談は顔だけにしてください。わたし、洗顔してからミィちゃんにお祈りを捧げてきまーす」


 まったく。

 真顔で「恋バナです」だってさ。

 あれでボケているつもりなのかねー?


「アリシア=グリーン。どこへ行くつもりですか?」


「だから簡易祭壇を建てて、ミィちゃんにお祈りを捧げるんですってば」


 あとはお肌の手入れとかね。


「この部屋は、『恋バナをしないと出られない部屋です』」


「なん……ですって?」


「『恋バナをしないと出られない部屋です』」


「2回言わなくても大丈夫です。聞こえてはいたので……。意味がわからないっていう『なんですって?』です」


 ほら、『ウルティムス』のみなさんが、【恋バナ?】【恋バナって何かしら?】【恋のバナナかしら】ってなってるでしょ!


 でもちょっと待って。恋のバナナって何?


「こちらが私の開発した『恋のバナナ』です」


 そう言って、ノーアさんがバナナを差し出してくる。


 あるんかーい!

 マジで『恋のバナナ』って存在してたんですか⁉


「だけどこのバナナ、ショッキングピンク色だ……。びっくりするほどおいしくなさそう……」


 目がチカチカする。


「ちなみにこの『恋のバナナ』って食べるとどうなるんですか? あ、わかった! 最初に見た相手に惚れるとか?」


 どうせそんなありがちな設定なんでしょ?

 それでわたしに食べさせてどうにか恋のハプニングでも起こそう、そいうことなんでしょ?


「『恋のバナナ』を食べると……無性に恋バナがしたくなります」


「効果しょぼっ! 惚れ薬とかそういうんじゃなかったんですね」


 心配して損したわ。

 じゃあわたし、ミィちゃんにお祈りする時間なので失礼しますね。ノーアさんとスレッドリーはここで恋のバナナでも食べててください。


「アリシア=グリーンは惚れ薬がほしいのですか?」


「いや、別にいらないですけど……」


 その気になったら自分で創れますし。


「ほしいです!」「絶対ほしい!」


 またもやナタヌとスレッドリー。

 いけない! 2人とも目が血走っていらっしゃる……。

 あれは……「殺してでも奪い取る」覚悟の目……。


 いや、でも力づくで奪うのは無理だよ?

 ノーアさんは不老不死の『賢者の石』だからね?

 殺せもしないし、奪い取るのも無理だから。変なことは考えないようにね。


「それではこうしましょう」


 ノーアさんが部屋の中央に向かって歩いていく。


 あー、なんかすっごい面倒なことになりそうな予感……。


「みなさん、聞いてください。これから、本日最後のビッグイベント『恋バナ大会』を開催します」


 恋バナ大会……。

 やっぱりめちゃくちゃ面倒なこと言い出したわ……。

 こんな時だけわたしの勘って当たるんだよねー。


「これから順番に、1人1つ、恋バナを披露していただきます」


 あのー、『ウルティムス』の人たちだけでも200人はいらっしゃるんですけどー。

 それに加えてわたしたち4人。あ、それとウルティマさんとシャーレさんとスーちゃんもね。


「恋バナで、もっとも私をキュンキュンさせられた1名の方を大賞とし、特別に明日も使える100[アリシア]コインを贈呈します」


 100[アリシア]コイン!

 とんでもないレートで賞金が出てきたー!


「それと副賞として――こちらの惚れ薬を贈呈します」


 それはいらない子だなー。


「絶対優勝するぞ!」「絶対優勝します!」


 あー、スレッドリーとナタヌが本気になってしまった……。

 キミたちはコインよりもそっちが目当てなのね。

 でもわたしに飲ませようとしているなら無駄だよ?

 わたし、毒無効対策しているし。そういう状態異常は一切効かないからね?


 っていうのは言わないでおいたほうがおもしろいかな?


『ああ、おもしろい。恋バナ、大変けっこうじゃないか。これ以上の娯楽はないな』


 スーちゃん……。

 わたしたちの恋バナって女神様の娯楽程度の扱いだったの?


『程度とはなんだ。最高の娯楽だろう? 人の心の揺らぎは信仰と同じなんだよ』


 恋と信仰って同じなの?


『恋をして相手のことを考えると心が震えるだろう。女神のことを想うのと同じ気持ちだ』


 うーん?

 ソウナンデスネ。

 わたしにはよくわかりません……。


『アリシアも毒無効を解いて、惚れ薬でも飲んだらいいんじゃないか?』


 それで問題が起きたら責任取ってくれますか?

 それなら飲みます。


 おーい。

 無視するなー!

 女神様なのに、都合が悪くなったら聞こえないふりをするのはどうかと思いますよー!


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