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第70話 アリシア、パルーボールの団体競技を知る

「みなさま、お楽しみいただけましたでしょうか」


 ノーアさんが観客席に向かって一礼する。

 横に立つスレッドリーもそれに倣うように頭を下げている。


 わたしとナタヌは放心状態。

 まだ負けたことに対するショックが……。


 完全に勝ったと思ったのに、ずっと手のひらの上で転がされていたこの悔しさ。

 スポーツで負けるってこんな感じなんだ……。


【おもしろかったです!】


【肉体があるというのはすばらしいですわね】


【私もやってみたいです】


【うまく投げられるでしょうか】


【それは私の頭ですわ】


【たくさんぶつけましょう】


【#%$T$$!A`&@O$S~^U>!$?>*】


 観客のみなさんには、なかなか好評だったみたいね?

 まあ、途中から見られていることも忘れて、本気でやっていたもんね。マジの勝負だったけれど、エンタメとしては成功した、と……。


「希望者の方はこちらのコートに降りてきてください。私と殿下と、それにナタヌさんがコーチをいたします」


「は、はい! ナタヌ、教えます!」


 我に返ったナタヌが手を上げて返事をする。

 わたしも習うほうに並ぼうかなー。


 と、『ウルティムス』のみなさんが一斉にコートになだれ込んでくる。200人ほぼ全員……。みんなアクティブだなー。


「パルーボールには団体競技もありますから、少し練習したら試合形式でお楽しみいただきたいと思います」


 と、ノーアさん。


 へぇー。団体競技? やっぱりバレーボールみたいに6対6とか?


「100対100です」


「多っ! このコートに100人ずつ⁉」


 密集しすぎでは?

 絶対コートにボール落ちないでしょ。


「コートの広さは、2on2のコートの20倍のものを使用します」


 なるほど。

 それならまあ……。いやいや、コート20倍って! 広すぎるでしょ。サーブ届くの?


「団体戦の場合、コートの広さに加えてルールが少し変わります」


 ふむふむ。

 どんな感じだろう。


「まずはボールの大きさが、こちらの大玉に変わります」


「でかっ! えっ、でっか⁉」


 さっきの2対2の時には、人の頭くらいの大きさのボールだったのに、え、これ……何? ボールの直径がネットの高さを越えている大きさ? 2mか3mくらいある?


「中に空気が入ってふわふわと浮きますので、数人で持ち上げて叩くように投げるのが一般的です」


≪アリシアの前世の記憶を検索。ヒットしました。『大玉転がし』という競技に酷似しています≫


 あのー、もうそれって完全に違う競技じゃないですかね?

 シビアな読み合いとか、クイック攻撃とか、『セイクリッド・フォース』でボール撃ち抜いたりとか、この大玉だとそういう戦いはできないですよね?


【おもしろそうですわ】


【ふわふわです】


【えいえい!】


【なかなか前に進みません】


【誰か中に入って飛んだら良いのではないですか?】


【シャーレさんお願いします】


【わ、私ですか⁉】


【無茶を言ってはいけないでやんすよ】


【ニャ~⁉ 目が回る~!】


【*@^T!"A<_#$%T~=A%K*++!$U"%?~】


 もとのパルーボールよりもこっちのほうが楽しそう……。

 さすが団体競技というか、みんなでやるならお祭りっぽくなるのね。そうなると、さっきのシビアな感じはなんだったの……。


「あれはあれで楽しかったでしょう?」


「ま、まあ、白熱しましたね……」


 ノーアさんが相手だから本気で戦えたっていうのはあると思いますけど。


「初めてやったにしては相当筋が良かったぞ。さすがアリシアだ」


「そうです! アリシアさんはパルーボールの天才かもしれないですね!」


 ここぞとばかりに褒めてくるスレッドリーとナタヌ。

 さすがにお世辞が過ぎるよー。えへへ♡


「2人がこの競技に真剣に取り組んでいたっていうのがよくわかったよ。……かっこ良かったもんね?」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 俺はかっこいいっ!」


「違う違う違う! そういう意味じゃないからね⁉ 真剣な姿が良かったってだけだから!」


『おやおやおや? 義妹に春が来たのかな?』


 ちょっと!

 スーちゃんどこにいるの⁉

 見てたんならこっち来て助けて!


「わ、私はどうでしたか……? ダメでしたか……? 負けましたし、ダメですよね……」


 ナタヌ、泣かないでって。


「ナタヌももちろんかっこ良かったって! さっきの言葉はスレッドリーだけに言ったわけじゃないよ? かっこいいナタヌが味方ですっごい安心してプレイできたもん」


「ノーアさん、私やりました~! 私、アリシアさんに褒められましたよ~!」


「それは良かったですね。ナタヌさんには特別報奨として、10[アリシア]コインを差し上げましょう」


 いや、ナタヌはなんでノーアさんに褒められたことを報告しているのさ。それにノーアさんもなんでそんなにナタヌに甘いの⁉


「アリシア=グリーンの想い人であれば、私の弟子も同然です」


 私、まだノーアさんの弟子になった覚えはないですからね⁉

 ダメですよ⁉

 なし崩し的に『賢者の石』の探究に引きずり込もうとしないでくださいよ!


「それはそれ、これはこれです」


 またそれですかー?

 でも弟子じゃないですからね⁉


「アリシアさん! コインたくさんもらっちゃいました~。アリシアさんが10人です!」


「……良かったね」


 でも今日中に使わないと、そのコインは消えるからね?

 ホントあとで泣かないでよ?


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