≪3ポイント、スレッドリー&ノーアペア≫
審判のエヴァちゃんによるコール。
「アリシアさん……やられちゃいました……」
2度目となるナタヌの悲しそうな声を聞き、慌てて振り返る。
そこでわたしが見たものは――。
コートにめり込んで埋まっている3つのボールだった。
「どういうこと……? ボールが3つ? だから3ポイント?」
えっ、だってボールがコートに落ちたら1ポイントって……。
「アリシア=グリーン。単純な計算ですよ。ボールが1つにつき1ポイントです。ボールが3つなら?」
「……3つで3ポイント」
「よくできました」
いやいやいや、それはおかしいでしょ!
「だって、さっきまで1個のボールで戦っていたじゃない⁉」
急に3個に増えて「3ポイントです」って言われても!
「アリシアさん……パルーボールはそういうものなんです……」
ナタヌが悲しそうに首を振る。
そういうものってどういうものよ……。
「相手への直接攻撃以外は何でもありなんです。ボールを消し飛ばそうが、ボールを増やして攻撃しようが何でもありなんです」
そんな無茶苦茶な……。
「さて、カウントは5-2。私たちの勝ちで良いですか? それとも残り時間15秒ほどありますが、最後の攻撃をしますか?」
そう言ってノーアさんは余裕そう微笑みを浮かべた。
15秒!
まだだ!
最後の一撃に賭ける!
「ナタヌ、やるよ!」
「はい!」
≪カウント2-5。サーブ、アリシア&ナタヌペア≫
残り10秒。
わたしのサーブだ。
ボールを増やしている時間はない!
でも、ここで3ポイント以上を取らないといけない!
となるとここでやらなきゃいけないことは――。
「サーブ、行きます」
残り8秒。
とにかくまずは相手のコートに向かってサーブだ!
ローラーシューズ初号機改出力全開!
わたしはジャンピングサーブを選択する。
そう、なるべく派手に。なるべく早く相手のコートに。
そしてこれからの展開がノーアさんに読まれないように。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
10mほど飛び上がり、最高到達点から相手のコートの中央付近に向かってボールを投げおろす。
ぶっつけ本番で『創作』スキルを発動!
創り出したのは『幻惑の光』。
上空から照らすライトの光で、ボールが5つに分裂したように錯覚させる魔道具だ。これを使ってノーアさんの目を欺く!
『幻惑の光』発動!
ネットを越えた辺りで、ボールが5つに分裂――したように見える。
「ナタヌ!」
打ち合わせなし。
でもわたしの考えをわかってくれると信じて。
「『セイクリッド・フォース』」
ナタヌの凝縮された聖なる光が、中央のボールに向かって突き刺さる。
「させません」
ボールが消滅する寸でのところで、ノーアさんがネットの高さを越える特大のジャンプ。『セイクリッド・フォース』を素手で弾き飛ばして防ぐ。
そう来ると思った。
さっきの『ファイヤーボール』との押し合いで苦戦したのは想定外だったはず。今度はスキルではなく、確実に防ぐために直接守りに来ると思った。
「追加です! くらえ、『ライトサーベル・レーザー』!」
ノーアさんに向かって――ううん、直接攻撃を避けて、ほんの少しだけ軌道を外してライトサーベルのレーザーを撃ち込む。
さらに――。
「太陽拳ーーーーー!」
レーザーは攻撃にあらず。
陽の光、それにレーザーの光をプラスして何十倍もの光量を放ち、わたし以外の全員の視界を奪う。
こんなことでノーアさんの視界を奪えるなんて思っていない。
だけどね、ほんのちょっとでも気を引けたらそれで!
「追尾システム作動ヨシ」
すべてはわたしの狙い通り。
≪ゲームセット≫
太陽拳の光が収まった後に残った光景は――。
まさにわたしの思い描いた通りの結果だった。
勝った。
≪カウント5-2。勝者、スレッドリー&ノーアペア≫
「ええっ⁉ なんでよっ!」
この状況、どう見てもわたしの勝ちでしょう⁉
「殿下……お怪我はありませんか?」
「ぐぉ……。いったい何が……」
ノーアさんが、地面に倒れ込んで気絶していたスレッドリーを抱き起こす。
「ちょっとエヴァちゃん! 今のはわたしのポイントでしょ! まさか太陽拳で見えませんでした、とか寝ぼけたこと言わないよね⁉」
≪もちろん私には見えていましたよ≫
「だったらなんで! ほら、よく見て! わたし、ちゃんとボールでスレッドリーのことを倒したでしょ!」
≪はい、間違いなくアリシアの放ったボールが殿下に当たり、それがコートに転がりました≫
「それならわたしの10ポイントで逆転勝ちでしょ!」
≪口で言っても納得してもらえないでしょうから、ご自身でご確認ください。VTRスロー再生します≫
そう言ってエヴァちゃんは、空中に巨大スクリーンを展開する。
全員でVTR検証をしようってわけだ。
わたしは反則なんてしてない。
だからわたしの勝ちだよ!
「ほら、ノーアさんがわたしのレーザーに反応して消しにいったところ! ちょっと光が強くて見えづらいけど、ボールが角度を変えてスレッドリーのほうに……向かっているよね」
「向かっています!」
≪殿下の顔面に当たりました≫
「まさか顔面セーフとか、そんなオチじゃないよね⁉」
≪いいえ、もちろん顔面もアウトです≫
だったらこの攻撃は有効でしょ!
≪ボールが相手に当たり、地面に落下した瞬間にポイントが発生します≫
そこからVTRがスロー再生される。
「「あっ!」」
わたしとナタヌが同時に声を上げる。
まさか……。
「時間、切れ……?」
ボールが地面に接触する0.1秒前に、VTRの右下に示されたタイマーが0になる。
ポイントが入る前にゲームが終了し、タイムアップになっていたのだ。
≪残念ながら、アリシアの攻撃は有効とは認められませんでした≫
そんな……。
作戦は完璧だったのに……。
「アリシア=グリーン。良い攻撃でした」
「ノーアさん……」
「私が相手でなければ、アリシア=グリーンのポイントでしたね」
私が相手でなければ……?
「まさか……⁉」
エヴァちゃん、VTR、別角度で!
≪はい、再生します≫
「ああっ!」
ボールが角度を変えてスレッドリーに飛んでいった後、ノーアさんの右手が動いていた。
「まさか!」
「ほんのわずかですが、風を起こして減速処理を施させていただきました」
なんてこと……。
わたしの仕掛けも、陽動も、最後の攻撃も全部読まれていたってこと……。
つまり、どうあっても届かなかった、と。
「これが私、これが『賢者の石』です」
「ノーアさんは……底がしれない……」
わたしじゃ遠く及ばない。ぜんぜん勝てないじゃん……。