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第69話 アリシア、最後の作戦を実行する

≪3ポイント、スレッドリー&ノーアペア≫


 審判のエヴァちゃんによるコール。


「アリシアさん……やられちゃいました……」


 2度目となるナタヌの悲しそうな声を聞き、慌てて振り返る。


 そこでわたしが見たものは――。



 コートにめり込んで埋まっている3つのボールだった。


「どういうこと……? ボールが3つ? だから3ポイント?」


 えっ、だってボールがコートに落ちたら1ポイントって……。


「アリシア=グリーン。単純な計算ですよ。ボールが1つにつき1ポイントです。ボールが3つなら?」


「……3つで3ポイント」


「よくできました」


 いやいやいや、それはおかしいでしょ!


「だって、さっきまで1個のボールで戦っていたじゃない⁉」


 急に3個に増えて「3ポイントです」って言われても!


「アリシアさん……パルーボールはそういうものなんです……」


 ナタヌが悲しそうに首を振る。

 そういうものってどういうものよ……。


「相手への直接攻撃以外は何でもありなんです。ボールを消し飛ばそうが、ボールを増やして攻撃しようが何でもありなんです」


 そんな無茶苦茶な……。


「さて、カウントは5-2。私たちの勝ちで良いですか? それとも残り時間15秒ほどありますが、最後の攻撃をしますか?」


 そう言ってノーアさんは余裕そう微笑みを浮かべた。


 15秒!

 まだだ!

 最後の一撃に賭ける!


「ナタヌ、やるよ!」


「はい!」


≪カウント2-5。サーブ、アリシア&ナタヌペア≫


 残り10秒。

 わたしのサーブだ。


 ボールを増やしている時間はない!

 でも、ここで3ポイント以上を取らないといけない!


 となるとここでやらなきゃいけないことは――。


「サーブ、行きます」


 残り8秒。

 とにかくまずは相手のコートに向かってサーブだ!


 ローラーシューズ初号機改出力全開!


 わたしはジャンピングサーブを選択する。

 そう、なるべく派手に。なるべく早く相手のコートに。

 そしてこれからの展開がノーアさんに読まれないように。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 10mほど飛び上がり、最高到達点から相手のコートの中央付近に向かってボールを投げおろす。


 ぶっつけ本番で『創作』スキルを発動!


 創り出したのは『幻惑の光』。

 上空から照らすライトの光で、ボールが5つに分裂したように錯覚させる魔道具だ。これを使ってノーアさんの目を欺く!


『幻惑の光』発動!


 ネットを越えた辺りで、ボールが5つに分裂――したように見える。


「ナタヌ!」


 打ち合わせなし。

 でもわたしの考えをわかってくれると信じて。


「『セイクリッド・フォース』」


 ナタヌの凝縮された聖なる光が、中央のボールに向かって突き刺さる。


「させません」


 ボールが消滅する寸でのところで、ノーアさんがネットの高さを越える特大のジャンプ。『セイクリッド・フォース』を素手で弾き飛ばして防ぐ。


 そう来ると思った。


 さっきの『ファイヤーボール』との押し合いで苦戦したのは想定外だったはず。今度はスキルではなく、確実に防ぐために直接守りに来ると思った。


「追加です! くらえ、『ライトサーベル・レーザー』!」


 ノーアさんに向かって――ううん、直接攻撃を避けて、ほんの少しだけ軌道を外してライトサーベルのレーザーを撃ち込む。


 さらに――。


「太陽拳ーーーーー!」


 レーザーは攻撃にあらず。

 陽の光、それにレーザーの光をプラスして何十倍もの光量を放ち、わたし以外の全員の視界を奪う。


 こんなことでノーアさんの視界を奪えるなんて思っていない。

 だけどね、ほんのちょっとでも気を引けたらそれで!


「追尾システム作動ヨシ」 


 すべてはわたしの狙い通り。



≪ゲームセット≫


 太陽拳の光が収まった後に残った光景は――。



 まさにわたしの思い描いた通りの結果だった。



 勝った。



≪カウント5-2。勝者、スレッドリー&ノーアペア≫


「ええっ⁉ なんでよっ!」


 この状況、どう見てもわたしの勝ちでしょう⁉


「殿下……お怪我はありませんか?」


「ぐぉ……。いったい何が……」


 ノーアさんが、地面に倒れ込んで気絶していたスレッドリーを抱き起こす。


「ちょっとエヴァちゃん! 今のはわたしのポイントでしょ! まさか太陽拳で見えませんでした、とか寝ぼけたこと言わないよね⁉」


≪もちろん私には見えていましたよ≫


「だったらなんで! ほら、よく見て! わたし、ちゃんとボールでスレッドリーのことを倒したでしょ!」


≪はい、間違いなくアリシアの放ったボールが殿下に当たり、それがコートに転がりました≫


「それならわたしの10ポイントで逆転勝ちでしょ!」


≪口で言っても納得してもらえないでしょうから、ご自身でご確認ください。VTRスロー再生します≫


 そう言ってエヴァちゃんは、空中に巨大スクリーンを展開する。

 全員でVTR検証をしようってわけだ。


 わたしは反則なんてしてない。

 だからわたしの勝ちだよ!


「ほら、ノーアさんがわたしのレーザーに反応して消しにいったところ! ちょっと光が強くて見えづらいけど、ボールが角度を変えてスレッドリーのほうに……向かっているよね」


「向かっています!」


≪殿下の顔面に当たりました≫


「まさか顔面セーフとか、そんなオチじゃないよね⁉」


≪いいえ、もちろん顔面もアウトです≫


 だったらこの攻撃は有効でしょ!


≪ボールが相手に当たり、地面に落下した瞬間にポイントが発生します≫


 そこからVTRがスロー再生される。


「「あっ!」」


 わたしとナタヌが同時に声を上げる。

 まさか……。


「時間、切れ……?」


 ボールが地面に接触する0.1秒前に、VTRの右下に示されたタイマーが0になる。

 ポイントが入る前にゲームが終了し、タイムアップになっていたのだ。


≪残念ながら、アリシアの攻撃は有効とは認められませんでした≫


 そんな……。

 作戦は完璧だったのに……。


「アリシア=グリーン。良い攻撃でした」


「ノーアさん……」


「私が相手でなければ、アリシア=グリーンのポイントでしたね」


 私が相手でなければ……?


「まさか……⁉」


 エヴァちゃん、VTR、別角度で!


≪はい、再生します≫


「ああっ!」


 ボールが角度を変えてスレッドリーに飛んでいった後、ノーアさんの右手が動いていた。


「まさか!」


「ほんのわずかですが、風を起こして減速処理を施させていただきました」


 なんてこと……。

 わたしの仕掛けも、陽動も、最後の攻撃も全部読まれていたってこと……。


 つまり、どうあっても届かなかった、と。


「これが私、これが『賢者の石』です」


「ノーアさんは……底がしれない……」


 わたしじゃ遠く及ばない。ぜんぜん勝てないじゃん……。


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