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第68話 アリシア、勝ちを確信する

「『ファイヤーボール』」


 ノーアさんはわたしに向かってにっこりと笑うと、巨大なそれをこちらのコートに向かって投げてきた。


「ちょちょちょっ! それはさすがに反則ぅ!」


 ファイヤーだけどその大きさはもうボールじゃないでしょ!

 炎の壁だよ!


「ナタヌ!」


 これ、どうするの⁉

 炎の壁を投げつけられた時のレシーブ側のセオリーって何⁉


 振り返るとナタヌは胸の前で手を組み、祈りを捧げるようなポーズを取っていた。


「『魔法障壁』」


 ナタヌの防御魔法スキルが発動する。

 コートの半面を覆うほど巨大なプロテクションだ。

 ノーアさんの『ファイヤーボール』が届く前に、ボールも含めてすっぽりとこちらのコート全体、そして観客席も包み込んでいた。


「おお、さすが……」


 これぞプリースト。

 攻撃魔法スキルばっかりじゃなくて、ちゃんと本職の防御魔法スキルも鍛えていたんだね。

 良かったよ……。


 なーんて安心したのもつかの間――。


 ノーアさんの巨大な魔法スキル『ファイヤーボール』とナタヌの展開した防御スキル『魔法障壁』がぶつかり合って激しい削り合いが始まる。


 お互いの魔法スキルは、ぶつかり合って一瞬で消滅する、なんてことはなく、数秒、いや10数秒間にわたって激しくせめぎ合いを続けた。



 結果。

 ボールは無事、ナタヌの手元にすっぽりとおさまっていた。


 わたしたちは燃やされることはなかった。ナタヌの『魔法障壁』が巨大な『ファイヤーボール』からわたしたち、そして『ウルティムス』のみなさんの身を守ったのだった。


「アリシアさん! やりました!」


「すごい! まさかあのノーアさんに競り勝つなんて!」


 相手はパルーボール初代王者ってだけじゃなくて、伝説の『賢者の石』だよ?

 普通にもう伝説級のプリーストを名乗れるじゃないのさ!


「アリシアさん、喜ぶのはまだ早いです。ここでポイントを取って、勝ちを決めます!」


「お、そうだったね。まだカウントは2-2だ」


 残り時間もわずか。

 自分のコート内に25秒を越えてボールをとどめてはいけないルールもある。

 となれば、急いで相手のコートに投げ入れて『セイクリッド・フォース』でボールを消し炭に変えたら、わたしたちの勝ちだ!


 どう? 悔しい?


 と、スレッドリーとノーアさんの様子を伺ってみる。

 スレッドリーはサーブを打った位置で、ノーアさんは『ファイヤーボール』を打った位置で、身動きが取れないでいるみたいだった。


 全力を出し尽くしたかな? それとも、ナタヌの『魔法障壁』の強度に驚いて腰を抜かしたとか? まあ、今からどこにポジションを取ったとしても、ナタヌの『セイクリッド・フォース』があれば余裕なんだけどねー♪


「ナタヌ、いきます!」


 ナタヌが上空へボールを投げ上げる。

 そしてすぐに『セイクリッド・フォース』の発動体制へ。


 完璧なコンボだ!


 さあ、どうする?

 ナタヌみたいに『魔法障壁』で守る?

 でも、『セイクリッド・フォース』は『ファイヤーボール』と違って光を凝縮した熱波の攻撃と、範囲物理衝撃の両方で攻撃するからね。簡単には守れないでしょ?


「『セイクリッド・フォース』」


 ナタヌの手から一筋の光が放たれる。


 よし、勝ったな。


 と、勝敗の行方、ボールの行方を目で追っていた時だった。


 消えた……?


 ナタヌの放った『セイクリッド・フォース』が当たるよりも前に、ボールが消失した。


「え、どういうこと……?」


「アリシアさん……やられました……」


 ナタヌが悔しそうな声を上げる。

 そして指さす方向を見ると――。


「次はこちらの攻撃です」


 ボールは、なぜかノーアさんの手の中に納まっていた。

 標的を失い、虚空へと消えていく『セイクリッド・フォース』。


「えっ、なんで⁉」


「アリシア=グリーン。私がいつまでも化石のような『賢者の石』だと思いましたか?」


「えっと、それはどういう……」


「情報とは生き物です。常にアップデートが必要なのですよ。攻撃魔法スキルを放たれたらどうすればいいのか、とね」


 それって……最新のパルーボールの戦術も学んでいるぞって……そういうこと?


「ご名答です。それでは改めて最後の攻撃を受け取ってください」


 ノーアさんがそう言うと、その手の中にあったボールが再び消えた。


≪3ポイント、スレッドリー&ノーアペア≫


 審判のエヴァちゃんによるコール。


「アリシアさん……やられちゃいました……」


 2度目となるナタヌの悲しそうな声を聞き、慌てて振り返る。


 そこでわたしが見たものは――。


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