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第65話 アリシア、初めてのサーブをする

 ノーアさんの伝説のサーブ『サンダーボルト』はすごかった……。


 頭上高く上がったボールがフラフラした後に、まるで意思を持っているかのように、急激にコートに向かって落ちてくる。

 コートに向かって落ちてきてから対応するのはかなり難しい気がするよ。かといって動きは予測できないし……。


「んー、正直あのサーブ、捕れる気がしないんだけど……」


「そうですね。『サンダーボルト』はとても厄介な技です。でも、私が本気を出せば余裕です!」


 ナタヌは相変わらず余裕の表情を見せている。ものすごい自信だ……。

 でも本気を出したとして、どうやって止めるの?


「ですがまだサーブが全員に回っていないので様子見を続けます! 序盤から一方的な展開になってしまったら、『ウルティムス』国のみなさんもつまらないでしょうし!」


 さらにさらにものすごい自信だ……。

 観客の盛り上がりまで気にしているとは……。ナタヌはホントに孤児院の遊びでやっていただけなんだよね? プロのプレイヤーとかじゃないんだよね?


≪カウント1-1。サーブ、アリシア&ナタヌペア≫


 審判のエヴァちゃんのコールが掛かる。

 わたしたちのサーブ……あ、そっか! 次はわたしのサーブの番だ!


「ナタヌ、サーブってどうやってすればいいの? わたし、ジャンプして投げるのも『サンダーボルト』もできないけど……」


 この中でわたし1人だけが完全に素人なんだよね……。


「アリシアさんは相手のコートにボールを投げるだけで大丈夫です!」


「投げるだけ? それだと向こうの攻撃チャンスになっちゃうんじゃない?」


 なんかこう、すっごいサーブの仕方とか教えてくれればがんばるよ?


「今回こちらは、向こうの攻撃をレシーブする作戦でいきましょう! 相手の実力を測るのにちょうど良いです!」


 ポジティブだなー。

 まあ、ナタヌがそう言うんだったらそれでがんばろう。


「1つ注文をつけるとするなら、なるべくコートの奥のほうに投げられますか? 左右は意識しなくても大丈夫です! できればネット際よりも後方を狙ってもらえると、相手の連係プレイが引き出せると思います!」


「後方ね。ギリギリは難しいかもしれないけど、やってみる!」


「お願いします! それと、サーブが終わったらALCFNTCBで!」


 ALCF=アリシアセンターフロント。NTCB=ナタヌセンターバック。

 サーブが終わったらダッシュで前へ。つまり、位置関係は縦並びね。


「了解!」


 サーブのポジションに入り、相手の状況を観察してみる。

 ノーアさんは左後方、スレッドリーは右前方に位置を取っていた。


 ということは、2人のどちらからも遠い位置ってことで……狙うは右奥かな。


 サーブいっくよー!


 足場ヨシ。

 ステップ脚ヨシ。

 肘の角度調整ヨシ。

 手の返し角度のシミュレーションヨシ。

 初速計算ヨシ。

 風向き計算ヨシ。

 念のため追尾システム作動ヨシ。


 狙うはコート右隅ライン上だ!


 いけ。


「アリシアさん、ナイスサーブです! ALCFNTCB!」


「了解!」


 サーブと同時にセンターフロントの位置へ走る。

 ボールの軌道を見ながらね。


 良い。

 球速はそこまで出ていないけれど、計算通り右隅ライン上に向かってボールが飛んでいく。


「殿下、スイッチ」


「おう!」


 ノーアさんの掛け声で、 スレッドリーが左のネット際へ斜めに走る。

 と同時に、ノーアさんはボールに向かって猛然とダッシュ。


 間に合うか⁉


「殿下、ソロクイックアタックA!」


「おう!」


 ボールがコートに落ちる寸前、ノーアさんがダイブ。ボールをキャッチせずに、左手首の返しだけで弾き上げる。


「任せろ!」


 弾いたボールがスレッドリーの背中側から頭上へ飛んでいく。


「ALQB!」


 Q⁉ 突然知らないやつー!

 どうしたら良いの⁉


「アリシアさん! クイックストレート警戒! ジャンプして両手でブロックです!」


「えっとえっと!」


 Q=クイック攻撃!

 B=ブロックってことは、バレーボールのあれかな⁉


 膝を曲げて一瞬溜めを作ってから思いっきりジャンプ!

 スレッドリーも同時にジャンプしてくる。ネットを挟んで30cmくらいの距離で顔を突き合わせる格好だ。


 一瞬目が合う。


 ふっ、わたしのほうがジャンプの到達点が高い!

 ブロックできるっ!


 と、スレッドリーがわたしから目をそらし、急に体をひねり出す。

 これは! ストレートを諦めてクロスへと切り替えようとしている⁉


 なんの!

 こっちだって!


 わたしも空中で体をひねって姿勢を変える。右手を力いっぱい伸ばしてクロス方向のブロックを試みる。


 くぅ、届かない!

 中指の爪だけほんの少し触れられたけれど、ボールはわたしの手をすり抜けて、浅い角度の右前方へ。


「アリシアさん! ナイスです! ALS!」


 アリシアステイ!


 ナタヌはスレッドリーのクロス攻撃を読んでいたのか、すでに右前方に詰めている。そして難なくキャッチ。


「SANTLF!」


 SANTLF=ソロアタックナタヌレフトフロント!


 レフトフロント⁉

 それってスレッドリーがいる位置だよ⁉


 そっち狙うの⁉


「ここで殿下を落とします!」


 体をひねってジャンプをし、着地した直後のスレッドリー。

 ナタヌのアタックに反応が一瞬遅れる。


「やったか⁉」


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