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第64話 アリシア、伝説のサーブを目撃する

「アリシアさん! FBはフォーメーションBです!」


 F=フォーメーションってこと⁉

 いやいや、そもそもフォーメーションのこと聞いてないって!


「チェンジ! SANTLM!」


 だから毎回知らないやつ出てくるのやめて!


「ソロアタックいきます!」


「お、オッケ!」


 ソロアタックを宣言したナタヌが、ボールをキャッチした左後方から前へと走り出す。

 S=ソロ、A=アタック⁉

 つまり、ソロアタックナタヌレフトミドルだ!

 うぅ……パルーボール、めっちゃく難しいよ……。


 それで、わたしはどこに立っていれば……?


 と、ナタヌに指示を仰ごうと横を見ると――。


「ALSで! アリシアさんはそこでステイです! 最初はスキルを使わずに軽く実力を測ります!」


「お、オッケ!」


 ALS=アリシアステイ。なるほど!

 んん? スキルを使わずに? パルーボール用のスキルなんてあるんだ? ナタヌの『構造把握』した時にそんなスキル見たことあったっけ……。まさかナタヌもスキル外スキルの持ち主?


 ナタヌが左足で踏み切ってジャンプする。

 さっきのスレッドリーの半分の高さも飛んでいないけれど……ちらりと見える脇腹がまぶしい! そして重力に逆らってバウンドする胸……なるほどけしからん! パルーボール最高!


「……ん、はっ!」


 ナタヌが投げたボールにはスピンがかかっていたのか、ネット際で急激な変化を見せ、コートに向かって直角に落ちる。

 ナタヌが狙ったのは左手前のネット際だった。


 さっきアタックを終えてからそのまま前方で構えていたスレッドリーがそのボールに反応する。


「なんの!」


 頭からダイブ。

 体をひねりながら右手を伸ばし、ボールに……触れられない。ボールはそのままコートへと突き刺さり、バウンドしながら転がっていった。


≪1ポイント、アリシア&ナタヌペア≫


「アリシアさん、やりました!」


 ナタヌが駆け寄ってきて右手を上げる。

 わたしもそれに応えてハイタッチ!


「ナイス、ナタヌ!」


 脇腹のチラリと暴力的に揺れる胸もナイス♡

 わたしなら芸術点で10ポイントは出しちゃうね!


「すまない。初歩的な技に引っ掛かってしまった……」


「殿下、問題ありません。ナタヌさんが上手だった。それだけのことです。切り替えていきましょう」


 あっちのスレッドリーとノーアさんは若干悔しそう。

 でもいきなりの連携技もすごかったよ。ナタヌが1人でそれを止めて1人でドロップボールを決めただけだから。ねぇ、もしかしてナタヌって全国優勝メンバーよりも強いってことなんじゃ……。


≪カウント0-1。サーブ、スレッドリー&ノーアペア≫


「あれ? ルール通りだと、ポイントを取ったわたしたちのサーブじゃないっけ?」


 エヴァちゃん、審判なのに間違ってるよー。


≪今回はデモンストレーションマッチですので、一部ルール変更があります。ポイントを取られたほうがサーブを行い、ワンサイドゲームにならないように配慮しています≫


「ふーん、そうなんだ? 了解しましたー」


 まあよくわからないけれど、おもしろくするためのルールなら良いんじゃない?


「アリシアさん、サーブがきます! ALRMNTLM!」


 ちょっと、審判とお話している時にもゲームって進むの⁉

 えーとえーと、ALRM=アリシアライトミドルで、NTLM=ナタヌレフトミドルだから、並行に立つ! OK!


「ノーアさんのサーブです! 初代王者の実力を測ります!」


 ノーアさんはコートよりもずっと後方に立っていた。

 頭上に掲げるようにして左手でボールを持っている。


「あんなに遠くから?」


 助走をつけてジャンプして投げてくるのかな?


「文献で読んだことがあります! ノーアさんは『サンダーボルト』というサーブを得意にしていたと!」


「『サンダーボルト』? 落雷?」


 文献に載っているレベルの大技ってこと?


「はい! 高く投げ上げたボールを狙った位置に、落雷のように急激に落とすことができるらしいです!」


「なんかすごい……」


 つまりサーブで確実に点を重ねてくるタイプのプレイヤーってことなのね。


「きます! ALS! NTS!」


 ALS=アリシアステイ!

 そのまま待ちます!


 ノーアさんはジャンプすることなく、左手で掲げたボールを右手ではじいた。

 まるでバレーボールのサーブのように。


 弾かれたボールは、わたしたちのコートのほうへと飛んでくる。

 そこまでスピードは速くない。


 と、ネットを越えるか越えないかの辺りで、まるで風にあおられたかのようにボールの軌道が変化。直角に上昇していく。


「えっ、何⁉」


「『サンダーボルト』きます!」


 うっそ。こんなに変化するの⁉


 頭上を見上げてボールの軌道を捉えようとするも、日差しと重なってボールがすごく見えにくい……。

 これがノーアさんの狙い……。


「ALRB!」


 ライトバック!


 わたしの側だ!

 狙われた!


 慌てて反転。

 ダッシュで左隅へとダイブ!


「くぅ」


 ぜんぜん届かない!


 伸ばした右手の遥か先にボールは着弾した。


≪1ポイント、スレッドリー&ノーアペア≫


「ごめん……」


 ホントに『サンダーボルト』だった……。急に落ちてきてぜんぜん軌道が読めないし、キャッチできそうになかったよ……。


「アリシアさん、ドンマイです! 伝説のサーブ『サンダーボルト』を肉眼で見ることができて良かったです!」


 ナタヌがわたしの手を掴んで起き上がらせてくれる。


「んー、正直あのサーブ、捕れる気がしないんだけど……」


 軌道を予測するのは難しいし、いざ落ちてきてから対応するにはコートが広すぎるし……。


「そうですね。とても厄介です。でも、私が本気を出せば余裕です!」


 ものすごい自信だ……。

 でも本気を出したとして、どうやって止めるの?


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