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第63話 アリシア、ALLFって何⁉

≪まずはコートに向かって礼≫


 礼。


≪続けてコートに入り、ネットを挟んでお互いのチームに対して礼≫


 ノーアさんとスレッドリーに対して礼。


≪観客の皆さんに向かって礼≫


 ウルティマさん、シャーレさん、そして『ウルティムス』のみなさんに向かって礼。


≪それではパルーボールのデモンストレーションマッチを始めたいと思います≫


 なんかとっても厳かな雰囲気ね……。

 もっとこう、お祭りみたいに盛り上がったりはしないのかな。


 競技用ということで、肩出し&ショートパンツのユニフォームを着せられて……動きやすいけどちょっと恥ずかしい。でもナタヌがピチピチのユニフォームを着ているのを見られて最高♡


 あ、今回審判はエヴァちゃん(エヴァシリーズNo.10501)にお願いしました。さっきノーアさんにもらった公式ルールブックをインストール済みだから安心!

 いや、わたしそのルールブック読んでないんだけど平気なの?


≪平気です。すべてナタヌさんにお任せすれば負けることはないでしょう≫


 そうなの?

 さっき本気を出したら1ポイントも取られたことないって言ってたけど……。


≪おそらく事実です≫


 全国優勝したことがある2人にそんなことできるのかな。


「アリシアさん、そんなに緊張しないでください。これは遊びですからね!」


 ナタヌがめっちゃ良い笑顔を……。

 かつてないほど自信に満ち溢れた顔だわ。

 え、なにこの笑顔……お持ち帰りしていいの?


≪ダメです≫


 ダメかー。


≪サーブ、アリシア&ナタヌペア≫


「おお、こっちのサーブからなんだ? サーブ? それってどうやるの?」


 エヴァちゃん(エヴァシリーズNo.10501)から、わたしたちのコートへ、わたしの顔くらいあるボールが投げ入れられる。

 おお、これがパルーボールで使うボールかー。思っていたよりもずっしり重たい……。バレーボールでサーブっていうとたしか……なんかジャンプしてボールをパンチみたいな……。


「私がサーブしますから、見ていてください!」


「お願い!」


 経験者がいると助かるわ。

 って、ノーアさんとスレッドリーはいったい何を?


「あの2人、コートの外に立ってるけど、もう試合放棄かな?」


 ナタヌが強すぎて降参とか?


「いいえ。あれは古式ゆかしいバトルスタイルです。レシーブした後にすぐに攻撃の動作に移るために最適とされていた時代があります」


「へ、へぇー……。古式ゆかしいってことは、今は違うんだ?」


「はい。現代では1人はネットの前に張り付いて、ネット手前を狙った短いサーブに備えるのが基本とされています」


 なんか言っていることがぜんぜんわからない……。


 エヴァちゃん(エヴァシリーズNo.10501)の試合を開始するホイッスルが鳴る。


「行きます! ALLF! NTRB! サーブ!」


「ちょちょちょ! ストップストップ! 何その掛け声⁉」


 いきなり知らない呪文唱えるのやめて⁉


「審判! タイムをお願いします!」


≪タイム60秒。認めます≫


 タイム……。

 なんかごめん……。


「アリシアさん、さっきのはポジション確認です!」


「ポジション確認……?」


「ALLFはアリシアさんは左の前にポジションを取ってくださいという意味です!」


 えーえるえるえふ……。

 AL、LF?


「あ、もしかして……AL=アリシア、LF=レフトフロント?」


「そうです!」


「ということは、NTRBは……NT=ナタヌ、RB=ライトバック、かな?」


「そうです! 基本サーブ側は対角線にポジションを取って相手のアタックに備えます!」


「な、なるほど……」


 めっちゃシステマチック……。

 これ、ホントに孤児院で子どもたちがやる遊びなの?


≪時間です。試合再開します≫


「アリシアさん、行きますよ! ALCF! NTRB! サーブ!」


 CF⁉

 さっきと違う! 新しいのじゃん!

 はっ、センターフロントかな⁉


 確認のために後ろを振り返ると、ナタヌが高々とジャンプし、オーバースローでボールを投げるところだった。

 弾くんじゃなくて投げる。

 まあそういうふうになるか。


 弓形に投げ上げられたボールが、ノーアさんとスレッドリーのコートのちょうど真ん中くらいの位置に落ちていく。


「まずは相手の戦力を確かめるために軽めに流しますね。ポイントを取られても心配しないでください!」


 最初から本気は出さないんだ。

 なるほど。


「殿下。フォーメーションA」


「おう、任せろ!」


 フォーメーションA⁉

 また知らない単語が!


 ノーアさんがボールの落下地点に入る。

 だけど、ボールをキャッチに行く様子もなく、こちらを向いたまま片膝をついてしゃがみ込んだ。

 少し遅れてスレッドリーがノーアさんに向かって走り寄っていき――。


 背中を踏み台にして、飛んだ⁉


「えっ、何⁉」


「アリシアさん、レシーブ来ます! 構えて!」


 構えるって何⁉


 ネットよりもはるかに高い位置まで飛び上がったスレッドリーは、空中でボールをキャッチ。

 そのまま空中で背中をエビ反りにして溜めを作ると、わたしたちのコートに向かって力いっぱいボールを投げ込んでくる。


「BANTLB! ALRF!」


 ちょ、ナタヌ今のはなんて⁉


「アリシアさん、RFです! 連携いきます!」


 ライトフロント!

 連携⁉


 振り返ると、ナタヌがコートの左奥の隅っこでボールをがっちりキャッチしている。

 なるほど、NTLB!


「FB!」


 フロントバック⁉ どっち⁉

 知らない単語やめてって!


「アリシアさん、フォーメーションBです!」


 F=フォーメーションってこと⁉

 いやいや、そもそもフォーメーションの内容を聞いてないって!


「チェンジ! SANTLM!」


 もうっ! 誰か助けてっ!


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