目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第62話 アリシア、伝統的なボール競技の説明を受ける

 パストルラン王国の伝統的なボールを使った遊び。


 前世の記憶に一番近いもので言うと……バレーボール?


 バレーボール?

 バレーボールって何?

 ……排球ね! うっすらアニメの……記憶の断片が残っているかも。


「手でボールをはじくやつですね!」


「はじく? アリシアさん、パルーボールは、手ではじいたりしませんよ。ジャンプして相手のコートに投げるんです」


 パルーボール?

 ああ、この遊びの名前かな。

 バレーボールに若干似ている……。でもボールを投げるの? バレーボールとはなんかちょっと違うルールみたい?


「そうなんだ? わたしはたぶん知らない遊びみたいだから、もうちょっと詳しく説明してくれない? ナタヌ詳しそうだし」


「はい! ボール1つで遊べるので、孤児院でも人気があった遊びなんですよ。私がいるチームは無敵ですし!」


 やけに自信満々なナタヌ。


「そうなんだ? ボール1つ? このネットは……わりと高価そうだけど、孤児院では使っていなかったんだ?」


「ネットを使うのは本格的な競技の時だけですね。正式なルールだと、相手のコートにボールを投げる時、このネットの高さを超えないとダメなんです。でも子どもたちは背も低いですし、ネットはなしでやっていました!」


 まあそうか。

 ピンと張られたネットの高さはたぶん2m以上あるもんね。

 こんな高さまで小っちゃい子が投げられるとも思えないし。


「それでー、パルーボールってどんな感じなの? ネットを超えて相手のコートに投げるのはわかったんだけど、どうやって遊ぶのかな?」


「それはですね~。まず最初に――」


 ナタヌの説明を静かに聴く。


 わかってきたのは、バレーボールとはぜんぜん違う競技だってことかな。


 15分ハーフのトータル30分間でポイントを競うゲームだ。

 基本的なルールは至ってシンプル。

 相手のコートにボールを落としたら1ポイント。

 相手チームのプレイヤーにボールをあてて、そのボールが地面に落ちたら10ポイント。そのプレイヤーはコートから出て、その後ゲームには参加できなくなる。


「つまり、相手のコートに投げ入れてポイントをちまちま稼ぐか、相手を倒して一気に稼ぐかって感じのゲームなんだね」


「そうです! さすがアリシアさん、理解が速いです!」


 おお、やった! だいたい理解があっていて良かった!


「相手に当てたほうがポイント高いし良さそうに思うけど、実際のところはどうなの?」


 1ポイントと10ポイントで、10倍も差がついているわけだから、相手のプレイヤーを倒すほうが10倍難易度が高いってことなんだよね。たぶん。


「そうですね。もちろん相手を狙うのが手っ取り早いんですけど、相手が避けてコート外にボールが出てしまうと、自動的に相手チームの攻撃になってしまいますから、注意が必要です」


「自動的に相手チームの攻撃になる、か。慎重にならないといけないね。コート内にボールを落とせた場合はどうなるの? 自分のボールになる? 相手のボールになる?」


 今の話を総合すると、自分のボールになって連続攻撃が可能なのかな?


「相手のコート内にボールを落せた場合、1ポイントをもらえるだけではなくて、次の攻撃も自分たちから始めることができます」


「連続攻撃可能かー。でもそうなると最初にポイントを取ったほうが有利にならない? 1ポイント取ったら、あとは投げずに30分過ぎるのを待てばいいし?」


「それはできません。自分のコート内に25秒を超えてボールがとどまり続けた場合、自動的に相手に3ポイントが与えられて、相手ボールからのスタートに変わってしまいます!」


 おー、3ポイント。

 時間稼ぎ禁止ルールもあるんだ。

 遊びって言うわりには、ちゃんとしてるなー。


「基本的なルールはこんなところです!」


「ありがとー。なんとなくちょっとやってみたいかな。頭では理解できていても、実際にやったら疑問点も出てくるだろうし」


「そうしましょう! 練習なので2対2のダブルスマッチでいきましょうか! 私とアリシアさん、殿下とノーアさんのペアで!」


「はーい。ノーアさんとスレッドリーもそれで良い?」


「もちろんです。楽しくなってきましたね」


 ノーアさんがノリノリだ……。

 このパルーボールって遊びがずいぶん好きなんですね。


「スレッドリーは平気? パル―ボールのやり方、知ってる?」


 ずっと黙っているけど。


「ああ、俺はなんでもいいぞ。アリシアは初めてなんだろう? 手加減はしてやるから安心しろ」


 おや。ずいぶん余裕そうな発言ですね。

 パルーボールの経験者なのかな?


「殿下は公式の大会でシングルスとダブルスの両方で全国優勝の経験がありましたよね。私、実は知っているんですよ!」


「公式の大会⁉ そんなのもあるの⁉」


 軽い遊びじゃないじゃないのさ。

 普通にスポーツだわ、これ。


「あれは子どもの時の話だ。9歳以下の部門だったし、エントリー数もそこまで多くなかった」


「いや……それでも優勝はすごいと思うけど……」


「それを言うなら、アノ大臣はシニア部門の初代優勝者だぞ」


 ノーアさん、マジですか……。

 だからそんなにやりたがっていたんですか……。ちょっと卑怯じゃない?


「ええ。私が作った競技ですから、当然のことではありますが」


「ノーアさんオリジナルのスポーツだった……」


 それは優勝するわ。

 それに、パルーボールがなんとなく前世のバレーボールに似ているのも納得。

 転生者のノーアさんがバレーボールを参考にしたってだけだもんね。


「じゃあ何? ノーアさんもスレッドリーも優勝経験がある……ちょっとペア組変えない? わたしたち不利過ぎるよ」


「アリシアさん、大丈夫ですよ。私、本気を出した時、パルーボールで相手に1ポイントも取られたことないですから!」


 1ポイントも……?

 そんなこと可能なの⁉

 だって相手は全国優勝ペアだよ⁉


「私を信じてください! アノ大臣が優勝なさった時から、競技は進化しているんです。最新のバトルスタイルを身につけている私の敵ではありません!」


 ば、バトルスタイル⁉

 こんなに自信に満ち溢れているナタヌを初めてみたかも……。

 信じてみよう!


「OK! そこまで言うならこのペアのままでやってみよう!」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?