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第59話 アリシア、温泉の秘密を知る

「さて、みなさん。続いてご紹介するのは源泉かけ流しの温泉施設です」


 嗜好品の取引が落ち着いた辺りで、ノーアさんが『ウルティムス』のみなさんを引き連れてお城ツアーを始めていた。


「こちらはあの有名な『アリシア温泉』から直接温泉水を引いています」


「えっ? あそこから温泉を? いや……最近オープンしたばかりだし、別に有名ってわけでは……」


 とりあえず潰れることがないくらいには人が来てくれているらしいってことくらいしか、エヴァちゃんからは聞いていないけどね。基本エヴァシリーズにお任せしっぱなしだし。


「今『ラミスフィア』周辺ではそれはそれは赤丸急上昇中の施設だそうです。アスレチックパーク、温泉ともに予約が半年先まで埋まっているとか。オーナーのアリシア=グリーンはご存じないのですか?」


 マジぃ?

 創設者のわたしが知らない何かが起こっている……?

 あんな危険極まりないアスレチックのどこにそんな話題性が?


「この城では、半年先まで予約でいっぱいの温泉と同じ効果の温泉に入り放題です。しかも並ばずに1000人まで同時に入浴可能ですからご安心ください」


「えっ、広くないですか⁉ この城、そんなに大きくないような……」


 調印式のために作ったお城、という見た目の通り、とてもこじんまりとしている。そもそも200人のお客さんが寝泊まりするような大きさでもないですよね。というつっこみを忘れていましたよ。


「アリシア=グリーン。見た目に惑わされてはいけません。目で見えているものがすべてではありません」


「というと……?」


【それはおいらから説明するでやんす】


 お、ヤンス(ウルティマ)?

 ひさしぶりに口を開いたね。ずっとニコニコ顔で黙っていたから、もう口がきけなくなったのかと思ったよ。


【国交樹立は何も、おいらたちだけにメリットがあるわけではないんでやんすよ。ちゃんとパストルラン王国の側にもメリットがある交流でやんす】


「というと……?」


「技術提供ですよ」


 技術提供……?


【ノーアさんには、『ウルティムス』流の空間の使い方をレクチャーしたでやんす】


「まさか異空間……」


 やだ! わたし、また5歳も年を取っちゃうの⁉


「アリシア=グリーンが心配しているようなことは起こりませんよ。安心してください」


【ああ、時間の流れの話を心配しているでやんすね。あの時は申し訳なかったでやんす……】


 ヤンス(ウルティマ)がすまなそうに頭を下げる。


「良いんですよ。もう過ぎてしまったことですし……。なんとか、ほら、わたしも元気にやってますから!」


 だいぶね、中身も年齢相応に成長してきたんじゃないかなってね♪


『ふむ……』


 なに? スーちゃんなんか文句でもあるの⁉


『いいや? 成長していると思えば成長している。まだまだだと思えばまだまだ。人とはそういうものだろう』


 なんか……何言っているのかわかんない……。

 でもわたし、成長していると思っているから成長している! ヨシ!


【空間を歪ませることも、時の流れを変えることもおいらたちには可能でやんす。だから、『この城の空間は広く、時の流れは周りと同じ』に、そういうことが可能なんでやんすよ】


 ちょっと誇らしげだ。

 でもすごい……。

 自由自在なんだ。


「自分自身以外の時の流れをいじることができるようになり、私も1つ賢くなりました」


 満足げな様子のノーアさん。


「そ、そうすか……。これ以上賢く、ですか……」


 ホントどこに向かってるの、この人……じゃなくて『賢者の石』さんは……。

 あれ? でも時間をいじれるようになったってことは、死の概念も……?


「それについては、まだこれから探究を重ねていくつもりです」


 そうですか……。

 すごく気になる……。


「アリシア=グリーンが望むのなら――」


「ノーアさん! わたしはまだ、大丈夫なので!」


 大声で制止し、ノーアさんにその先の言葉を口に出させない。

 まだ待ってほしいんです。

 もう少しだけ時間をください。


「良いでしょう。それもまた、アリシア=グリーンの選択です」


 とくに気にした様子もなく、『ウルティムス』のみなさんのほうに向きなおる。


「話がそれてしまいましたね。そう、ここはパストルラン王国が誇る良質な温泉に入り放題の施設です。こちらはいつでもどなたでも無料でご利用いただけます。[アリシア]コインは不要です」


 『ウルティムス』のみなさんがうれしそうな声を上げる。

 たぶんまだ温泉が何かをわかっていなさそうだけど、ノーアさんのプレゼンによって、「とにかく何か楽しいことが待っている」ということだけは伝わったらしい。


「それではこれから温泉の正しい入り方について説明をしたいと思います。みなさん、私についてきてください」


 ノーアさんがポケットから手ぬぐいを取り出し、肩にかける。

 そうね、温泉といえば手ぬぐい……じゃなくて!


「ちょっと! ダメですよ! 温泉は男女別!」


「アリシア=グリーンはおかしなことを言いますね。私に性別はありませんし、『ウルティムス』方々も仮初の体、性別はありませんよ。それに温泉は1つしかありません」


 なんでわたしがおかしなことを言っているみたいになってるの⁉


「ダメゼッタイ! 男子禁制!」


 わたしの目が黒いうちは、絶対に混浴なんて認めませんからね!


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