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第58話 アリシア、超絶儲け話に耳を傾ける

 そしてノーアさんによる取引、主に食事関係のコインレート決定作業が続く。


「はい、バナナクレープは1[アリシア]コインです。アイスチョコレートバナナクレープですと2[アリシア]コインです。モモはサンプル品で、今は季節ではないので取り扱っておりません。ご了承ください。そうです、フルーツは季節によって収穫できるものが違うのです」


 丁寧な対応だなー。

 取引のことだけじゃなくて、この国の説明や常識的なこともちょこちょこ挟んで伝えている。しかも5人くらいを相手に並行して。


「先ほどのナゲットクンは、次の食事の時に提供します。衣食住は最低保証となっていますから、[アリシア]コインは不要です。あくまで嗜好品などの取引にご使用ください」


 あー、そういうルールなんだ。

 嗜好品ね。

 だからアイスとかレモンスカッシュとか。なるほどなー。


「そちらの日乃本酒1瓶は5[アリシア]コインです」


 日乃本酒のレート高っ!

 あ、即決で買うんですか⁉

 ま、毎度ありー!


「って、だからノーアさんってば!」


「何ですか? アリシア=グリーン。手が止まっていますよ」


「だから、さっきの話の続きです!」


「わかりました。聴きましょう」


 ようやくノーアさんが手を止めて、わたしのほうに視線を向けてくれた。

 これで話ができる。


「あのですね……。アイスやレモンスカッシュに1[アリシア]コイン、日乃本酒に5[アリシア]コイン。まあ、レートは良いです。それはノーアさんが決めることになっているので、別に口を挟むつもりはないです」


「ではなんでしょうか?」


「大臣。外の草刈りが終わったぞ!」


 また邪魔が……。

 今度はスレッドリーだわ。


「指示された通り、『剣聖』スキルを使ったら一瞬だった。大臣、さすがだな」


 少し息を切らしているけれど、なぜだかうれしそうに笑いながらこちらに向かって歩いてくる。


「それは良かったです。草刈りとはある意味では『狩り』とも言えます。、目標物を見極めて、素早く刈り取る。これは修行の一環としてもとても良いのではないかと存じます。ぜひ毎朝の鍛錬にご利用ください」


「おう! 一網打尽にしてやるぞ!」


 草刈りが修行?

 そんなわけないじゃない……。

 スレッドリー……絶対騙されてるよ。

 ナタヌの時と違って自分の修行をしているだけだからなのか、お給金ももらえないし? 人を見て対応を変えて……さすがノーアさん。


「それでは次の鍛錬としまして、ぜひ殿下にお願いしたいことがございます」


「おう、なんだ?」


「スークル様からお聞きしたのですが、殿下は天井の煤払いがとてもお上手だとか」


「神殿では……やったな。あれか……」


 出た! 粘着蜘蛛男!

 ちょっと嫌そうにしてるのがウケる。

 あの時は燃やされて大変だったもんね。


「天井に張り付いて動き回るというのは、とても良い鍛錬になります」


「ほう、そうなのか⁉」


 スレッドリーが食いつく。

 ホントに騙されやすい人だよねー。そこが……見ていて飽きないんだけどね。


「はい。普段、敵と相対する時の視点は、目の高さです。空を飛んだりしない限り変わりない」


「そうだな?」


「人に空を飛ぶことはできませんので、どうしても視点が固定されてしまいます」


「そうだな?」


「ですが、翼を持たない一部の動物はどうでしょうか?」


「動物?」


「はい。木や壁を伝い、相手の視線を避け、得物をじっと待つ。そうして戦いを有利に運ぶ術を身につけています」


「たしかにな……」


「殿下にも広い視点、異なる視点を身につけていただきたい。そうすることでこの先いかなる敵が現れようとも、戦闘を有利に進めることができるようになるでしょう」


「戦闘を有利に……。どんな場面でもアリシアを守れる……」


「まずは天井の煤払いです。上から敵を見下ろす。その視点をマスターしていただきたい」


「おう、わかった! すぐに行ってくるぞ!」


 チョロい……。

 完全に良いように使わているじゃないのさ。

 うれしそうに粘着テープを体中に巻きつけちゃって……。またナタヌに燃やされなきゃ良いけど……。


「ところでアリシア=グリーン。話があるのではなかったですか?」


 おお、そうだった!

 またナチュラルに割り込まれていた!


「そうですよ! いやだからですね……。コインレートは良いんですよ。お任せします。そのー、コインで交換する品物は、なんでわたしの、というか『龍神の館』の持ち出しなんですか⁉ 仮に売上金としてそのコインをもらっても、パストルラン金貨や銀貨になりませんよね⁉ 24時間で消えちゃうし!」


 おかしいでしょ!

 お店だけが大損しているじゃないですか!

 いや、わたしがポケットマネーで補填しているから、わたしだけ損しているんですけど⁉


「消えると言ったのはここでの取引を活発化させるため、便宜上の話です。もちろん、私の頭の中にはすべての取引履歴は残っています。いずれ、しかるべき時に清算をしますからご安心ください」


「しかるべき時……?」


「はい、いずれ。心配しなくても大丈夫です。私にかかれば[アリシア]コインはパストルラン金貨の……ざっと10000倍くらいの価値を持たせて流通させることも可能です」


 いちまんばい⁉

 えっ、どういうことですか⁉


「私がそうと決めればそうなるということです」


 何の答えにもなっていない! それなのになぜかめっちゃ説得力がある……。

 やはりこの国を陰で動かしていそう……。ノーアさんって怖い……。


「はい、それではお客様がお待ちですから、取引を再開しますよ。アリシア=グリーン、しっかり働いてしっかり稼いでください」


「は、はい!」


 いちまんばいのきんかがてにはいるならわたしがんばるよ。


 ……でもホントかな?


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