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第57話 アリシア、ノーアさんに振り回される

「そちらのアイスクリームは1[アリシア]コインです」


 はい、毎度ありー。


「そちらのパンケーキも1[アリシア]コインです」


 はいはい、毎度ありー。


 って、ちょっと待って?


「あのー、ノーアさん……」


「そちらのガーランドレモンスカッシュも1[アリシア]コインです」


 毎度ありー。


「じゃなくて! ノーアさんってば!」


「何ですか、アリシア=グリーン。今、見てわかるように、『ウルティムス』のみなさんが嗜好品を買い求めようとして長蛇の列ができています。お客様をお待たせしてはいけませんよ」


 それはたしかにそう。

 でもね、納得できないことがあるんですけど!


「もしかしてコインレートに不満がありますか? ですがそれは聴けない相談です。ここでの取引は私がすべてレートを決めるルールになっています。いかにアリシア=グリーンといえども、このルールには従ってもらいます」


「それは良いんですけどー。それよりももっと根本的な問題が引っかかっているんですよ!」


 もっともっと基本のことです!

 その根本的な問題について問いただそうと、ノーアさんに詰め寄ったその時だった――。


「ノーアさん、廊下のお掃除終わりました。次はどこを掃除したら良いですか⁉」


 いつもの大きな杖の代わりにモップを手にしたナタヌが近づいてくる。


「お疲れ様でした。次は各部屋のベッドメイクを。いえ、その前に少しお待ちください。ナタヌさん、こちらへどうぞ」


「はい?」


 ナタヌがかわいく小首を傾げる。

 ナタヌは今、トレードマークのだぶだぶのローブを脱いで、エヴァちゃんたち(『ウルティムス』のみなさん)と同じメイド服を着用中。


 つまりピッチリバッチリなのだ!


 うーむ、さすがナタヌ……ひさしぶりに見ると……成長著しい! はっ⁉ もしかして、将来的にはラダリィを超える逸材なのでは⁉ 美少女だけど幸薄そうな顔も一部では絶大な支持を受けそうだし? やはりここはわたしのプロデュースでアイドル化を……。ギルドの広告塔に使って、冒険者を増やす活動をするのはどうだろ⁉ いや、かなり良いのでは⁉ 各地のギルドから資金を引っ張れそうだし、永続的に儲けられそう!


 うむ、良い!

 とても良い!


 スーちゃん、このカメラで写真撮っておいて!

 今のうちに宣材写真(絵画)のために素材を用意しておくのです!


『なぜオレが……』


 だってわたし、こっちで食事を提供するのに忙しいんだもん。暇そうにしているお義姉ちゃんが写真くらい撮ってよ!


『しかたないな……。ナタヌ、ちょっとこっちを向け』


「はい?」


 と、不意に呼ばれて振り返ったナタヌの姿をありえない速さで連写していく。

 さすが女神様の御業……。

 ただの押しに弱い人じゃなかったわ。


『誰が押しに弱い人だ! オレは女神だぞ! 言うに事を欠いてオレを人扱いしやがって。もう手伝ってやらんぞ!』


 わーわー、ごめんなさいってばー。

 やさしいお義姉ちゃんがいて、わたしはしあわせ者だなー。お義姉ちゃん大好き♡

 でも怒るところはそこなんだ?


『現金なヤツめ……』


 ため息を吐きながらも、いろいろな角度、いろいろな表情のナタヌをカメラに収めていく。

 スーちゃん、凄腕のカメラ職人だー!



「アリシア=グリーン。写真はもう大丈夫ですか?」


「あ、はい! あとは自然な姿を……スーちゃんが撮影してくれると思うので話を続けてもらって大丈夫です!」


「そうですか。ではナタヌさん、改めてこちらへどうぞお越しください」


 一連の流れが終わるまで静かに待ってくれたノーアさんだったけれど、話が終わったのを確認した後、再びナタヌを呼び寄せた。


「廊下の掃除をしてくれたナタヌさんへのお給金です。2[アリシア]コインを進呈します」


「わ~い! ノーアさん、ありがとうございます! ふふふ。アリシアさんが2人も増えちゃった♪」


 ピカピカのコインを頭上に掲げて、祈るように頭を下げている。


「ナタヌ……喜び方がおかしいよ……。それ、使わないと今夜0時に消えてなくなるからね? わかってる?」


 コレクションはできないアイテムだからね?


「わかってまーす。いっぱい眺めたらちゃんと使いますから! アリシアさーん♡」


 コインにキスしてるけど、ホントにわかってるのかな……。

 まあ、かわいいから良いけどね♡

 そうだ! コインが消えて泣いているナタヌも見てみたいね♡


「ナタヌさん、それでは次は、各部屋のベッドメイキングをお願いします。部屋の掃除自体は済んでいますから、シーツなどを整えるお仕事です。2人で協力して対応したほうが効率が良いので……スークル様を連れて行ってください」


「は~い」


『お、オレか⁉ オレは女神だぞ!』


「スークル様、いきますよ~」


『お、おう……。じゃあいってくる』


 ナタヌ強い……。

 いや、スーちゃんが押しに弱すぎるだけか。

 それにしてもノーアさん、しれっとスーちゃんに仕事させたな……。『賢者の石』恐るべし。


 あ、スーちゃん!

 ついでにお仕事中のナタヌの写真もよろしくねー♪


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