目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第56話 アリシア、ヒエラルキーについて学ぶ

「[アリシア]コイン、および取引に関するルールは5つです」


-------------------

1. 取引には必ず[アリシア]コインを利用する。

2. その取引に対しての価値は、私(ノーア)が決定する。

3. 午前0時(24時間に一度)に、この城に存在する全員に対して、5[アリシア]コインを配布する。

4. [アリシア]コインは労働による対価、または、私(ノーア)の判断で追加配布を行うことがある。

5. [アリシア]コインは午前0時を過ぎると、前日に所持していた分は消滅する。

-------------------


 うーん。

 普通のお金とはちょっと違うんですね。

 すべてを管理しているのがノーアさん。そのノーアさん次第で、コインを追加配布してもらえることがある、と。


「でもなんで午前0時を過ぎると消滅するんですか?」


「純粋に取引を楽しんでいただきたいからです」


 コインが消滅しないで残っていると、取引が純粋じゃなくなるってことですか? わりと普通のことでは?


「みなさんには、その時にほしいものやほしい事柄、情報などをその場で手に入れてほしいと考えています。また別の観点から、コインを貯め込むことで、みなさん同士のトラブルを引き起こしたくないという思いもあります」


 お金を貯めるとトラブルになる?

 ぜんぜんピンとこないかな。お金はあればあるだけ、心も生活も潤うと思うけど?


「アリシアさん! 私、わかっちゃいました! きっとこういうことですよ。私が説明しても良いですか?」


「うん、じゃあナタヌの話を聞こうかな?」


 ナタヌが何かわかったらしい。


「はい。まずは私のことを見てください」


「うん、見ました」


「それから殿下を見てください」


「見ました」


「なんだ? 俺の話か?」


 スレッドリーはわたしが見ただけでうれしそうにしなくてよろしい。

 今ちょっとナタヌの話を聞いているから静かにお座りしていてね?


「どうですか? 何かわかりませんか⁉」


 ……えっ、何にもわからないけど?

 ナタヌだね、スレッドリーだね、としか……。


「お金をあまり持っていない私はかわいそうに見えて、お金を持ちまくっている殿下は憎らしく感じないですか⁉」


「え……うーん? 別にナタヌもぜんぜんお金を持っていないってわけじゃないし……」


 一般的に見れば、どっちもわりと資産を持っているほうになるんじゃないの?

 大きめの土地を持っている領主様とかを除けば。


「アリシア=グリーン。ナタヌさんが言いたいのは、資産の有無によって人間社会にはヒエラルキーが存在するということです」


 ノーアさんがフォローに入ってくれる。


「ヒエラルキーというと、階層構造的な意味ですよね? お金を持っている人のほうが偉い、みたいなことですか?」


「概ね理解は合っています。今回コインの管理は私が1人で行い、取引に関してもすべて監視します。しかし一般社会においてはそうもいかない。当事者間での取引の際には、資産を多く持っている者のほうが取引を優位に進めることができるものです」


 まあそれはそうですよね。

 最後お金にものを言わせれば、だいたいのことは思い通りになりますし?


「ある者が資産を貯め込み、高利で貸し付けを始めたりしたらどうなるでしょうか?」


 えーと、借りる人と貸す人に分かれる?


「そこには明確な上下関係が生まれることになります」


 はいはい。なるほどねー。

 借りたほうは貸したほうに頭が上がらなくなる。

 まあそうですね。


「貸し付けている者と借り受けている者の間で何らかの取引が発生したとします。いかに不利な条件で提示されたとしても、借りている者はそれを飲まなければいけない場面も出てくるというのが容易に想像できますね」


「不平等条約だー! でも実際にはそうなっちゃうかも……」


 だってさ、「この取引に応じなかったら、もうこの先お金は一切貸さないぞ。貸した分も今すぐ返せ」なんて言われたら、すごく困っちゃうよね。その時は一時的に損することがわかっていても、取引に応じてしまうかもしれない……。


「それが繰り返されることで、貸し付けを行っている者の資産はさらに増え、借りている者たちの資産は減っていく。それが始まってしまったら最後です。もうその関係性が変わることは二度とないでしょう」


「うーん、それを聞いちゃうと、たしかに午前0時で必ず資産がリセットのはすごく良さそうに感じますね……」


 ノーアさんって天才⁉

 ああ、天才だったね。


「あくまでこの城の中でのみ、適用できるルールです。一般社会ではこういった極端な政策は取りづらいものです。覚えておいてください」


「はーい」


 まあその理由もなんとなくわかります。

 これまで資産を貯め込んでいた人たちからしたら、そんなルール変更は改悪でしかないし、そんなのに賛成する意味はありませんからね。まあ、実際に起きたとしたらわたしも反対すると思うし! でもこの城の中ではみんなが資産を持っていないフラットな状態。だから新しい制度が適用できる!


 なんか楽しくなってきたかもー!


「つまりどういうことだ……?」


「どういうことなんでしょう?」


 うん、わかっていない2人がいましたね。

 なんだったら、『ウルティムス』の人たちのほうが理解してそうな顔をしていますけど?


「わかりやすく言いますと――」


 言いますと?


「支給されたコインはその日のうちに使いなさい。使ったもの勝ちということです」


 ざっくりした指示!

 あ、2人とも頷いている。理解できたっぽい!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?