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第85話 アリシア、真相に近づく

『イニーシャがシャーレ殿の夢の中に侵入した目的は……』


 目的は?


『ただの興味だろうな』


 興味?


 どういうこと?


『気になったのだろうよ』


 だから何が?


「ウルティムスのみなさんの存在が気になったのではないでしょうか」


 ……存在?


『オレたちはこの地に根差した女神なんだ。この土地で信仰を集め、女神として存在しているわけだな。だから国交がなければ他国の情報を得ることはないんだよ』


「女神様でも知らないことはあるんですね。そういうものなんだー」


 何でも知っていて何でもできる。

 それが女神様なのかなって思っていたけれど。


「何でも知っていて何でもできる。それは私です」


 はいはい、たしかに『賢者の石』ですから、ノーアさんがそう思うってことはそういうものなんでしょうね。


 あれ……つまりノーアさんのほうが女神様たちよりも上の存在?


『そこに上下はないよ。そもそもお前たち信徒とも上下関係があるとは思ってない。女神は信仰を集め、信徒とともに在る。それだけだからな』


 なんかとっても良いことを言っているっぽい!

 すっごい女神様っぽくていいね!


『ぽいと言われても、オレは女神なんだが……』


 照れ隠しに親指で頬をはじかないで。

 イニーシャ様の癖がうつってるから!


「つまり話をまとめると、『賢者の石』たる私が頂点ということになります」


 ノーアさん……。せっかくスーちゃんが良い感じに話をしてくれたのに、全部ぶち壊しましたね……。上下関係がないって話はどこに行ったの……。


「女神様たちにできないことも、私にはできるということです。アリシア=グリーン、どうですか?」


 どうと言われても……。


「気になってきましたか? 今なら私の工房に無期限、無料で滞在することを許します」


「いや……」


「特別に『アイコ・モフり放題券』も付けましょう」


「それは……」


 めっちゃ魅力的なお誘いですけれども、アイコさんの意思確認は?

 違う違う、そういう特典みたいなので釣るのはやめてください!

 まだ今は考える時じゃないんですってば!


『ノーア。本題からズレているぞ』


「失礼しました。イニーシャ様の話でしたね」


『そうだ。イニーシャは、とくにシャーレ殿を気に入ったのだろうな。この柔らかでいてストイックな波長が合ったのかもしれない』


 あー、びっくりした。

 不意打ちで勧誘とか、心臓に悪い……。

 ナタヌ、そんな泣きそう顔で見ないでよ。わたしは急にいなくなったりはしないからね?


「シャーレ殿の夢の中に入り込んだのはおそらくそういった理由からでしょう。しかし、問題は別のところにあります」


 別のところ?


「イニーシャ様が、どのようにして『ウルティムス』の存在を知るに至ったのか」


 ああ、そっか。

 さっきの話からすると、国交も結んでいない他国のことは知るわけがないんだったよね。


【それについてはおいらが説明するでやんす】


 それまで静かに話を聞いていたウルティマさんが割って入ってくる。


【おいらが誤った情報をみなさんに伝えてしまったことで混乱させてしまったでやんす。まずはお詫びを】


 誤った情報ってなんだろう。


【おいらたちはパストルラン王国と国交を結ぶべく、対話の方法を探っていた。それはすでに伝えたでやんすよね?】


「以前、あの異空間の中でお聞きしましたね」


 確かに聞いた。

 それで結界に穴を空けて力のある者を呼び寄せようとしたんだっけ?


【いち早く反応されたのが先ほどから話題に上がっているイニーシャ様なのだと思われるでやんす】


 思われる?


「そっか、ウルティマさんがイニーシャ様と接触する前に反乱分子のみなさんに捕らえられちゃったから……」


【まさにそれがおいらが伝えた誤った情報でやんす】


 どういうこと?


【ここに来てから確認したでやんすが、イニーシャ様とあの子たち――反乱分子と呼んでいる者たちは接触なんてしていなかったでやんすよ。最初にイニーシャ様と接触したのはシャーレだったということでやんす】


 まさかのシャーレさんとイニーシャ様が先に出会っていた⁉


【私はイニーシャ様と出会っておりません……】


 と、すぐに、布団から顔半分だけこんにちは状態のシャーレさんが否定する。

 どっちの言っていることが正しいの?


【ここからはおいらの推測になるでやんすが、シャーレとイニーシャ様は接触したと考えているでやんす。シャーレの記録の中で不自然に情報が欠けている状態を確認しているでやんす】


 不自然に情報が欠けている状態?

 それはすっごく怪しい……。


【最初はパストルラン王国の結界に接触した影響でそういうこともあるだろうと軽く流していたでやんすが、おそらくその時にイニーシャ様と接触し、イニーシャ様の手によって記録が改ざんされたのだと、今は考えているでやんす】


「イニーシャ様はシャーレさんと出会い、何らかの話をした後、記録を改ざんして、夢の中に入り込んだ、と?」


【おそらくその流れで合っていると思うでやんす】


【ぜんぜん覚えていません……】


 記録を改ざんされちゃっているから、会ったこともなかったことにされているってことね。


『いかにもイニーシャがやりそうなことだ。おそらくウルティマ殿が推測した通りなのだろうと思うよ』


「では最後の問題はイニーシャ様ご本人に直接尋ねるしかありませんね」


 最後の問題?


「シャーレ殿とどういった会話がなされたのか。話し合いが平和的に行われ、夢の中に入り込んだのか。それとも物別れに終わってだまし討ちのような形でそれが行われたのか」


 でもシャーレさんの記録を消しているんだもんね。

 なんかちょっと嫌な予感……。


「アリシア=グリーン。それでは確かめに行きましょうか」


 えっと、わたし……ですか?


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