「そうです。シャーレ殿の夢の中に侵入したのは、イニーシャ様ご本人の意思によるものだと私は考えています」
ノーアさんがほっぺたを親指ではじいている。
イニーシャ様の癖、なんでしたっけ? 左手の親指で左の頬をはじくんですか? ヘンなポーズ……でも女神様がやると美しく見えるのかな? わからない。
『オレもノーアの意見に賛成する。よく考えればイニーシャはそういうヤツだった……』
スーちゃんも同じようにほっぺたを親指ではじいて見せる。
んー、あんまり美しくないね。
『誰が美しくないって⁉ オレは女神だぞ! もっと敬え!』
んー、お義姉ちゃんって、『美しい』っていうより、『かっこいい』ほうだからなー。そのポーズもなんだか勇ましく見えるよ?
≪前世のデータベースを検索。ヒットしました≫
おお、エヴァちゃん、何が見つかったの?
≪カルト的な人気を誇った「カンフー映画」という映像作品に登場する主人公が取るポーズに酷似しています≫
カンフーエイガ?
≪記録映像をシンクロします≫
お、おお……。
これがカンフーエイガ!
ちょっと映像が荒いけれど、素手でパンチしたりキックしたりする武術なのね。
おお、なんかちょっとかっこいい。
あ、これかー。たしかにこのポーズ、ノーアさんとスーちゃんがやっていたのに似ているね。
≪おそらく、イニーシャ様はカンフーの使い手だと思われます≫
そうなんだ?
知恵の女神様なのに武術を?
『ああ、イニーシャはオレよりも力が強い。もし戦いになったら、先頭に立って指揮を執るタイプだな』
知恵とは何か……。
でも武術っておもしろいね。
わたしもこういう戦闘スタイルを取り入れていこうかなー。
『王子よ。死んでしまうとは情けない』
「俺は気づかない間にまた死んだのか……?」
スーちゃんに声をかけられたスレッドリーが、キョロキョロと辺りを見回している。
「ちょっとスーちゃん! まだわたし、何もしてないですからね⁉」
戦闘スタイルを取り入れようかなって言っただけで、まだスレッドリーを実験台にしたりしてないもん!
このあと映像をじっくり研究した後なんだからね!
『どうせすぐ死ぬだろ』
そういうことを女神様が言っても良いんですか⁉
信徒を守るのが女神様なのでは⁉
『信徒の信仰を集めるのが女神の存在意義だよ』
そのためには信徒にやさしくしないといけないのでは?
『やさしくしているさ。いつも瀕死のスレッドリー殿下を復活させているだろう』
まあ……そっか……。
『オレはいつだってやさしいのさ』
お義姉ちゃんは面倒見が良いし、やさしい……。
それは否定できない。
『だろ?』
「そろそろイニーシャ様の話に戻ってもよろしいでしょうか? やさしいスークル様」
『おう、オレはいつだってやさしいぞ』
なぜだかスーちゃんの機嫌が良さそう……。
そうだった。
なんでイニーシャ様がシャーレさんの夢の中にいるのかって話だったよね。
しかもご自分から侵入されたって?
「つまりイニーシャ様とはそういう方なのです」
そういうとはどういう……。
「単純に興味を持たれたのでしょう」
『ああ、オレもそうだと思う。そう思うとすべてがしっくりくるんだ』
また2人の中で話を進めるんだからー。
いつの間にかシャーレさん(ネコミミ美少女)がすっぽり掛け布団をかぶって隠れちゃっているじゃないのさー。
「シャーレさん、シャーレさん。イニーシャ様が中に入ったと言っても、夢の中の話ですから、隠れなくても大丈夫だと思いますよ」
「そう……でしょうか……」
お耳がぴょこん♪
「わたしはお会いしたことがないですけれど、イニーシャ様も女神様ですから、誰かに危害を加えたりなんかはしな……たぶんしないと思います!」
リンちゃんみたいに精神的にダメージを与えてくる女神様もいるから、絶対ないとは言えない……。
『ああ、それはオレが保証するよ。イニーシャはシャーレ殿に危害を加える目的で夢の中に侵入したわけではないよ。安心しなさい』
「そう……ですか……。スークル様がそうおっしゃるのなら……」
さらに顔が半分ぴょこり♪
「危害を加えるわけじゃないとしたら、何の目的なんですか? ノーアさんとスーちゃんにはある程度予測ができていそうですけど?」
早いところわたしたちにもわかるように説明してくださいよー。
「スークル様、どうぞ」
またそこで譲るんかーい。
『ああ、イニーシャが夢の中に侵入した目的は……』
目的は?
『ただの興味だろう』
興味?
どういうこと?